第47話:来訪者あり

 ――そして、5日が経過した。

 俺が暮らす予定だった休憩所、もとい家の修繕も終わっており、今では一人暮らしには十分な広さの自宅で寝泊まりしている。

 門番としてもすでに働いており、日中は俺が門番をして、夜だけは交代制で自警団にお願いしている。

 魔獣の進化という珍しい状況に巻き込まれたウラナワ村周辺の森は現在、生態系が一時的に崩壊している状況だ。

 気持ちを引き締めて仕事に取り組んでいたのだが……。


「うん、平和だな」


 生態系が崩壊した事で、森を新しく縄張りとした魔獣がやって来ると予想していたのだが、何故かそうはならなかった。

 しかし、よくよく考えてみるとそれは当然の結果なのかもしれない。

 その理由として挙げられるのが、デンの存在だ。

 デンはSSSランクの魔獣であり、ここでは俺の影の中ではなく普通に村の中を歩き回っている。

 影の中ではその気配を完全に断つ事ができるので、丸一日を影の中で暮らしていたジーラギ国の時とは話が変わってくるのだ。


「あの時は普通に魔獣もジラギース近くまでやって来ていたからなぁ。デンがいたら近寄らないって気づいてたら、影の中からちょこちょこ出してやれたのに」


 そんな独り言を呟いていると、俺の気配察知に何かが引っ掛かった。


「……こんな森深くの村に、誰だ?」


 魔獣ではなく、人の気配。

 最初は野盗かと警戒したが、その数は二つと少なく、周囲に潜んでいる気配もない。

 それでも警戒しておく事に越したことはないと、ボロボロの剣の柄に手を添えながら街道に睨みを利かせる。

 そして、二つの人影が見えてきた。


「…………あれ? あれって、もしかして?」


 見覚えのあるガタイの良い茶髪の男性に、美しく長い金髪を揺らしている女性。

 あちらからも俺が見えたのか、女性の方が大きく手を振りながら駆け出してきた。


「――レインズせんぱーい!」

「エ、エリカ!? それに、ガジルさん!!」


 そう、ジラギースで国を出るようにと助言をしておいた二人が、まさかサクラハナ国に、しかもウラナワ村にやって来るとは、夢にも思っていなかった。

 エリカは勢いそのままに俺に突っ込んでくると、ギュッと抱きしめてくる。


「会いたかったですよ、レインズ先輩!」

「お前、どうしてここにいるんだ?」

「国を出ろと言ったのは、先輩ですよね?」

「確かに言ったが、追い掛けてくる必要はなかっただろう。ガジルさんもですよ」


 エリカの後方からゆっくりと歩いていたガジルさんも追いついてきたので、そちらにも苦言を呈す。


「がはははっ! 久しぶりだな、レインズ!」

「……はい。まだ数日しか経っていないのに、とても久しぶりに感じます」

「私はどうですか、先輩!」

「はいはい。エリカも久しぶりだよ」

「なんか、私の扱いが酷くありませんか!?」


 このやり取りも、なんだか久しぶりだ。

 体を離してくれたエリカの頭を軽く撫でながら、二人にどうしてここに来たのかを訪ねてみた。

 すると、答えはとても簡単なものだった。


「お前がジラギースを発ってから、俺たちも出国の準備を始めたんだ。それで、アクアラインズでお前の情報を集めていたところ、冒険者? のレミーって奴が教えてくれたんだよ」

「おぉっ! レミーさんか。まさか、そこでガジルさんたちと繋がるとはな」

「レインズと移住者を探していた嬢ちゃんをサクラハナ国に乗せたって聞いてな、俺たちも追い掛けてきたってわけだ」


 人と人との繋がりってのは、大事にするもんだな。

 ……それにしても、どうしてエリカは少し不機嫌そうな顔をしているんだろうか。


「ねえ、先輩。今の話に出てきたレミーさんって人とは、どういう関係なんですか? それに、移住者を集めていた人も女性ですよね?」

「お前、何を怒っているんだ?」

「いいから答えてくださいよ!」


 おいおい、マジでどうしたんだよ。感動の再会はどこにいったんだ?


「レミーさんとはたまたま知り合っただけだよ。船の護衛をして、知り合いになれたんだ。移住者を集めていた女性ってのは……あぁ、ちょうど顔を見せに来てくれたみたいだな」


 門の方へ振り返ると、中からリムルとギレインの姿が見えた。

 俺が門の前で話をしていたから、ギレインを連れてきたのかもしれない。


「レインズさん!」

「おいおい、レインズ。これはどういう事だ? 見た感じ知り合いみたいだが?」

「ジーラギ国にいた頃の同僚と上司です。リムルには軽く話した事があっただろう? 俺が友人と呼べる人が二人だけいるって、その二人だ」


 簡単にではあるが二人を紹介すると、ギレインは安堵の表情を浮かべている。

 まあ、いきなり見ず知らずの人物が訪ねてきたら警戒するのは当然か。


「そういう事なら、レインズは二人を村長に紹介したらどうだ? わざわざこんな場所まで来てくれたんだ、二人は泊まっていくんだろう?」

「泊まるというか……もしよければなんだが、俺たちも移住を希望しているんだ」

「えっ? ガジルさん、それは本当なんですか?」

「そうじゃなきゃ、わざわざ追い掛けて来ないっての」


 言われてみればその通りなのだが、俺としては嬉しい限りだ。

 ガジルさんの実力は俺以上だし、エリカも十分戦力として数えらえる……って、何をしているんだ?


「私はレインズ先輩の後輩で、働いていた、エリカと言います」

「私はウラナワ村でレインズさんのをしている、リムルと言います」

「「……どうぞ、よろしく!!」」


 ……えっ? いったいどうしたんだ?

 二人とも笑顔なんだが、纏っている雰囲気は穏やかではないものを感じるんですけど?


「……これは、修羅場だな」

「……あー、レインズ。さっさと行ってこい。こっちは俺が変わってやるから」


 ガジルさんの呆れ声に続いて、ギレインがニヤニヤしながらそう口にする。

 何やら面倒な予感しかしてこないが、俺はリムルも一緒になって二人を村長の屋敷へと案内した。

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