第14話 サリーナの真実

 

 ◇◇◇


「サリーナがダルメール王の娘ではない?それは一体どういうことだ?」


「アレクサンドル様もお気付きになったのではありませんか?ダルメール国王と正后の産んだ姫達に、サリーナ様と似たところはおありでしたか?」


「いや、それはまぁ、美しいサリーナとは似ても似つかない存在ではあったが。しかし、サリーナの母上は国外から連れて来られたと聞いている。美しかった母親に似たのでは?」


「違うのです。子供は母親似、父親似と申しましても、必ず両方の特徴を同じだけ受け継いでおります。しかし、サリーナ様にはダルメール王国の民の特徴が全くございません」


「そんな、じゃあ、私は一体……」


「困ります!キル国王!」


 そのとき、バリケードで封鎖されている後宮の通路から厳しい制止の声が響いた。


「サリーナ!サリーナ!いるんだろう!?」


(キル国王!?サリーナに貢いでいたと評判になっていた愚王ではないかっ!)


 アレクサンドルは表情を険しくしたが、すぐにあることに気がついた。


(サリーナと、似ている!?)


 美しいプラチナブロンドの髪にアクアマリンの目、穏やかで上品な佇まいも驚くほどサリーナに似ていた。


「これはいったい、どういうことだ!?」


「王子、私が母上から相談を受けて、キル国王をお呼びしたんです」


「ゲイン?」


 ゲインがキル国王の後ろからひょっこり顔を出す。


「ダルメール王国は、金髪に褐色の肌を持つ民が多いのに、サリーナ様はプラチナブロンドに透き通るような白い肌をお持ちでしょう?キル王国の民の特徴と似ているんですよ」


「そ、そうなのか?」


「加えて言えば、アクアマリンの瞳は、王族の中でも特に王家の血が濃い者に受け継がれると聞いたことがございます」


 エレンがゲインの言葉に深く頷く。


「それで、アレクサンドル様の言葉を思い出しましてね。サリーナ様はキル王国の王族の血筋ではないのかと、キル王国に問い合わせたんですよ」


 ゲインの言葉にアレクサンドルは目を見張る。


「なっ!サリーナを狙ってた男だぞ!?」 


 しかし、アレクサンドルの言葉にキル国王は小さく首を振った。


「私は、サリーナに求婚していた訳ではないのだ。ただ、サリーナに逢わせて欲しいと願っていた」


「それは、なぜですか?」


 それまで黙っていたサリーナの言葉に、誰もがキル国王の答えを待った。


「それは、君が私の娘だからだ」


「私が……?」


「ああ。間違いない。まさかとは思っていた。しかし、君の評判を聞いてから、逢って、確かめねばと思っていたんだ」


「どうして……」


「若い頃、私には恋人がいた。若く美しい彼女と私は心から愛し合っていた。結婚を申し込むはずだった。ところが、ある日彼女はこつぜんと姿を消して、どんなに探しても見つけることができなかった。まさか、まさか、ダルメール国王に連れ去られていたとはっ!」


「そう。そうですか。あなたが、お母さまの愛した人だったんですね」


 サリーナはポツリと呟いた。


「まだ小さかった頃、お母さまから聞いたことがあります。国に大切な人がいるのだと」


「アリーシャ……」


「サリーナの母上は?見つかったのか?」


 アレクサンドルはゲインに尋ねる。


「地下牢に捕らえたのは王と三人の姫達だけです。ハーレムにとらえられていた女性たちに、サリーナ姫の母君は名乗り出るようにと伝えたのですが。名乗り出るものはいませんでした」


「サリーナ、母君は……」


 サリーナは悲しそうに首を横に振った。


「お母さまとはもう何年も逢わせて貰っていませんでした。今どうされているのか。聞くのも、怖くて……」


「そうか。そうだな……ゲイン、その人たちに会えないだろうか?いま、どこにいるんだ?」


「帰国を希望する人は、すでに資金援助をした上で元いた国へ送り届けています。帰る家のないものや希望者は、我が国の国民として受け入れました。何人かはこの後宮にも保護されているはずですが……」


「後宮に?済まないが、残っている人をすぐに全員集めてくれ」


 ◇◇◇


「アリーシャ!」


 キル国王は大勢の女性の中からその人の姿を見つけるなり、駆け寄って抱きしめた。


「ジェームス?なぜここに?」


 抜けるように白い肌にプラチナブロンドの髪。瞳はサファイアのようにどこまでも深い青。サリーナの母であるアリーシャもまた、サリーナに良く似ていた。


 小さく華奢な身体とあどけない顔立ちは、とても一児の母とは思えないほど若々しい。しかも、髪を男のように短く刈り込んでいたため、一見すると美少年のようにも見える。


「アリーシャ!君がいなくなってからずっとずっと探してた!信じてた!きっと生きて逢えると、信じてたんだっ」


「ジェームス……」


「よく、よく無事でいてくれた……」


 泣き崩れるジェームスをアリーシャは困った顔で眺めていた。


「帰れるわけないじゃない。だって私は、15年もダルメールのハーレムにいたのよ?あなたの側になんて戻れる訳ないわ。あなたはとっくに王妃を迎えたんでしょう?」


「君以外に、私の王妃はいない……」


「まさか、誰とも結婚していないの?」


「当たり前じゃないかっ!君以外、誰を愛せるっていうんだっ」


 血を吐くような言葉に、アリーシャの目から涙がこぼれる。


「私も、私も逢いたかった!」


 アレクサンドルは二人の様子を見て胸をなで下ろした。


「生きてたんだな、良かった……」


「……お母様?」


「サリーナ……ごめん、こめんね。そばにいてあげられなくて、ごめん」


「お母様!お母様!!」


 抱き合って涙を流す三人を誰もがあたたかな目でみつめていた。

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