JKとジーグラス

今村駿一

第1話

(ホントどいつもこいつも)

 

 歩いているだけで避ける街の人達。

 高校2年生で制服姿なのに金色に近い茶髪、日焼けして黒い肌、ミニスカートに派手なネイル、そしてサングラスなんてかけている私の外見が怖い訳では無いと思う。

 今、物凄く怒っているのが原因だと思う。


 何で怒っているのかって? 

 

 だって


 私で


 シコっている奴多すぎでしょ!!






 数日前の事。


 夏風が涼しくなってきた夕方。

 凄く楽しみにしていたクラブのイベント前。

 家でしっかり準備をする。

 可愛いポロシャツにホットパンツ、お気にのアクセにガッツリネイル。

 よし、かわいい。

 鏡で自分の姿を確認する。

 タンスに置いてあるキャップを被ろうとしたその時、


 ガシャン


 隣にあったサングラスを落としてしまった。

 あーあ。

 壊れちゃった。

 これ気に入っていたのにな―。

 何とか直らないかな。

 そうだ!

 来栖に直してもらお―っと。

 私は中学の頃からの同級生、来栖良鳳の家に行く事にした。



 ピンポーン ピンポーン ピンポーン


「来栖―、いないの―?」

 せっかく家まで来てやったっていうのに来栖は出てこなかった。

 帰ろうとしたその時、

「あらっ、麗香ちゃん」

 来栖のお母さんが出て来た。

「ごめんなさいね、あの子今本屋に行っているから。部屋で待っていてもらってもいいかしら」

 何だ、出かけているのか。

「じゃあすみませーん、お邪魔しまーす」

 まだ時間はあるので待たせてもらう事にした。

 

 普通の民家の2階。

 夕日が差す室内。

 割と綺麗にしている来栖の部屋に入る私。

 お母さんが電気を点けてくれる。

「今コーヒーでも淹れるわね」

 そう言って下に降りて行った。

 普通の家。

 普通の部屋。

 なのだがここには1点違う所がある。

「相変わらずね~」

 押し入れを開けて呆れる私。

 そう。

 その中はよくわからない道具が並んでいて、何を作っているのかもよくわからない発明室になっているのだ。

 はぁ。

 ため息をついて閉める。

 来栖は中学で知り合った頃から発明オタク。

 昔は物凄く太っていたけど最近細身になり背も高いからまぁまぁ見栄えは悪くはない。

 ただダサいメガネをしていて服装はいつもオタクっぽい。

 それになんか私が話しかけるとニヤニヤして気持ち悪い。

 だから彼氏とかにするのは勘弁な奴だけど、家も近いし色々と便利なので私からこうやって来てやったりする事もある。

「早く帰って来いよ」

 勢いよく来栖のベッドに寝転がる私。

 ふと机の上を見ると割とお洒落なサングラスが置いてあった。

 何だ。

 これかけて行けばいいか。

 相変わらず気が利くね。

 私はそれを借りてクラブに行く事にした。



 クラブファイブスターにはもう人が集まりはじめていた。

「よう麗香ちゃん、貴方は今日も22時までだからね」

 馴染みの黒服店員さんから声をかけられる。

「はーい。あっ、今日はギャル付けしなくて良いから」

 可愛い私は人気者だろうけど今日はダメ。

「へぇ、お金持ちぃ」

 からかう様に笑う店員さん。

 だって憧れのDJイワノリが来るんだから余計な事はしたくない。

 友達すら連れてきてないんだから。

 あー楽しみ。

 しかし少し気になった事がある。

 さっき店員さんを見た時、サングラスの端の方に20、と数字が出てきた。

 何だろうコレ?

「よう麗香。今日はVIP来ないのか?」

 通りかかったVIP常連の髙山さんが声をかけてくれる。

「今日はいい。またね」

 あれっ?

 まただ。

 髙山さんを見るとサングラスの横に25、と数字が出た。

 何なの?

 ぐるっと周囲を見てみる。

 他の人を見ても何も数字は出ないのになぁ。

 まっ、何でもいいかぁ。

 私は気にせず楽しむ事にした。




「はぁ、DJイワノリかっこいい」

 今日は日曜日。

 ベッドに寝転がり昨日のクラブを思い出しにやける私。

 涼し気なそよ風が室内に入る。

 窓の外電線が揺れる。

 天気の良い日。

 穏やかな休日。


 ドタドタドタ


 穏やかじゃない階段の音が聞こえて来た。


 バターン


 乱暴にドアが開く。

「おい昨日サングラス持って行かなかった?」

 来栖が慌てた様子で私を問い詰める。

「あー借りたわよー」

 寝転がりながら言う私。

 良かったー、と言って脱力した様にその場に来栖は座り込んだ。

「あれそんなに大切な物なの?」

 寝転がりながら聞く私。

「そりゃそうだよ。久しぶりの大発明なんだから」

 少し怒った感じで言う来栖。

 大発明ねぇ。

「ところでこのサングラスなんか数字が出て来たんだけどあれって何?」

 サングラスを摘まみながら聞く。

 すると来栖は慌ててひったくる様に私から奪い取った。

「別に何でもないよ……」

 口ごもりながら言う来栖。

 何?  

 何なの?

「そんなに秘密にしておきたいものなんだぁ」

 少しびっくりしながらも興味が出てしまった私。

「ほら言いなさい!!」

 ベッドから飛び起き来栖をヘッドロックした。

「ほらほら~白状しなさいよー」

 テニスで鍛えた自慢の腕力でぐいぐいと来栖の小さな頭を締め付ける。

「わかった。言うよ言うよ」

 来栖のくせに私に内緒なんて千年早いのよ。

 ヘッドロックから解放する。

「で、何なの?」

「……絶対引かない?」

「別にあんたで今更引かないわよ。で、何?」

 中学の頃、私の事ストーカーみたいに付きまとっていた頃で既に引いているから。

 あれ以上は無いでしょ。

 全く何だったのよあれは。

 来栖を見ると少し困った顔をしていた。

 でも意を決した様に話し出す。

「これはね……このサングラスをかけている人をオカズに何回オナニーをしたかがわかるサングラス、自慰グラス(ジーグラス)なんだ」

 顔を真っ赤にしながら言う来栖。

 はぁ。

 何それ。

「だから、このサングラスで人を見ると数字が出ただろ。あれはシコられた、つまり自慰をされた回数なんだよ」

 はぁああああ?

 何バカな事を真面目な顔で言ってんだコイツ。

 呆れた。

「じゃあ何、あんたは私でシコった事無いんだぁ」

 来栖の手からサングラスを奪い鼻で笑った後来栖の方を見る。

 サングラス越しに何度見ても数字は出なかった。

「……」

 無言で部屋を出ていく来栖。

 全く何言ってんだか。

「早く帰れバーカ」

 私はサングラスを外してうつ伏せになり目を瞑った。

 外からの優しく涼しい風が眠気を誘う。


 バタン


 来栖が出ていってから5分位経った頃、乱暴にドアが閉まる音で目が覚めた。

「もう1回そのサングラスで俺を見てくれないかな」

「何だ、まだ帰ってなかったの」

 とっくに帰ったと思っていた来栖は神妙な面持ちで私を見る。

「はいはい、ってえっ?」

 サングラスの端に1、と数字が出た。

 えっ?

 何で?

「今お前でシコって来た」

 最低な事を大真面目な顔で言う来栖。

 えっ。

 ちょっと。

 マジで。

 ヤッバ。

「じゃあこれ……」

「ああ、本当なんだ」

 嘘でしょ!!!!

「じゃあこれ、本当に私がどの位……シコられているのかがわかるんだ!!」

 今まで見せてもらったコイツのくだらない発明の中でこんなに驚いたのは初めてかもしれない。

「だから返してくれ。それにこれはまだ完成形じゃないんだ。本当にやりたいのは……」

「来栖、これ少し貸して」

 私は調べたい事があったので借りる事にした。

 

 


 次の日、朝。

 早くも蒸し暑い登校中。

 昨日の事が半信半疑の私。

 こんな物で本当にわかるものなのかしら。

 ジーグラスを何気なくかけてみる。

 そして登校中の男子を見てみるが特に数字は出なかった。

 まぁこんなもんよねぇ。

 ジーグラスを外そうとすると、

「こら! 今川!」

 私を怒鳴る声。

「サングラスなんて登校中にするんじゃない!!」

 体育教師の北川だ。

「はいはいすみまてーん」

 不貞腐れながらジーグラスを外そうとした時、90と数字が出た。

 えっ?

 もう一度ジーグラスをかけて北川を見る。

 確かに90、と数字が出た。

 はぁ。

「こらーさっさと外さんか!!」

 怒る北川に向かってため息をついた後、ジーグラスを外した。 

 

 

 教室に入る。

 席に着くと早速ジーグラスをかけてみた。

 いるわいるわ。

 私でシコっている奴。

 3や5ならまだ良い方で中には30や40、と2桁いっている奴までいた。

「おはよう麗香、何しているのぉ?」

 後ろから抱き着かれた。

「あっ、ううん、なっ、何もしてないよ。おはよう姫美」

 ゆるふわ可愛い系でクラスの女子どころか学年で1番可愛いんじゃないか、と言われている石井姫美が話しかけて来た。

 ジーグラスを外そうとする私。

 ん?

 もう一度ジーグラスをかけなおす。

 えっ?

 しっかり姫美を見ると50、とはっきり数字が出た。

「なぁにそのサングラス。かっこいいね麗香ちゃん」

 机に両手を置き、顔を近づけてくる姫美。

 そうか。

 そういう趣味があったのね……。

 ジーグラスに映る数字を見ながら複雑な気持ちになった私。

 あっ、そうだ。

 肝心な人を見ていなかった。

 私は密かにずっと好きだったサッカー部の三郷光輝君をジーグラスで見てみた。

 0と出た。

 一旦ジーグラスを顔から外しもう一度かけなおして見てみる。 

 やっぱり0と出た。

 はぁ。

 1番数字出てほしい人だったのになぁ。

 ジーグラスを外して机にうつ伏せになる。

「どうした~麗香ちゃん。何か嫌な事あったか~よしよし」

 頭を撫でて慰めてくれる姫美の手が今日は何だか少し複雑な物に感じた。

 

 

 放課後来栖の家に行く。

 ピンポーン ピンポーン

「入って」

 来栖の奴今日はいた。

 2階に上がる私達。

 部屋に入ると私は来栖の勉強机の椅子に、来栖はベッドに座った。

「もう人間不信になりそうよ~。これ本当に私でシコった回数なの?」

 ジーグラスを持ちながら言う私。

「そうだよ。これはね、人の残留思念を数値化して……」

「そんな難しい話はわからない。ねぇこれどの位前まで私でシコった回数がわかるの?」

 一番気になっていた事を聞いてみる。

「ジーグラスの淵にスイッチがあるだろ。それで3日前、3か月前、3年前までわかる様になっている」

 確認すると側面に日、月、年、と書かれたスイッチがあった。

「じゃあ今は月、になっているから3か月前までわかる、って事?」

「そういうことだね」

 なるほど。

 じゃあ。

「まだチャンスがあるかもしれないじゃない」

 少し嬉しくなって声に出てしまった。

「何が?」 

 いぶかし気に聞いて来る来栖。

「今日ね、これで光輝君見たんだけど数字出なかったの」

「……まだ三郷の事好きなんだ」

「当たり前でしょ。中学の頃からずっと好きなんだから。高校だって光輝君と同じ所に行きたくて頑張ったんだから。あんたみたいにもっと偏差値高い所行けたはずなのにわざわざこの学校に入ってきた奇特な奴とは違うの!!」

 クラスが一緒になったのは運命だと思っているしね。

 よし、明日3年前にスイッチ合せて光輝君見よーっと。

 窓からは傾いた夕日が差しこんでいた。

 


 

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