第44話 想像以上にでかい
私こと紅雹夜は東京で行われる「Vtuber祭」になんやかんや参加することになった。そして「Vtuber祭」前日無事東京に着いた私は親友ことおっさん(龍)の車でこれからお世話になるおっさんの家までたどり着く。明日に備えゆっくり休もうと布団に入った私を待っていたのは、他でもないおっさんとその恋人のイチャイチャタイムだったのだ……。明日仕事早いのに周りがうるさくて全然寝れない社会人の気持ちがわかった気がする。というか寝かせて……。
もぞもぞと布団の中で体を動かしつつどうにか寝れないものかと試行錯誤してた結果、気づいたら寝ていたようで、聞き慣れた男の声が徐々に聞こえうすらうすらと目を開けた。
「おぅ、おはようさん」
「ぬぇ……おふぁようごじゃいやす……」
うさぎのイラストが描かれたエプロンを着けたおっさんが起こしに来てくれていたようで、私は口をもごもごさせながらも挨拶を返した。それから少し考え、お世話になっているわけだから流石に今の腑抜けた挨拶はどうなんだ?と思い再度挨拶をするため私はおっさんに土下座しながら言い直した。
「おはようございますオジキ!!今日はどこのヤツをシバきましょうか!?」
「お前をシバいてやろうか」
「ごめんて」
「うめっ!うめっ!」
「たくさん食べるといい」
「うぃ。ちなみにこのあと毒ガス流れたりする?」
「俺の屁でいいなら今すぐ出せるぞ」
「おいやめろ死ぬだろ」
こうして面と向かって喋るのは初めてなのだが、意外にも緊張することもなく私とおっさんは普段どおりの会話を交わしていた。そんな様子を見ながらクスクスと笑っていたおっさんの彼女さんは「行ってくるね」と言って玄関に行こうとした。
「ん、見送るよ」
おっさんも彼女さんについていき玄関まで向かう。私も玄関まで見送るべきかと考え、食べていたお米をもぐもぐとしっかり噛んで飲み込んでから遅れて向かった。タイミングが悪かったのか、玄関に行ったらおっさんと彼女さんがちゅーしてた。わーお。
「……ん?」
「あっ」
おっさんと彼女さんが私に気づき、少し気まずそうな空気が流れた。
「まぁそういうこともあるよね、うん」
「お前が言うんかい」
「ごめんて。えーと、気をつけて行ってらっしゃいませ。んじゃ戻るわ」
「おぅ……」
「ありがとう」という彼女さんの言葉を受けながら、ス○ードワゴンのようにクールに去るぜ。
「ふぅ……」
彼女さんを見送ったおっさんがリビングに戻ってくる。少し前にご飯を食べ終えた私は昨日教えてもらった電気ポットをお借りして、お湯を沸かしては温かーいお茶を飲んでいた。ちなみに玄米茶ね。普段家で飲んでるやつをわざわざ買って持ってきたぜ。ぷはー。美味い。
「おかえりー。お茶飲む?」
「ん?おぅ、あーいや、珈琲にするわ」
おっさんはそう言って自分のマグカップを取り出しては自分で珈琲を淹れていく。前々から話は聞いていたが、おっさんは珈琲にも一応こだわっているらしい。淹れ方とか豆とか。本当なら私が淹れるべきなんだろうけど、そういうこだわりがあるなら変に触らないほうがいいのだ。おっさんも何も言わないし多分これでいいはず。うん。……ちょっと不安になってきた。あれ、本当によかったんか?
「あれ、俺が淹れたほうがよかった?」
「ん?なんで?」
「いや、お世話になってるわけだし俺が用意するべきなのかなぁと思ったんだけど、なんか珈琲もこだわってるって聞いた気がしたからさ」
「別にそんなこと気にせんでええよ。それより、よく覚えてたな」
「おっさんが熱心に語ってたのはよく覚えてる。うん」
「そうかそうか」
そう言っておっさんは珈琲が入ったマグカップを持って私の正面の椅子に座った。なぜか笑顔で。
「いやー、キミがちゃんと覚えてて嬉しいよ。そうなんだよ、この豆も〇〇のやつでの。仕事の営業先で~」
ほーら始まった。
流石にこれは長くなりそうなのでカットでお願いします!
そんな会話スキップシーンが現実に実装されないかなぁと思いながらおっさんの話を聞いた。
「そろそろ着くぞ」
「お?どこどこどこ?」
朝飯を食べ終えた私達はおっさんの車で会場に向かった。出張でよく東京に来るらしいおっさんによる周辺の建物の解説や、近場の美味しい料理屋さんや居酒屋さんのお店を教えてもらったりなどなど道中なかなか楽しかったでござる。こういう部分もいずれ配信出来たら楽しいんだろうなぁ。とりあえず今日の夜の配信ネタは決まったぜと心の中で思いつつ助手席の窓の向こうをキョロキョロと見回す。おっさんが運転しながら顎で方向を指しながら「あそこだな」と言った。釣られて見てみると、なんとまぁでっっっっかい会場がそこには建っていたのだ!
「でけぇぇぇぇぇぇ!!」
「うむ。なかなかでかいのぅ」
イベントに行った事がない私は小学生の時に合唱コンクールで行った少し大きめなコンサート会場くらいの大きさだと軽く思っていたのだ。いやまさかここまで広くて大きいとは……あれ、思った以上にやばいイベント?俺のステップアップにはまだ早くない?階段を五段くらい駆け上がってないかい?
「……マジでここ?」
「うむ」
流石に初めて来る場所だから事前にホームページで写真や場所は確認していたのだけれども……実際に目にすると想像以上だなぁ。この中に多くのVtuberさんやそれを見に来るファンの方々が集うのかぁ。そりゃ「祭」と書かれてるだけあるわな。うん。すごい。
とりあえず近場の駐車場に車を止めてもらい、おっさんと二人で入り口に居るであろう受付スタッフさんに会いに行こうとした、その時でした。突然鳴り始める携帯電話。聞き慣れない着信音。「はぁ……」という小さなため息と共にゴソゴソとポケットから携帯を取り出すおっさん。
あっ、察しましたわ。
「すまん、仕事の電話だわ……」
「あっはい。一人で行ってきます」
ですよねー……あかん、ちゃんと喋れるだろうか。深呼吸をして……ダメだ、めっちゃ心臓バクバクし始めた。
深呼吸しながらゆっくり、ゆっくりと歩く。たまに後ろを振り向いてはおっさんが電話を終えて追いついてくれるんじゃないかという期待を込めた視線を送り「さっさと行け」と右手でジェスチャーされては前に進むという行為を繰り返し、結局一人で入り口の手前まで辿り着く。
「はぁ………」
深い溜息を漏らし、空を見上げる。ちゃんと喋れるだろうかと不安になる。「Vtuberのイベントに参加しにきました」と言えばいいのだろうか。参加券を先に渡して言うべきだろうか。説明してから渡すべきだろうか。あーでも、参加券があるってことはこれ渡せば大体把握してくれるってことじゃなかろうか。でも警備の問題上で来た理由とか聞かれる可能性も……?あれ、スタッフさんになんて言えばいいんだっけ?
「……あの、大丈夫ですか?」
変に考えすぎて頭が爆発しそうな私の背後から声が聞こえた。振り返ると私より少し身長が高い、短髪でモデルのような細いスタイルの、しかし出るところはちゃんと出てる女性が立っていた。自分より背の高い女性は初めて見た気がする。私自身高身長ってわけではないのだけれども、いやしかしでかい。
「ため息が聞こえてしまって……もしかして、参加券を落としてしまいましたか?」
参加券……と言うと、この人も同じようにVtuber祭に来た人だろうか。会場周りは特に他のイベントとか無さそうだったし、多分そうなんだろう。というか、聞こえていたのね。めっちゃ恥ずかしいなぁ……
「あー、いや、大丈夫です。ちょっと緊張してるだけで、問題ないです。はい」
「そうですか?それならいいのですが……………貴方、まさか雹くん?」
「は?え?」
え?なんで?え?バレた?どこで?何でバレた???
「えーと……人違いかもですよ……?……ん?雹くん……?あっ」
「やっぱり雹くんじゃない!貴方のその声を間違えるはずはないわ!!!!」
「あー……えー……えーと……サキさん……ですか」
マジかよこの人。あの会話だけで気づいたのかよ。
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