第1話 新メンバー登場の巻
「カチョさんたち、いらっしゃい」
美人おかみさんの艶やかな笑顔に迎えられて、
しかし、今日はいつもとは違う。三人が顔を出すと、男が一人座っていた。
「待たせたね~」
水野谷は片手をあげて男に挨拶をする。
氏家と高田はぎょっとした様子だが、彼は水野谷を見ると礼儀正しく立ち上がって頭を下げた。
「お誘いいただきまして。ありがとうございます」
「氏家さん、高田さん。この前言っていた教育委員会文化課長の野原です」
「野原と申します」
いつもは適当雰囲気の飲み会なはずなのに、急にお堅い男の出現に氏家と高田はおどおどと緊張したような面持ちだ。
「いやいや。あの。氏家です」
「高田です」
「まあまあ、緊張しないで飲みましょうよ」
水野谷は「あはは~」と嬉しそうに笑うと一同を座らせた。
「どうします?」
いつものように
「いやいや。どうもね。おかみさん。いつものね」
「おれも」
「おれは冷」
「野原はどうする?」
彼は眉一つ動かさずに「日本酒の冷をください」と言った。
いつもの調子が出ない氏家や高田は顔を見合わせて苦笑いだ。
「それにしても、この前の幽霊騒動はなんだったんでしょうねえ」
高田はいつものごとくおしぼりを開けると手を拭いてから顔を拭く。それを見ながら、氏家も動作を真似た。そうすると、なぜか自分もやってみたくなるものである。水野谷は「ああ、こうしておじさんの技は継承されていくのだな」と思った。
自分の隣に座っている野原はじっとおしぼりを見下ろしていたが、それを手に取って広げた。
「ああ、野原はやらなくでいいんだよ」
「?」
「これはマナーじゃないから。あのね。この人たちは好きでやっているだけだから」
水野谷の制止に野原はじっとおしぼりを眺めていた。
「やだな。課長。やりたいって言うんだからやらせてあげたらいいじゃないですか」
「そうそう。おしぼりで顔を拭いちゃう課長だなんてかっちょええ~」
氏家のいつもの親父ギャグがさく裂してしまう。野原といういつもとは違う人間の登場でペースが乱されているのかと思いきや……親父たちはそんな小さいことは気にしない。
「またまた~」
高田と水野谷は笑うが、野原はじっと氏家を凝視していた。
「あれ? 面白くないですか?」
「面白い……笑うところ? 課長はかっちょええ?」
真面目な顔で問いかけてくる彼に氏家は「ですから」と説明をした。
「だからね。課長のカチョーと、かっこいいのかっちょええをかけているんですよ。わかります?」
「課長とかっちょええ。——なるほど。それは興味深い」
「あのねえ。真面目な顔で感想述べるのはやめてもらえませんか? 親父ギャグがしらけるでしょう? もう牛が怒ってモーだぞ!」
「あはは」
「やだ。今日、いつもよりペース早くないですか? 氏家さん」
三人は顔を見合わせるが、更に野原は不可解な顔をする。
「牛? すみません。意味がよくわかりません」
「もう、いいのいいの。本当に真面目なんだから」
何事もアバウトな親父たちのペースに巻き込まれた哀れな野原はじっと黙って座っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます