074 例の力を見せてみよ。
秘密は守るが、バレる事についてまで責任を持てないチャッキーに、ジタはため息をつく。
エインズは親の事を嫌っていないので、チャッキーの発言を恥ずかしいとも思っていないようだ。むしろエインズはニーナに向かって、親と喧嘩したのかと心配の眼差しを向けている。
「ニーナ、帰ったらお父さんとお母さんと仲直りした方がいいよ。不安ならついて行ってあげるから」
「えっ。私今この流れで何を心配されているのかしら。それよりもジタさんと魔王よ! 親子喧嘩なんて……魔王が本気で怒ったりしたら、大変な事になるわ」
拗ねてしまった魔王と、そんな魔王を宥めるジタ。とにかく2人を止めなければ腕輪どころの話ではない。
「ジタさん、駄目ですよお父さんに向かってそういうのは良くないです」
「あっ?」
「ちゃんと魔王様に大好きだよって言って下さい」
「い、いやいや、大好きだと? 何の罰を受けてんの俺」
酷く悲しそうな魔王の表情と、要らぬ正義感を発揮するエインズ。ジタはため息をつき、エインズとニーナに耳を塞げと言い、チャッキーには証人になれと手招きをする。
「……パパって言わなくてもいいか?」
「……お父さんでもいい」
「分かった。……お父さん、その、嫌いって言ってごめん。お、オヤジのこと好きだから」
魔王の表情がパァァっと明るくなる。目を大きく開き、口を恐ろしく大きく開けて感動し、嬉しそうに両手を広げる。ジタはむず痒いのか、首の辺りを両手で掻く。
「ジタ! じゃあお父さんの事を許してくれるんだね? 手枷は外す、すぐ外すから。おいガルグイ、早くジタの手枷を外すんだ!」
「はっ、はい……」
ガルグイが鋭い爪で鍵を器用にはさみ、小さな鍵穴の中で回す。ようやく自由になった両手を振り、ジタは魔王にもう一度説明を始めた。
「いいか、エインズはオヤジが腕輪を持っていると聞きつけてここまで来たんだ。倒すためじゃねえ……エインズ、おい! もう耳は塞がなくていい」
「腕輪? そう言えば先程は腕輪がどうとか言っていたが。だが、今までのソルジャーは全員この俺を殺すために乗り込んできた。今度のソルジャーは違うというのか」
「さっきの取り乱し方を見せて、行儀よく見ているような奴らだぞ? 扉を壊した怪力、殺そうと思っているなら今頃オヤジは死んでるさ」
魔王は人族の前で本来の姿をさらけ出したことに、今更恥ずかしくなる。「はっはっは」を「フハハハハ」に変えたセリフも、今更言ったところで格好はつかない。
だが、エインズにとってはそんな事はどうでもいい。目の前に腕輪……いや、その腕輪の持ち主がいる。夢にまで見た普通の少年への仲間入り。その目的のために訪れ、ようやく本題に入ることが出来るのだから。
「あの、最初は、魔族は悪い奴だって思ってたのでソルジャーとして戦う覚悟で来たんです。あっ、えっと、こんなに早く来るつもりはなかったんですけど」
「私たち、まだソルジャーになって1年目なんです。ジタさんに出会わなかったらまだガイアから出てもいなかったと思います」
「た、戦う覚悟だったのか、やっぱり」
魔王はホッと胸を撫で下ろす。今まで人族を退けてきた魔王も、エインズを倒せる自信はない。何より、ジタがエインズ達の味方をしているというのに、倒すわけにもいかない。
「それで、あの……魔王さまが力を抑えられる腕輪を持っているって聞いて、倒せなくても、もし何かの条件で貰えるならそれが一番いいって事になって」
「魔王様が相手ともなればその、エインズ様が敵うかどうか分かりません。少なくともエインズ様はそう思っておいでです。あわよくばコッソリ奪おうなどとは全く思っておりません」
「チャッキー大丈夫だよ、言わなきゃ分かんないって。それがあれば俺もちゃんと力を抑えられるんです! お願いです、腕輪をいただけませんか!」
「あの、ま、魔王様にこんな事を言うのは失礼かもしれませんけど、倒して奪うなんて……出来れば止めた方がいいんじゃないかなって。なので人助けと思ってエインズにプレゼントして貰えませんか?」
魔王を倒せないと思っているのはエインズだけ、と仄めかすようなチャッキーとニーナ。魔王は威厳を取り戻す事も考えたが、どうも過信やハッタリには見えない。エインズの自信の無さも演技に見えないのでどうにも困惑してしまうが……。
「コッソリ奪うという言葉が聞こえたが、まあいい。腕輪……腕輪が欲しい、と」
魔王は考え込む。薄暗い空間で玉座に腰を掛け、眉間に皺を寄せて腕組みをしているだけでなかなか迫力があるものだが、魔王は意識して怖そうに振舞っているのではない。
腕輪というものに全く心当たりがなく困っているのだ。
しかし、目の前で期待に満ちた目をしている少年に対し「何だそれは」と言ってしまえば、ショックのあまり何をされるか分からない。どうやって話を切りだすか、慎重にいく必要があった。
それを知ってか知らずか、チャッキーが魔王にダメ押しの提案をしてしまう。
「魔王様、日頃エインズ様がどれ程お困りなのか、実際に見ていただけたなら、エインズ様を助けて下さるかと思うのですが」
「え? そ、そうだな。力を抑えなければどうなってしまうのだ? 先程壊した扉の件でだいたい予想はつくが……」
「実際に見る」しか選択肢がない状況になり、エインズも分かってもらおうと乗り気になってしまう。
「一番分かりやすいのは……ドアノブですね。エインズ様はまだ1度もドアノブ回しに成功したことがございませんので、扉を開ける時はおおよそわたくしが」
「ドアノブの何が難しいのか。まあいい、その辺の扉で試してみろ。壊れた所でどうにでもなる」
「感謝申し上げます。あと、魔王様が思いつく頑丈なもので、壊しても大丈夫なものがあれば」
チャッキーが勝手に決めてしまい、エインズは不安そうに魔王へと視線を向ける。魔王は再度、壊れても大丈夫だと告げて広間の脇に通じる扉へと向かわせた。
「上手くいくかな」
「上手くいかなくてもいいのです。日頃どれほどお困りなのかを見ていただくのですから。成功してしまうと困っていないように思われますよ」
「分かった」
エインズが分厚い小手をゆっくり外し、ドアノブへと手をかける。ジタがランプを持って横に立ち、全員が照らされたエインズの手元に注目する。
「……いきます」
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