第17話 なんで、何でこんな目にぃぃぃぃぃ!

「ねえ、ルーちゃん。この人数って、あの学園報?」

 温室からミウを家まで送った後。

 転移石トラベルノーツでサラの部屋に移った所で、サラがシェルディナードにそう聞いた。

「いや、ただ単にミウが弱そうだから元から目ぇつけられてたんだろ。学園報は今日の昼だし。発行されたの」

「ふぅん……」

「あとはアレじゃね? ミウが俺に告って来たのが広まったもんで、貴族の女子が身の程を知れって一部殺気立ってたじゃん」

「あー……。あった、ね。そんなの」

 そんなに親友シェルディナードの彼女になりたいなら、自分達も告白すれば良いのに。そんな感想をいだいた記憶があるサラは、ポンと手を打つ。

「ルーちゃん、だから、ミウを獲物ターゲット指定、したんだよね」

 獲物に指定する事でその他から守る口実が出来る。ただ単に助けただけではミウが更にやっかみを買うだけだ。

 長椅子に寝そべるシェルディナードはクスクスと笑みを浮かべるだけで肯定はしないが、サラからすればその楽しそうな赤い瞳だけで充分だった。

「何で、わかんない、んだろ?」

 不思議そうな顔のサラに、シェルディナードは「わかんなくて良いんだよ」と言うように違う言葉を返す。

「ま。ミウへのやっかみは無くなんねーだろ。気休めだからな」

 それよりも、とシェルディナードは瞳を細める。

「ミウがちゃんと学習したか確かめる絶好の機会チャンスじゃん」




     ◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆




「うぅ……なんで、何でこんな目にぃぃぃぃぃ!」

 いや、わかってる。シェルディナード達に関わったことが全ての原因なのはわかってる。

 自分の部屋で生徒手帳を操作しつつ、寝間着に着替えたミウは手当たり次第にアビリティ申請を行っていた。

「シェルディナード先輩の馬鹿ぁぁぁぁー!」

 と。

「…………」

 思い浮かぶシェルディナードのたのしそうな赤い瞳。

 イメージしたシェルディナードがわらっている。

 瞬間、スンとミウの顔から表情が消えた。

「……………………」

 アビリティ申請も残すはシェルディナード達だけ。しかし。


 ――――効きそうに、ない…………。


 何かこのアビリティどれも効かない気がする。

 そう考えた瞬間、ミウの心がぐ。

「……魔力のムダだよね」

 シェルディナードの画面ページを閉じて、ついでに今まで申請したハンター達の画面をもう一度見直す。

「あ。コレ、違う効果の方が……」

 手当たり次第同じ効果を申請していたが、淡々と修正する。

 拘束系、ダメージ系、幻影系と様々な妨害アビリティがあるものの、中には種族や格の違い的に効かない者もいた。

「み、見直して良かった……」

 修正しつつミウが冷や汗をかく。

「……そうだ。確か自分にも補助アビリティ申請出来るんだよね」

 速度を上げたり、防御を助ける獲物側アビリティの申請も出来たはずと思い出し、生徒手帳の画面とにらめっこする。

「ちょっと足りない、かも」


 ――――でも、何人か妨害アビリティ取り消して……。


 自身の魔力リソースと相談しつつ、純粋に脚でける相手は申請を取り下げた。

「できた。これなら……。うん。大丈夫なはず」

 これも思い浮かんだシェルディナードの愉しそうな顔のおかげだ。

「冷静になれって言われて、出来なかったら……」

 そう考えると背筋に何故かゾクッと悪寒が走ったのだ。そう、きっと本能の警告。

「……もしかしてコレって、リソース管理見られてるのかな」

 アビリティは学園側で発動する術式で、前日に申請した分だけ魔力を供給しなければならない。

 捕まえる以外には表面上なんのプラス評価も無いと言われているが、ならわざわざこんな面倒な事をする必要もなさそうなのに、とミウは何となく考える。


 ――――まあ、学校が見てなくてもシェルディナード先輩は確実に見てる。で、不合格だったら……。


 ゾワゾワっとしたのでそれ以上考えない事にした。

 何かヤダ。

「……シェルディナード先輩は、そりゃイメージしていたお貴族様とは違ってたけど」

 ボスッとベッドに仰向あおむけで倒れ込む。


 ――――イメージしたお貴族様とは違うけど、やっぱりちょっと怖いんだもん。


 何が怖いのか?

 そう聞かれそうと思って、ミウは寝返りを打つ。

 考えたくない。

「怖いものは、怖いんですよー……」

 目を閉じて、それ以上の思考を放棄ほうきする。

 考えると、何だか不安にもやもやしそうだったから。


 ――――先輩に釣り合うように、なんて。無理難題……。


 無茶振りもはなはだしいし、振り回されてばかりで平穏なんて夢のまた夢。

 本当に息の根が止まったらどうしてくれるんですかね? なんて目を閉じつつも顔をしかめる。

 でも。

 浮かぶ、赤い瞳。


 ――――怖いくらい、深くて、綺麗……。


 自分の名を呼ぶ声は大体は面白がっている色が満載だけど。


 ――――嫌な感じは、しない、かな……。


 本当に時々、何でか心地好くて。

「っ! なに考えてるんだろ。寝よう」

 ブルブルと頭を振って、部屋の灯りを消す。

 しかし。

「あ。化粧水と乳液」

 目を閉じたらサラのじとーっとした顔が思い浮かんだ。

 必ず使うようにと申し渡された化粧水と乳液の基礎化粧品セットの存在を、間一髪かんいっぱつで思い出した。セーフである。

「サラ先輩、何で使わないとわかるんだろ……」

 そもそも何で(外見美少女だとしても)男の先輩が化粧品なんて多種多様に取り揃えているのか。

「……先輩達の事って、あんまり知らないかも」

 ポツリと呟いた言葉がじわりとにじむ。

 何となく。本当に何となく。落ち着かない。

「…………シェルディナード先輩とサラ先輩て、好きな食べ物何かな」

 シェルディナードは好き嫌いなさそうと思うが、好物は知らない。

 サラは食が極端に細いのはわかるが、好き嫌いがあるのかすら不明。

「あたし、何にも知らないんだ……」

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