059.サキュバスの脅威

「くううううう、この風魔法のせいで上手く飛べないブヒ!」


「シックス!! 無理に飛ぶことは無いブヒよ、ただでさえ俺たちは体重が重いんだから。」


「飛べないサキュバスはただのサキュバスなんだブヒ……、ファイブは割り切りが早いから、そんなことが言えるんだブヒよ。」


 だからブヒブヒブヒブヒブヒブヒうっさいわ!!


 と言うか、それを言うなら飛べない豚だろうが!! この世界にも某有名映画が放映されてるのかって話だ。


 ……それに、ただのサキュバスってどういう事だよ……、じゃあ、この三人は只者じゃないって事か?


 うわあ……、こいつらの着地音って重量感タップリなんだよね。


 何処のファンタジーで『ドスン!』なんて音を立てながら着地するサキュバスがいるんだよ……、本当に勘弁してくれってば。


 それにアブドゥルの何とも言えない笑顔、さっきから『分かっていますよ。』とでも言いたげな表情を俺に向けて来ているんだけど、どうしたものかな?


 さっきみたいにゴリマッチョだったら適当にあしらってたんだけど、……こんな正統派美人を前にしていると照れるんだよね。


 うわあ、揺れるんだよ。


揺れに揺れてますよ、……何がって?


 勿論あれですよ、フーリン専用サンドバックですって、奥さん。


 ……こう言う言い方をすれば、フーリンから変な目を向けられなくて済むよね?


 あ………………………………、フーリンと目が合っちゃった。


 ……………………さて、諦めてサキュバスに集中しようかな!!


「アブドゥルは直接戦闘に参加出来るの? さっきは凄い風魔法を使ってたから、魔法メインで考えて良いんだよね?」


「はい、大樹の仰る通りです。ですがこ、の姿になった私はジャバーと相性が良いので、出来れば彼女と一緒に戦わせて下さい。」


「良いねえ!! 久しぶりにコンビを組もうか……、アブドゥルと一緒に戦えるなんてゾクゾクしちゃうよ!!」


「じゃあ、基本的にジャバーがアブドゥルと共闘して、いざと言う時には後方に回って支援に回って貰おうかな。」


「……嫌いなおっぱいが増えちゃった、しかも、そのおっぱいに支援を受けるだなんて屈辱じゃないの。」


 フーリンが何やら不穏な発言をしているけれども、今はそんな事を気にしている場合では無いのだ。


 と言うか、『おっぱいが増えた』ってどういう事!?


「ジャバーは屋敷の方でフーリンに殴られ済みなんだよね!?」


「ああ、フーリン様に最高の……最高のラッシュを貰ったよ。ああああ、……思い出すとゾクゾクしちまうね。」


 ジャバーは俺の質問に頼もしい返答をしてくれているはずなのに、どうしてだろうか?


 遠い目をしながら恍惚とした表情の彼女を見ていると、不安しか覚えないんだよな。


「ジャバー、言っておくけど……ここって街中だから間違っても炎系のスキルは使わないでね?」


 俺は戦う前から不安に思っていたことがあった、それはジャバーのスキルだ。


 ジャバーのスキルは自分の駆使する徒手空拳技に魔法の特性を付与させる、と言うものだった。


 その結果が俺との戦いで見せた、『ブリザードアロー』や炎を纏わせた拳、『ファイヤーズフィスト』なのだが、これらは周囲への配慮に欠ける攻撃なんだよね。


 何しろ。それらを使用した結果が彼女らの住む屋敷の一室を派手に破壊したわけで、……要は強力過ぎるのだ。


 あれは人が密集し、かつ広さを確保できない街中の道路などでは使ってはいけないと俺は思う。


 やっとの思いでアブドゥルの風魔法が居酒屋の火事を消火してくれたと言うのに、ここでジャバーがファイヤーズフィストを使ってしまえば地獄絵図は目に見えている。


 そのためにもジャバーには釘をさす必要があるわけだが、……それに彼女と相性が良いと言うアブドゥル。


 相性が良いと言う事はそれ即ちジャバーの攻撃力が大幅に上がることを意味しているのでは無いだろうか?


 等と様々な考えを張り巡らせている間にも、ジャバーは……使っちゃてるよ!!


「大樹が何を言っているのか良く分からないけど、この『ファイヤーズフィスト』でさっさとケリを付けさせてもらうよ!!」


 ぎゃああああああああ!! 炎が猛ってますがな!!


 うわあ……、俺はこの光景を見て良く理解することが出来た。


 ジャバーとアブドゥルの『相性が良い』、と言う言葉の意味を。


 ああ、ジャバーの炎がアブドゥルの風で周囲の店舗に燃え移っちゃうのかあ……、これって被害が拡大してるじゃねえかよ!!


「ジャバー、お前は本当に嫌われたいのか!? こんな被害を出したらゴブリンたちからの評判が地に落ちるぞ!!」


「大丈夫だよ、……何しろアブドゥルは風魔法が得意なんだ。後で消火してくれるって。」


 ジャバーは恐ろしいまでに余裕な様子を見せているが、どう考えたら、この地獄絵図でそんな様子でいられるかな!!


 そうなんです!!


ジャバーのファイヤーズフィストは攻撃範囲が広すぎて、風で揺らされると辺り一面を火の海にしてしまうのだ……、やべえよ。


 こんな規模の大火事を風で消すとなると台風規模の風じゃないと消化できないじゃん!!


「アブドゥル、この民家や店舗が立ち並ぶエルデの中心部でどうやって、この大火事を鎮火させるのさ……、俺はもう、煙で涙が止まらないんですけど?」


「………………ああ、あああ。えっと、そうですね。うっかりしていました、戦闘が本当に久しぶりだったので、その辺りのカンが鈍っていたようです。どうしましょう……。」


 おおい!! アブドゥル、お前は頭脳担当だろうが!!


 これなら、まだカリームの方が可愛げがあると言うものだ……、もうお前らには頼らないからな!!


「フーリン、俺たちで消火活動をしよう!」


「大樹い、それは私も賛成なんだけど、この状態じゃ間に合いそうもないよ!? いくらこの一帯が水が豊富でも限度があるんだからね!!」


 そうなんです、フーリンの言う事は正しいのです。何しろジャバーの引き起こした火事は辺り一面どころかその裏の民家にまで飛び火しているため、周囲は先ほど表現した様にまさしく『火の海』なのである。


 と言うか、『火の大海原』とでも表現すべきだろうか?


 それに本来、俺たちは消火活動などにうつつを抜かしている場合では無いのだ。


何しろこの世界の二大種族の片翼を相手取ろうとしているのだから。


 こんな状態であいつらと戦えるわけが無いだろうに。


 折角アブドゥルが風魔法で周囲の毒を取り除いてくれたと言うのに、……あれ?


「うぐうううううう……、煙で息が……出来ないブヒ。フォー、大丈夫かブヒ?」


「何とか生きている……ブヒブヒ。ファイブの方を……心配してやれブヒ。」


「フォーもシックスも……ブヒブヒ、俺の心配は要らんブヒ。」


 ぎゃあああああああ!! ジャバーの引き起こした火事でサキュバスたちが虫の息やんけ!!


 ふざけるなよ……、俺が屋敷で練って来た作戦はどうしてくれるんだあ。


「ああ、バカらしくなってきた。……そう言えば、俺たちには煙が来ないね? 風向きが良いのかな?」


「私が風魔法で上手く調整しているのです。大樹殿、サキュバスは頭は良いですが、如何せんあの体型ですから。」


 ああ、要はサキュバスがメタボリックだって事かな? あれだ、ぼっちゃりさんが走ると直ぐに息切れを起こすあれですか?


 世界の二大種族のくせに!?


 マジかあ……。じゃあ、今回の立ち回りってジャバーが街に来て世紀末感の出張演出に来ているだけじゃないか……。


 この世界って火災保険とか存在するのかな?


 等と俺が下らないことを考えていると、先ほどまで煙が立ち込める中で苦しそうに悶えていたサキュバスたちが再び立ち上がり、何かをしようとしているではないか。


 そして、三人で円陣を組んで何をブツブツと言っている様だけど……、どうしっちゃったの?


「人間とエルフの会話で……解決方法が分かったブヒ。ファイブ、準備は良いかブヒ?」


「ああ、三人で力を合わせて風魔法を使うんだブヒ。……大林幸代ちゃんのいないこの世界なんてもう未練は無いんだブヒ。シックス!!」


「おお!! 俺たちサキュバスに舐めた態度を取るあいつらに見せるけてやるブヒ、……この街ごとぶっ壊す!!」


 ぎゃあああああああああああ!! しまったあ、……まさかサキュバスがこんなにヤバい輩だとは思いもしなかった!!


 と言うか、街ごとぶっ壊すんじゃねえよ!!


「アブドゥル、どうにかならないの!?」


「うーん、とにかく出来る限りの防御態勢は取りましょう!! ジャバー、こっちに来てださい!!」


「お、……おお!! ちょっと待ってな!! 折角ファイヤーズフィストを出して何もしないわけにはいかないだろうが!! えっと、タバコ何処に仕舞ったっけ?」


 喫煙者!! ジャバー、お前は喫煙者だったのかよ!?


「ジャバー、そんなことは良いから早くこっちに来い!! フーリンもこっちに!!」


「分かったわ!! 大樹のところまで行くわ!!」


 おうっふ、……フーリンの身を案じて近くに来いとは言ったけど、まさか抱き着かれるとは思わなかった。


 やわっこくてええなあ……。


「アブドゥル、頼んだよ!! アンさんとカリームもこっちに来い!!」


「はい、………ダイヤモンドドーム(LV.10)!!」


「ついでに『粘液(LV.5)!!』


 アブドゥルが発動したのは土属性の魔法だろうか、その名の通りダイヤモンドで形成されたドームで俺たちを空間ごと包み込んでいた。


 そして、俺はそのドームの外殻をスキルの粘液で包み込んで防御力を補うことにした。


 これで駄目だったら俺たちにはなす術が無いわけで、後はアブドゥルと俺が力を合わせて作り上げたものを信じるしかないだろう。


 そして、何とか非難が間に合ったアンさんとカリームを合わせた六人は、目を瞑って祈りを捧げるのだった。


 するとドームの外からサキュバスたちの叫び声が聴こえて来た。


「「「エアーズバースト(LV.10)!!」」」


そのサキュバスたちの声が聴こえた時点を皮切りに、このエルデの中心部には爆発音にも似た形容しがたい不穏な音が鳴り響くことになるのだった。

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