神神の微笑。流離譚-蛭児編-
八五三(はちごさん)
第一話
目が覚めたら目の前に、美少女? いや、美少年? どちらとも認識できる中性的な顔立ちの二人に見下されていた。
「ぅ!」
仰向けに寝かされていた少年は勢いよく飛び起きると、海に文句を言うように嘔吐した。
「「…………」」
少年を見下ろしていた二人は、無言でその姿を眺めるのだった。
海鳥たちの五月蝿い鳴き声。
照りつけてくる太陽光に、鼻腔には生暖かい海水独特の臭い。それに、上下左右に不規則に動く波の揺れ。
「ぢ、ぢぬぅー」
甲板に横に倒れ、真っ青な顔しながら。目から涙、鼻からは鼻水、口元からは吐き出した胃液の残液と唾液の合成粘液を垂れ流していた。
だが……それは……ただの……船酔いだった。葦舟蛭児の生命を奪い去るということはなかった。
どちらかと言うと。
囁く声で自分のことを呼んでいる人物のほうが、確実に生命を奪い去るだろう。
「お前、ナニ者」
一七歳か一八歳。
自分の年齢よりも、一、二歳、年上ながら。有無を言わさず大人しくさせてしまう貫禄のある迫力。
それに自分に向けられている、マスケット銃は。知っている知識のマスケット銃ではなく、完全に
人間なんて可愛らしい生き物に撃ち込めば、身体のどこかに最低でも12・7ミリの風穴が空くであろう。
最悪当たりどころが頭なら、疑いもなく木っ端微塵になること間違いなし。
美しいと
重量が約、十六キロ近い対物ライフルに酷似しているマスケット銃を片手一本で、小口径の拳銃を構えるように軽々と持っているのだから、性別はたぶん男性で問題ない。
「あぢぶねぇ~、びるこぉ~」
魂が半分以上抜けきった声で、一生懸命に尋ねられた質問に答えた。
葦舟蛭児。
「海に落とせ」
物憂げと気怠さが入り混じったハスキーボイス。
もう一人の美少女? いや、美少年の声だった。
重量、約、十六キロ近いマスケット銃を片手で軽々と持ち上げ、自分に銃口を向けている茶髪の美少年の右隣に立っている人物だった。
腰には丈夫そうな革ベルトに鞘が、右側と左側に二つ付属していた。左側の鞘には収納されいるはずである剣が収納されていなかった。その収納されていない剣は、グロッキー状態で倒れている蛭児に剣先が向けられていた。その剣は東洋西洋の剣のちょうど中間的な剣だった。
一瞬、見た感じからは、東洋よりも西洋に近いのだが。西洋独特の直刀ではなく湾曲して反りがあり。さらに、刃は両刃ではなく片刃だった。
などと、ちょっとだけ考えることができるだけ、船酔いはマシにはなっていた。
が。
最終的には、東洋、西洋、など関係なしに剣先が自分に向いているのであるというこは、非常に危ない状態なのは確実であった。
さらに物騒なのが、剣先を向けている人物。金髪の美少年の瞳の色だった。隣の茶髪の美少年の瞳は、あくまでも質問をするという威圧的な瞳の色をしているのだ、が。明らかに金髪の美少年の瞳には殺気が宿っていたからだ。
蛭児は今の現在の自分の力で出来る誠意を示すことにした。
言葉は通じているようなので会話という手段もあったのだが、喋ると口の中から、また、胃液が飛び出しそうな気がしたのでやめて行動で表現することにした。
ゆっくりと相手に敵意はありませんよ、武器持っていませんよ、攻撃しませんよ、と両手を天に伸ばしかざすと。
天に上げたときと同様に、ゆっくりと海水が染み込んでいる船の甲板に手をついて、頭を下げた。
――土下座。
茶髪と金髪の美少年は、眉を
「どういう意味だ、ボニー」
と、金髪の美少年が茶髪の美少年に尋ねた。
「首を差し出しているじゃないか? リード」
と、茶髪の美少年が金髪の美少年に返答する。
「なるほど、な。このカットラスを見て、潔く首を跳ねてくれという意味か。海から引き上げたときは、情けない男だと思っていたが。なかなかに、勇力があるじゃないか。その心意気に痛みなく、その首を跳ねてやろう」
甲板を見つめながら、失敗したなと蛭児は思った。
あれだ、な。
たしか、外国では動くなって、意味で使用される単語って
まぁ、今回は言葉の違いというよりも、ジェスチャーの違いなんだけど。
えーっと。日本人の手招きの仕草は外国では、向こうに行け! って意味に捉えられてしまうらしい。逆に外国の手招きの仕草を日本でしたら、間違いなく喧嘩を売っていることになるな、
と。
ぁー。外国に行くなら、ちゃんとその国の文化風習を学ぼうと心のなかで――って!
「ここ異世界じゃん!」
首をカットラスに跳ねられる前に、自ら跳ね上げたながら、一人ツッコミをした。
――ときだった!
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