第12話

「ママ!ママ!」

泣きそうな声で沙莉が私を呼ぶ。

ごめんね、本当にダメなママで。

汚れた手で沙莉を抱き寄せようとした時、意識が途切れた。


「・・・・子。杏子。」

目を覚ますと心配そうに見つめる豪くんが居た。

「豪、くん・・・・」

「よかった。痛いところないか?」

「・・・・沙莉は?」

「母さんに見てもらってる。安心しろ。」

「そっか。」

「沙莉迎えに行った時、急に倒れたって聞いて驚いた。」

「・・・・ごめんなさい。」

「いいんだ。無事で。」

安心した様に豪くんが私の頬に触れようとした時、病室のドアが開いた。

「目を覚ましましたか。」

「ああ、先生。たった今覚ましたみたいで。本当にありがとうございます。」

「余程疲れていた様で。ダメですよ、大事な体なんですから。」

「先生、杏子は大丈夫なんですよね?」

「大丈夫ですよ。」

「そうですか・・・良かったな。」

医師の言葉に安心したように私を見つめる豪くんに、医師は話を続けた。


「おめでとうございます。」

「え?」

「妊娠2ヶ月目です。」

「妊娠・・・・」

状況が飲み込みきれていない私を遮るように豪くんが立ち上がり、医師に深くお辞儀した。

「・・・・・そうですか。ありがとうございます。」

「とりあえず安静を第一にしてください。明日一旦退院していただいて大丈夫なので。」

豪くんが医師にお礼を言うと、医師は満足したように病室を後にした。


シンと静まり返る病室。

沈黙を破ったのは豪くんだった。

「・・・・呼べ。」

「豪くん・・・」

「いいからアイツを呼んでくれ。」

今まで聞いた事のない、豪くんの怒号が病室に響いた。



私は冷めた夕食を眺めながら待っていた母親じゃなくて、そんな母親を裏切った父親だった。




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