50.バルバのその後
グリフォーさんは俺たちに座るよう
水差しで手ずから飲み物を
俺は、ウィガールースを出発するとき交わしたグリフォーさんとの約束を思い出した。
「酒ですか?」
「残念ながら、酒盛りは今晩までおあずけだ。
いつの間にか笑みが消え、真面目な顔付きになっている。
「さて。とりあえずボスのところへ報告は必要だろう。すぐ出るのか」
「ええ。ここに戻ってくるまで、時間をかけてしまいましたから。これからすぐにでもギルド連合会へ行くつもりです。アルモアには協力者として一緒に証言してもらおうかと」
俺はアルモアを振り返り、「行けるか?」とたずねた。疲労を考慮しての質問だったが、彼女は素っ気なく「問題ない」と答えた。
「そうか。そうだな……」
「グリフォーさん? なにかあったんですか」
奥歯に物がはさまったような、らしくない物言いに俺は眉をひそめた。
グリフォーさんは言った。
「今となってはどうにもならんことだが、いちおうお前の耳にはいれておこうと思ってな」
ぎしっと椅子に身体を預ける。
「お前が以前所属していたギルド【バルバ】な。つい先日、閉鎖されたよ」
「え……?」
「ギルド連合会に『これ以上は存続ができない』と申し出があったそうだ。すでに街の広報部には通知が出されている」
「そう、ですか」
バルバが、閉鎖。
あの惨状が頭にちらつく。
グリフォーさんは、このことを俺に言うかどうかで迷っていたのか。
「いろいろ思うところはあるだろうが、ボスのところで用事を済ませるついでに少し様子を見に行ってはどうだ」
俺はグルフォーさんの意図がわからず首をかしげる。
あの場所にいい思い出がないことは、グリフォーさんも知っているはずだが。
「冗談……ってわけじゃないですよね」
「ああ。今、あそこの建物はギルド連合会が一時的に管理しているんだが、俺に『買い取らないか』と話がきている。立地はそこそこだから、ま、これまでの協力の礼ということで俺に譲渡話が回ってきたようだ」
「なるほど。でもそれと俺が様子を見に行くのとはどんな関係が」
「いやなに。お前、あの建物を買い取るつもりはないか」
思わず「は!?」と声に出てしまう。
グリフォーさんはいたって真面目だった。
「買い取りが嫌なら、俺から貸してもいい。あの建物、お前のとこで有効活用する気はないかと聞いている」
「有効活用と言われても……」
突然の話でうろたえる。
土地と建物を持つといっても、俺たちにはレーデリアがいるから拠点は間に合っている。維持管理する金も人もない。
活用方法があるとすれば――。
「グロッザやステイが大きくなったときに、店舗として使えるか……?」
それは単なる思いつきだった。
だが、グリフォーさんは大きくうなずいた。
「いいじゃねえか。そうしろよ。なに、金の心配なら必要ない。すぐにお前は俺と同じように稼げるようになる」
それにだ、とグリフォーさんは続けた。
「お前にとっての負の遺産を幽霊屋敷として放置するよりか、子どもたちの未来で上書きしてしまった方が気持ちいいだろ?」
「……そうきますか」
「そうさ。今のワシの楽しみは、いかにお前を立派にするかだからな」
持ち上げるなあ……。
仕方ない。
「わかりました。支部長への報告が終わったら、ちょっと下見に行ってきますよ」
「おう」
やれやれ。あんな真面目な顔でなにごとかと思った。
でもグリフォーさんには本当に世話になっているからな。彼の期待にはできるだけ応えたいと思う。
――ふと、アルモアが俺の横顔をじっと見ているのに気がついた。なにやら
「あのグリフォー・モニから、これほど期待されているなんて」
「いや、まあ……うん。アルモアはいつもどおりで頼むよ」
俺は言葉を
◆◇◆
それから俺とアルモアはギルド連合会ウィガールース支部へ向かった。
ミニーゲルの事件について、あらためて俺たちの口から報告するためだ。
冒険者
ちなみにアルモアだけがついてくるためか、屋敷を出るときにフィロエがぐずった。最終的にミテラが取りなしてくれたので事なきを得たが……まだ張り合うときは張り合うのだね、ふたりとも。
「おお……!」
道すがら、アルモアが街の様子に
とくに露店には
俺と一緒にまっすぐ歩いていても、ふいにフラフラと足が店の方に向いてしまう。そのたびにハッと気づいて俺の隣に戻る。すました顔をする。
その繰り返しだ。
俺は笑いを必死にこらえていた。
なんというか、少し大きくなったミティを見ているようだ。
「なに?」
めざとく俺の様子に気づいてにらみ上げてくる。俺は両手を挙げて「いや」と答えた。
「報告が終わったら少し街を見て回ろうな、アルモア」
「ふん……」
否定してこない。かわいいものだ。
そうこうしているうちにギルド連合会が見えてきた。
俺は2度目だが、アルモアはこれほど大きなギルド関連施設ははじめてなのだろう。
ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。
大精霊のアヴリルを抱く手に力を込め、きりっとした表情で建物を見上げている。
――ちなみに。
アルモアの契約精霊は、今、主の胸の中にすっぽりと収まるサイズまで小さくなっている。かわいらしいぬいぐるみのようだ。
アヴリルは必要とあれば、身体のサイズをある程度自由に変更できるらしい。たしかに元々光の粒子だったことを考えると不可能ではなさそうだが、それにしても器用なものである。
おかげで目立つことなく街を歩ける。
居心地がいいのか、大精霊はアルモアに抱かれてのんきに眠ってしまっている。このあたり、主とは正反対の図太さだ。
ホールに入る。
受付嬢に挨拶すると、彼女は少し困った顔をして教えてくれた。
「今日の支部長は、その。少々、お疲れのようですので、ご迷惑をおかけするかもしれません」
前回よりも疲れているのか。それは大変だな。
「ご案内しましょう」
「いえ大丈夫です。場所はわかりますから。もう行ってもいいですよね」
「ええ。どうぞ」
にこやかに言葉を交わし、案内カウンターを後にする。
3階へと上る階段で、アルモアが「ねえちょっと」と袖を引いてきた。
「なんで受付の人とあんな親しげなの。やりとりがずいぶん気安かった」
「あー」
たしかにそうだったかもしれない。
グリフォーさんの態度が移ったのかな。
「まあ、2回目だしね」
「それだけ? ……あきれた」
支部長室前にたどり着く。
扉をノックしても返事がない。俺はひと声かけてから扉を開けた。
……すさまじく
おおう……。空間に
同じく頬をひきつらせるアルモアを連れて、室内に入る。
シグード支部長は机でうつぶせにぶっ倒れていた。
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