46.気がつけばスキルがすごいことに


 ……いやいや。

 いやいやいや。


 極めるってこういうこと?

 素人の俺に効果ありすぎないか?


「ねえ、どうやってこんなに強くなったの?」


 すがってくるアルモアに、俺は咳払いした。


「これは……アルモアの力だよ」

「え?」

「お前の持っているギフテッド・スキル【杖真術じょうしんじゅつ】をコピーしたんだ。だから俺自身の力ってわけじゃ――」

「あれだけ完璧に動いておきながら、そのセリフはない」


 ジト目で見られた。


「コピーだってイストの力でしょ? じゅうぶん、すごい」


 真顔で言われ、考えてしまう。

 そういうとらえ方もできるのか……。


 アルモアに杖を返すと、彼女はどことなく興奮しているようにつぶやいた。


「きっと【精霊操者】と同じ理屈よね。なら」


 ちらと俺を見てから、呼吸を整える。

 杖を構える。


「ギフテッド・スキル【杖真術】」


 スキルの解放。

 銀髪の少女の身体に、俺のときとまったく同じ輝きが宿る。

 ゆっくりと、さらに深い呼吸を繰り返すアルモア。


 あれ。

 心なしか……アルモアの姿勢がよくなったような?

 いや、彼女はまったく動いていないし。なにが違うんだろう。

 雰囲気?


「うー……!」


 フィロエが俺の隣で小さくうなる。悔しそうだ。


「イストさんに感じたのと同じ。こういうことだったんですね」

「こういうこと?」

「達人はすきがないってことです」


 ……? 達人って、アルモアのことか? 今のアルモアには隙が感じられないってこと?

 ああ、そうかなるほど。

 つまりアルモアの様子が違って見えたのは、【杖真術】によって一気に達人レベルまで技術が向上したからか。

 立ち姿から強さがにじむ、という奴だな。

 なるほど。なるほど。

 フィロエはもう相手の強さを敏感にとらえられるようになったんだなあ。


 ……ちょっと待って。

 それは俺も達人と同じ雰囲気をかもしてたってことか!?


 構えの姿勢をたもったまま、アルモアが俺たちの方を見た。珍しく口のはしを上げ、笑う。

 得意げな表情だった。

 フィロエがだんを踏む。


「私だっていつか追いつくもの! そしてイストさんにスキルを使ってもらうんだから! ぜったい!」



《発見しました》



「はァっ!?」

「イストさん?」


 突然奇声を上げた俺をフィロエが振り返る。



《【杖真術】の遣い手との交戦により、フィロエ・アルビィに新たなギフテッド・スキル【そうしんじゅつ】が解放可能となりました。

 対象の【運命の雫フェイトドロップ】に【覚醒鑑定】を実行してください》



 まったく予想していなかったタイミングと内容の『天の声』。

 新たなギフテッド・スキル……だと?

 まさか、『槍』と『杖』、系統が似ていたからか?

 いや、それにしたって、まだ才能を伸ばせるなんて。どこまで成長していくんだ、この子は。


「イストさん。どうしたんですか? 急に固まって」

「フィロエ……」


 さっきまで半泣きに潤んでいた瞳が俺を見上げている。


 ……気付いてしまった以上、やるしかないよな。


 俺はゆっくりとフィロエに手を伸ばした。


「あ、イストさん……」

「じっとしてるんだ」

「はい! じっとします! どうぞ!」


 なぜか気合いを入れて返事をするフィロエ。

 彼女の【運命の雫フェイトドロップ】に手をかざす。失敗しないよう、雑音を意識からはじいていく。

 どこかで誰かが「ああっ!?」と声を上げたような気がしたが、それも無視した。


「ギフテッド・スキル【覚醒鑑定】」


 フィロエを包むスキルの光。

 俺にとってはもう見慣れてしまった輝きの中、フィロエは祈りの姿勢で目を閉じている。

 口元が緩んでいるのはなぜなのか。


 カチリ、となにかがはまる音。

 俺の視界に光の文字が浮かび上がる。



槍真術そうしんじゅつ】 槍術を極める。



《【覚醒鑑定】完了。スキルは解放されました》



 ふう。とりあえずこれで大丈夫か。

 無事に終わってよかった。



《【槍真術】を『サンプル』によりコピーしました。

 同時に【閃突】【障壁】を『サンプル』により再コピーしました。

 すべてあと2回ずつ使用可能です》



「あの……イストさん? もう、終わりですか?」


 フィロエが片目を開く。

 そして、おそらく絶句した表情を浮かべているであろう俺を見て、彼女は小首を傾げた。


 俺はあいまいに笑いつつ、心の中で指折り数える。

 いま、俺が行使できるギフテッド・スキル。


【覚醒鑑定】――。

【閃突】――。

【障壁】――。

【命の心】――。

【精霊操者】――。

【杖真術】――

 そして【槍真術】。


 7つ……だと?


「イストさん! お願いがあります!」


 フィロエの声で我に返る。

 金髪の少女ははじけるような笑みを浮かべていた。


「【覚醒鑑定】、使われたのですよね。私にもスキルを見せてください! イストさんのすごいところ、また見たいです」

「期待のまなしだな……」

「だって、イストさんがお手本を示してくれないとどんなスキルかわかりませんから」


 白い歯がこぼれる。

 視線を横に動かすと、アルモアもどことなくソワソワした様子で俺を見ていた。

 俺はめいもくした。


「……フィロエ。槍を」

「はい!」


 わざわざエネステアの槍を持ってきて、俺に渡してくる。


 俺は槍を構えた。

 すでに【杖真術】を修めた身体は、槍の重さを心地良く感じている。


「『サンプル』発動」


 静かに槍先を中段に構える。


「ギフテッド・スキル【槍真術そうしんじゅつ】」


 全身を薄く光が包む。

 その瞬間から、槍は俺の一部となった。

 鋭さを増す呼気こき

 身体が動くままに俺は槍を振るった。


 不思議な感覚だった。

 こう動かそうと考える間もなく足が、手が、体幹が、しっかりと役目を果たす。その結果、まるで舞台で踊っているかのような高揚感を俺にもたらす。


 これが。

 達人の見ている景色か。達人が感じている世界か。


 中段に構えなおす。

 今度は意識して息を長く吐いた。


 エネステアの槍をフィロエに返す。


「これがお前のギフテッド・スキル【槍真術】だよ、フィロエ。……フィロエ?」

「ふぇっ!? あ、はい! とっても眼福がんぷくでしたえへへへ」


 恍惚こうこつとしている。

 ……俺、見せ物?

 いやそれより、彼女らの中で俺のイメージがどんどんすごい方向に膨らんでいないか?


 槍を受け取ったフィロエは、すっかり自信を取り戻した様子でアルモアに言った。


「これで負けませんよ、アルモアさん!」

「私だって負けない」


 うー……ん。

 フィロエは新たな力に目覚めて。

 アルモアはライバル的な存在ができて。

 よかった……のか?


 う、うーん……。


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