21.《スローライフ回》小さなミティのやりたいこと
大都市の商店街だけあって、さまざまな店が
ウィガールースに長く住んでいたが、やはり何度来ても楽しくなる。
露店メインの
――といっても、すぐにそれぞれ好きなところに行こうとして苦労したが。
俺は一番小さなミティがはぐれないよう手を繋いで歩いていた。
「くんくん」
ふと、ミティが鼻をひくつかせる。
横で見ているととても可愛らしい仕草だ。
「せんせー! キノコがあるよキノコ」
「キノコ?」
「こっち!」
手を引かれるままに進むと、確かにキノコを売る露店があった。
「よくわかったな……この辺りは飲食店ばかりで、匂いなんてまぎれてしまってるのに」
「ミティは孤児院の中で一番鼻がいいんですよ、イスト先生」
そういって後ろからやってきたのはグロッザだった。
片手には『戦利品』と
中身はアクセサリーとか、小物類だ。
おそらくステイあたりが荷物持ちとして押しつけたのだろう。
この辺のお人好しぶりは、なんだか他人事とは思えない。
「大変だな、グロッザ。持とうか?」
「いえ。いつものことですから。それに、ステイにこのまま荷物を持たせたら落としたりぶつけたりして壊してしまいそうだし。僕が持ってるよ」
小さく息を吐くと、グロッザは少しだけ笑った。
「本当に暴走したら問答無用でこれを突き返すけどね。あの子はああ見えて賢いから、自分の過ちに気付いて大人しくなります」
「策士だなお前」
やはり影のリーダーという俺の直感は当たっていたようだ。
俺たちが話し込んでいる間もミティは露天にかじりついている。
「ミティは本当にキノコが好きだなあ」
グロッザが言った。
俺もあらためて露店のラインナップを見る。
この露店、数種類のキノコを並べているだけでなく、すぐ隣でキノコをふんだんに使ったシチューも作っていた。
物凄くイイ匂いがする。
支部長のところでたらふく食ってきた俺だが、思わず鍋の中身をガン見してしまうほどだ。
「お嬢ちゃん。そんなにキノコが好きなら、好きなヤツで特製スープを作ってあげようか」
露店をきりもりしているおばさんが笑って言った。
ミティの顔がキラキラと輝く。
「いいの?」
「ああ。どれがいい?」
「じゃあ、コレ!」
小さな指で示したのはやけに曲がりくねった細長いキノコだった。はじめて見る。
おい……大丈夫かミティ?
だが俺の不安をよそにキノコ売りのおばさんは笑みを強くした。
「あらまあ。ネブマタケを選ぶなんて、お嬢ちゃん、なかなかの
「やったあ!」
片手でバンザイするミティ。もう片方は俺の手をしっかりと握ったままだ。
おばさんが手際よくキノコを処理していく。
しばらくして、ふいにミティが「あっ!」と声を上げた。
「おばさん、それダメ! ネブマタケじゃなくて、ダズマタケだよ!」
「ええ? やだよ、なに言ってるんだい。ここのは全部ネブマタケだよ」
「ウソじゃないモン! においがするんだもん!」
「匂いねえ」
おばさんがちょっと困った表情で俺を見る。
ミティもまた、俺の顔を見上げた。
わたし、うそついてないよ――と幼い瞳が必死に訴えていた。
どちらかというと気弱なこの子がここまで言うなんて。
――ひとつ思いついたことがあった。
「ミティ。ちょっとじっとしててね。おばさん、ちょっとだけ待っててくれ」
「ギフテッド・スキル【覚醒鑑定】」
小声で言う。
俺の手からあふれた光がミティの『
《『モニタリングLv1』発動。
対象の所持スキルを表示します。
【キノコ鑑定】》
俺はおばさんに向き直った。
「すみません。この子は嘘は言ってない。もう一度、調べてもらえないか?」
「そう言われてもねえ。こっちはいちおうプロだし」
そのとき店の裏から男性がやってきた。よく日焼けしてたくましい人だ。
「おう、どうした」
「ああ、あんた。いやね、このお客さんがうちのネブマタケをダズマタケだって言ってきかないんだよ」
「ああん?」
びくりと身をすくませるミティの頭を撫でた。
「大丈夫。俺はミティを信じるぞ」
「せんせー……」
ぎゅっと両手で俺の腕にしがみつくミティ。
「むむっ!?」
突然、おじさんが目の色を変えた。
「ありゃりゃ、これはいかん! 確かにダズマタケが混じってるぞ」
「ええっ!? だってカサに筋があるじゃないか。これはネブマタケの特徴で」
「ばっか。ここのカゴのは採取して時間が経ってるやつだろうが。ネブマタケなら筋はもっと薄くなってるだろ」
「ああっ、そうだったね。こりゃうっかりしてたわ。危ないところだった」
「ふーむ。どうやら混ざっていたのはコレ1個だけか。どれ」
おじさんは
「うん、この感じ、匂い、間違いねえ。毒キノコのダズマタケだ。いやあ、うちのかかあがすまなかったな」
「ほんとう、ごめんなさいねえ」
夫婦で頭を下げる。
「それにしてもお嬢ちゃん、すごいわねえ。匂いだけでキノコの種類がわかってしまうなんて。しかもネブマタケとダズマタケなんて、区別の難しいキノコを」
「まったくだ。なあ嬢ちゃん。よかったらウチで働かないか? しっかり勉強すれば、一流の職人になれるぜ」
ぐいぐいとせまられ、「あうう」とミティはうろたえた。
俺は彼女をかばって前に出る。
「機会があったら、ぜひキノコについて教えてあげてください。でも今日は家族を待たせているので、これで」
「そうかい。残念だな。嬢ちゃん、名前はなんていうんだ?」
「……ミティ」
「ミティちゃんか。俺たちはだいたいこの辺で店を開いてるからよ。いつでも来な。いろいろ珍しいキノコとか、採取場所を教えてやるよ」
「……いいの?」
ミティは俺を見上げた。俺は笑顔でうなずいた。
「ミティが好きなことを見つけてくれたら、俺もうれしい」
「……うん、わかった!」
ミティはキノコ売りの夫婦を振り返る。
「またくるね! よろしくおねがいします!」
「はいよ。楽しみにしてるぜ」
「またね、ミティちゃん」
ああ。
こうやって、それぞれのやりたいことを見つけていくんだなあ。
【覚醒鑑定】の一番大事な使い方を知ったような気がして、俺はしみじみとうなずいた。
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