第113話 自宅療養
頭がぼーっとする。
なんとか頭だけを持ち上げて自分の体を見てみると、体中から管が出ているし、腹部に大きな傷跡もあった。
治癒魔法で回復できないほどの
痛みがないのはマグちゃんの毒で抑えられているからかな? この傷だ、鎮痛毒が切れた時が怖い。
あちこちにコルセットらしき物が巻かれてるし、腹部あたりの皮膚の一部がやたら白い。移植したのかな? 重体のリズが運ばれていた時以来、有事に備えて医療処置系の物を創造しまくったのが功を奏したようだ。パッとみただけで高度な治療が施されているのがわかる。
傷口の状態が分かりやすいように透明の創部保護剤を創造していたのが使われているようだが、患者になってみると傷口が丸見えというのは精神的にくるものがある。元気になったら改良しよう。
マンデイはどこだろう?
声が出ない。
「あれ? ファウストさん?」
おっ、ワイズ君か。
マンデイを呼んできて欲しいのだが、いかんせん声が出ないし、ジェスチャーで伝えようにも体が動かない。
眼力で伝えるしかないか。
ほらワイズ君、マンデイだ。マンデイを呼んでくれ。
ぐぬぬぬぬぬぬ。
「すぐにマンデイさんを呼んできます」
おっ、通じた。やってみるもんだ。
「ファウスト」
通信機を使おうとするが反応がない。敵の攻撃で破損したようだ。マンデイ、導線だ。俺は喋れない。魔力の導線を使うんだ。
ぐぬぬぬぬぬぬ。
と、マンデイの胸から導線が伸びてきた。目力ってすげー。
(ファウスト)
(ありがとうマンデイ。命は助かったみたいだな)
(重体)
(生きてりゃなんとかなるさ。ハクとマグちゃんに怪我はないか?)
(ない)
(主は?)
(命に別状はない。けど食事が足りない)
ミルクか。
(マンデイ、後で新鮮な血液をくれ。増えるミルクを造る。有機物に混ぜるやつ。少し造れば後は発電機のエネルギーを利用して増やせるようにしておく)
(わかった)
(追手のケリュネイア・ムースは?)
(ユキが追い払った)
(ユキ? 闘将の?)
(そう)
(一人で勝てるとは思えんが……)
(大人の喧嘩をした)
(はい?)
(脅しとはったり)
(よくわからんがもう攻撃はしてきてないんだな?)
(うん)
とりあえず一安心か。
(ミクリル王子たちはどう? 変な成長してない?)
(弓将ルートがまだ変化に慣れていない。リザードマンになったアレンが火を吹けるようになった)
火て……。アレン君……。
(アレン君はさておき、ルートはしっかりフォローしてくれ。マグちゃんの鎮静毒で感覚を鈍麻させてもいい)
(わかった)
感覚が鋭くなりすぎると、普通の人なら考えられないようなストレスに晒されるケースがある。
バカみたいな視覚や聴覚、空間認識能力を得たリズも一時期、悩んでいたしな。
む? 体の痛みを感じるようになってきた。毒の効果が切れたか。
(マンデイ、体の痛みを感じる)
(毒を打つ)
(助かる)
(次に目を覚ました時は、もう少し良くなっているはず)
(そうか)
マンデイが管理しているなら安心して眠れそうだ。とりあえず死なないでよかった。
「あなた、が死な、ない、でよかっ、た」
おっ、管理者か。随分と久しぶりだな。元気にしてた?
「眠っ、てい、た」
よく眠れた?
「まだ眠、る」
そうか。もしかして心配して来てくれたの?
「友達だ、から」
だな。ありがとう。
「どうい、たし、まして」
そうだ、色々と話したい事があったんだ。
「あんま、り時間、はな、い」
忙しいんだな。
「休眠、が必要」
なるほど。
「頑張っ、て起きて、るから、話、をし、て」
あぁ、まず感謝の気持ちを伝えたい。創造する力と成長率の向上はかなり役に立ってるよ。危ない局面を何度も乗り切った。それとマグちゃんと出会わせてくれてありがとう。最高の仲間だ。
「よかっ、た」
正直もっとうまくやってくれと思う箇所も多々あったが、お前に会ったらどうでもよくなった。
「友達だ、から」
あぁ。
後は……。獣の代表者に会ったぞ。中々いい奴だった。
「獣、に関し、て私、はあなた、に警告、をしなく、てはな、らない」
警告? なに?
「亀仙、は攻撃、を受け、てい、る」
攻撃?
「夢、を改変、させら、れてい、る」
夢って、予知のこと?
「そう」
もしかしてそのせいで俺は死にかけたの?
「だから、あなた、は死にか、けた」
なるほど。ん? となるとフューリーは?
「獣、の代表者、は生きて、いる。でも仲間、を削ら、れた」
仲間……。
もしかしてネズミの獣人? おっきな鳥?
「違う。
ジェイやムドベベではなさそうだ。知らない奴でよかったと胸を撫で下ろす俺は非情な奴なのかもしれん。
亀仙を攻撃してるのは誰?
「囁く悪魔、と呼ばれ、る生き物。夢、を食う虫、と夢、を造、る生き物、を操っ、て、いる」
うわー、また面倒くさそうな話だ。
「囁く悪魔、は早く、処理し、た方、がいい」
肝に銘じておく。
「それ、と亀仙、は信じ、ない方、がいい」
わかった。予知の信憑性が薄いっぽいしな。
「眠た、くなっ、てきた」
そうか。
「最後、にもう、一、つ警告」
なんだ。
「代表者、が再構成さ、れた影響、を強、く受け、た生き物、がい、る」
ん?
「アシュリー、の時代、にル・マウが生まれ、たよう、に、ワト、の側に、アザゼルが、いたよ、うに」
この時代にもルゥみたいなのがいるってこと?
「可能性、があ、る」
わかった。気を付けとく。
「もう眠、る」
あっ、ちょっと待って。
「なに」
俺とお前が初めて知り合ったのっていつなの? ずっと思い出そうとしてるけどダメなんだ。
「知、の世界。あなた、は言った。お前、は一人、ではない、と。俺、が友達、にな、ると」
いやー、やっぱり思い出せない。
「悲し、い」
ごめん。
「あなた、は朦朧、とし、ていた」
うーん。いつだろう。
「もう、時間。眠、る」
あっ、わかった。ありがとう。
「…………悲し、い」
ごめんて……。
「アナタはなんでここにいるの?」
!?
夢……?
体の傷も消えてる。やっぱ夢か。
ここは……。
公園だ。夜。まえにいた世界。
俺に話しかけてきているのは小さな……。塊だ。人じゃない。なんと表現していいのかわからないが、意思を持ったなにかだ。
「※※※※、なんでこんなところにいるの!? 早くおいで」
この人は……。母だ。まえの世界の母。
あれ? 俺なにやってんだろ、パジャマのままだ。靴も履いてない。
「すぐに病院に行きましょう。さぁ、早く!」
母は随分と若いし、俺の体も小さい。
「ねぇ、アナタはなんでここにいるの?」
これは……。これは夢じゃない。
記憶だ。
「ファウスト」
「マンデ、イ」
お!
声が出た。だが全身に重りがついているように感じる。頭が痛い。腹が減った。最悪の気分だ。
「処置は終わった。あとは自然に回復するのをまつ」
「信じてたよ」
「うん」
そうだ! ゆっくりしてる時間がないんだった。
「復帰までどれくらいかかりそう? ちょっとマズいことになってそうなんだ」
「ひと月」
「ひと月か……」
長いな。
「脊髄を完全に損傷してた。予備の
「完全には戻らなくてもいい」
「なぜ」
「眠っているあいだに知の世界の管理者と接触した。どうやら獣の亀仙が精神攻撃を受けているらしい。予知が操作されている可能性がある。フューリーも危ない」
「いまは動かない方がいい」
「動きたくても動けないがな」
「逆の立場ならファウストは、完全に回復するまで動くなと指示をする」
「だがフューリーが欠けるのはキツい」
「フューリーは死なない」
「確かにフューリーは死なない。勝てる対面をし続ければ絶対に負けないだろう。だがフューリーの仲間は普通に死ぬ。管理者の話ではすでにフューリーの味方が何匹かやられてるらしい」
「だからといって体の自由が効かない状態で駆けつけて足手まといになるだけ。ファウストには主を守る役目もある」
ド正論すぎて返す言葉がみつからない。
「なんとかならないもんかな」
「ユキに頼んでみる」
「ん?」
「強さには色んな種類がある。ユキは強い」
そういやケリュネイア・ムースを追い払ったみたいに言ってたな。
「ユキ・シコウは国の防衛という重要な任務があるからどうだろうな。頼むならミクリル王子の方がいいんじゃないかな。そもそもあの人たちって世界を救うために編成された隊だから」
「わかった」
といってもミクリル王子だって
う。
鎮痛毒が切れてきた。体中痛い。
「マグちゃん!」
ブンッ
「なニ」
「鎮痛毒を打って欲しい。眠くならない軽めのやつを」
「わかったタ」
とにかく創造だ。どう転んでも対処できるようにしておこう。
「ファウスト」
「ミクリル王子」
「体はもういいのか?」
「よくないですが、時間がなさそうなんです」
「獣か」
「はい。で、どうされますか? 正直ミクリル王子以外に頼れそうな相手がいないので、是非とも受けて欲しいのですが」
「獣の代表者フューリーを援護すればいいのだな?」
「出来れば精神的なフォローもお願いしたいです。責任感が強く仲間想いのフューリーのことです。仲間を亡くした事実に打ちひしがれているはずですから」
「わかった。引き受けよう」
「ありがたい。一週間時間をください。その間に装備を整えます。武器や防具、ルート君の感覚を制御する装置、生活必需品、移動に必要な物品など、必要と思われる物はすべて造ります」
「あぁ、頼む」
「僕が創造しているあいだ、ミクリル王子たちは体を動かしておいてください。成長した体で可能なことと不可能なことをしっかりと把握しておく必要があります」
「わかった」
痛みは騙し騙しやるしかない。
武器系は以外と簡単だからなんとかなりそうだが、複雑なスーツは時間的に無理だろう。単純なアシスト機能がついたやつか、あるいは普通の防具か。
飛竜のアイテムは難しそうだな。空を飛ぶ生き物相手だと重量と実用性のバランスに気を使う。試行錯誤する時間の余裕がないのが辛い。
トテトテトテ
ん?
「あぁ、主様。もう歩けるんですね」
「あり、がとう。ふぁう、すと」
ほう、生まれたばかりなのにもう喋れるのか。
「お互い命があってよかった」
コツン
主が俺の腕の辺りに軽い頭突きをしてくる。
たぶんケリュネイア・ムースの感謝の証なのだろう。
可愛い奴だ。
可愛い奴だが骨折してる所に頭突きしちゃダメだぞ? 痛いからな?
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