第76話 助ッ人
サーモグラスで熱源を探しながらルゥが感知した場所に行くと、不干渉地帯の壁の手前に光る板のようなものが。
あれが噂に聞く【障壁】というやつかな?
猿とヒヒの中間みたいな生物の群れが、光の板に石やらなんやらを投げまくってる。なんだろうあの生き物。知らない子だ。とりあえず絶賛交戦中みたい。
なにしてんだろ。ルゥとおなじ魔術使えるならワープすればいいのに。テンパってるのかな?
『マンデイ、お猿さんを挑発してもらっていい? ハク、俺と一緒に魔術師の救出に行こう。マグちゃんは挑発に乗らない奴を眠らせて。殺す必要はないから軽めでいい』
『うん』『わかっタ』『gじno』
メリメリメリとスーツの音。
マンデイがメイスで地面を叩く。鈍い爆発音がした後、空気と周囲の木々が揺れた。
相変わらず、わけわからん威力だ。
お猿さんの群れがマンデイに気がつき、一斉に襲いかかる。
逃げるマンデイ。追いかけるお猿さん。
何匹か残るかと予想していたが、全部マンデイについていってくれた。いい感じだ。
『マンデイを救出してくる。マグちゃんは魔術師を案内して安全な場所に。ハク、怪我人がいたら運んでくれ』
『わかっタ』『joのw』
魔術師のいた地点から充分に距離が開らき、安全だと確認した後でマンデイを拾う。
クソ重い。なぜこの子はメイスなんてもってきたんだろう。
あっ、俺が武装しろって言ったからか。運ぶ時に面倒臭すぎるから、軽量化しようかな。グラム単位で軽くしていったらバレないかも。むしろ別武器をメインにしてくれないかな。
スパナとかさ。
あ、いたいた。
『お疲れマグちゃん、ハク』
情報通りだ。双子と男。
まずは男の方。長身細身、高齢。身の丈ほどの杖を手にしている。
双子ちゃんの方はカラフルなお召し物。一人は頭のてっぺんでお団子にした髪型。もう一人はパンダの耳みたいな二つのお団子。想像してたより幼い。なんとか雑技団みたいな印象を受ける。
「大変でしたね。猿は遠くまで誘導したので、もう大丈夫ですよ。ファンさんの紹介の方ですよね?」
「如何にも。
あぁ、ルゥマニアの人ね。わっかりましたー。
「「こんにちはー」」
おっ、元気な挨拶だな双子ちゃん。俺と違って友達多そう。
「私の名前はヴェスト・マウ」
「それで私がオスト・マウ」
えぇっと、お団子一個がヴェストで二個がオストな。よし憶えた。
「あっ、いま髪型で見分けようとしたでしょー」
「私も思ったー」
なぜバレたし。
「私たち、髪型コロコロ変えるから無駄ですよー」
「洋服もコロコロ変えるから無駄ですよー」
なるほど、じゃあ諦めよう。そんなことされたら見分はつかない。
「僕はファウスト・アスナ・レイブ。一応(知の世界)の代表者で、デ・マウと交戦中です」
「む?
尋ねてきたのはルド・マウ。
「えぇ、そうですが?」
「そうか。確かに空を飛んでおったしな。しかし……」
ブツブツブツブツ……。
え、なに? なにブツブツ言ってんの。
「あのねー、ルドおじちゃんはねー」
えぇっと、ヴェスト!
「ファウストさんが極悪人だって聞いてたからねー」
お前はオストだな!
「意外と普通の人間だなーって思ってるんだよー」
もうどっちでもいいや。
「普通の人間ですよ。そんな極悪人でもないし」
やっぱ王都を吹き飛ばそうとしたのが間違いだった。
「都市破壊、脅迫、領主への暴行、放火、拷問、
おっと。こうやって言葉にされるとくるものがあるな、心に。
「都市破壊と脅迫、領主への暴行、拷問は戦略上必要だったので悪人の演技をしただけです。後遺症などが残らないように気を使いました。放火と毒の散布は兵器開発の一環だったのでしょうがなかったんです。ぶっつけ本番で使うのが不安だったので。もちろん被害者が出ないように最大の配慮をしました。盗みに関しては知りません。恐らく混乱に乗じて窃盗を働いた者がいたのでしょう」
「ふむ。あるいはル・マウが
「ルゥを
「うむ」
ルド・マウってルゥと雰囲気が似てるけど、なんか違うんだよな。違和感バリバリだ。悪い人じゃなさそうだけど。
「さ。行きましょうか。ここにいてもしょうがないので」
「「はーい」」
うん。良い返事だ。この双子ちゃんとは仲良く出来そうな気がする。
「ルドさん、家まで通路を繋げて貰いたいんですがかまいませんか?」
「無理だ。目標が視認できていないと【ゲート】は開けない。こうも樹木で視界が遮られるとな」
あれ?
「ルゥは普通にやってますけど」
「
「なるほど」
じゃあ俺たちが輸送するしかないか。
ゴマも連れてくれば良かった。てっきり魔術の通路で移動するものだと思ってたから、マクレリアの護衛に残してきちゃったよ。そういえばファンの通路を通った時も、いくつもの通路を経由してたな。ルゥ以外の魔術師はそれなりの制約の上で魔術を使ってるのだろう。パンパンパンパン魔術を使ってるルゥが異常なのかも。
「ハク。三人乗せれる? えぇっと乗せれたら一回吠えて、無理そうだったら唸って」
唸る。
「じゃあ二人は?」
小さく吠える。
なるほど。
「二人はハクの背中に乗ってください。残りの一人は僕が運びます。空を飛びますから、それでも大丈夫そうな人を選んでほしい」
「「はいはいはいはい。空飛びまーす」」
さすがは双子。見事なシンクロだ。
「二人は重いのでどちらかひとりです」
睨み合う双子。えぇっと、腕を組んでるのがオストで、腰に手を当ててるのがヴェスト。あれ? 逆だったかな?
「おねぇちゃんに譲りなさい」
「やだー私がファウストさんに乗るー」
「私が乗るのー」
いや、乗せませんけど? 抱える感じですけど?
双子ちゃんのやりとりを黙って見てると、本格的な喧嘩が始まった。
ポカポカポカポカ。
頬を
なんか平和な喧嘩だな。ずっと見てられる。
が、このままに放置するわけにもいかない。
「まずどっちか一人を運びます。で、後半は別の方を」
「「じゃあ、私から乗りまーす」」
ホントに仲良しだな。
「どっちか選んでてください。僕は補助具を造ってますから」
家までの道程を一言で表現すると、うるさい、これに尽きる。
うわーすごーい。
あははは、飛んでる飛んでる。
高い高ーい。
キャー。
やっほー。
ずっとこんな感じ。
まぁ暗いより賑やかな方がいいか。
そんなこんなで家のまえに到着。
ずっとハクに乗ってたルドが少しグロッキーか?
「ルドさん。大丈夫ですか?」
「ファウスト殿。ここにル・マウが住んでいるのかな?」
「えぇ、そうです。五百年ここに住んでいるそうですよ」
「そうか……。ここにル・マウが」
ふーふーふー。
呼吸が荒い。目が血走ってる。
興奮しすぎて気持ち悪い感じなってるルド。
「儂はル・マウに会うのか。いまからル・マウに……」
「ルゥの体調次第ですが」
「うむ」
家に入ると、すぐにマクレリアが飛んできた。
「お帰りぃ」
するとルドが、
「なんと! 赤眼、赤髪。マクレリア殿では? ラピット・フライ最後の生き残り。ル・マウが救出したという! あの、伝説の……」
「そうだよぉ。マクレリアだよぉ」
「ルド・マウと申します! 呼び
「あはは、それじゃあルゥとおなじになっちゃうよぉ。面白いなぁルド君は」
「ルド……君……。儂の名を。マクレリア殿が……。そしてここがル・マウの家。ここが……」
ふぅ、ふぅ。
大丈夫かなこの人。血圧上がりすぎて倒れたりしないだろうか。
「マクレリアさん、ルゥの体調はどうですか? ルドさんがルゥに会いたいみたいなので」
「うん。大丈夫だよぉ」
口をポカンと開けて、放心状態のルド。
「ルドさん?」
「会えるのか……。この儂が、ル・マウに……」
「今日は体調が良いみたいなので」
石像と化すルド。ちょっと刺激が強すぎたかな?
「儂が……、ル・マウに」
「今日は止めときますか?」
「止めない! 断じて止めないぞ!」
あっ、そうっすか。
「それじゃあ行きましょう。ヴェストさんとオストさんもどうですか? しばらく行動を共にすることになりそうだから挨拶はしといて欲しいんだけど」
「「行くー」」
ベッドに横たわるルゥの姿を見た瞬間、ルドは大粒の涙を流した。
「稀代の魔術師ル・マウ。儂はルド・マウと申します。貴方の子、オキナ・マウの直系の子孫で、貴方の信奉者です」
「……」
……。
「あっ、基本的にルゥは喋らないので、そのまま続けて貰っていいと思います」
「
「……」
……。
このままルドに話させるのもなんか可哀想だ。沈黙する相手に語りかけ続けるのって辛いもんな。
「マクレリア。ルゥはなんて?」
「知に果ては無い。精進しろ、だってぇ」
本当に今日は調子が良さそうだ。
「はっ!」
ルドの顔がキラキラしてる。
良かったな。憧れの人に会えて。
「ヴェストさんとオストさんも挨拶しときましょうか」
「「はーい」」
「私がオスト」
「それで私がヴェスト」
「「よろしくお願いしまーす」」
双子ちゃんは普通だ。
「この双子ちゃんはルゥさんの再来と言われてる魔術の天才らしいですよ」
「……」
お、なんだか嬉しそうだ。
「マクレリアさん、なんて?」
「期待している、だってぇ」
挨拶はこの位かな。
あんまりルゥに負担をかけたくないし。
「これくらいにしときましょうか」
さて魔術師三人も合流したし、この人たちも混ぜて作戦会議の続きでもしようかな。
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