第72話 閑話 妖精 ノ 憂鬱 ナド
◇ 森 ノ 妖精 ノ 憂鬱 ◇
―― 現 在 ――
森の家
はぁ。ダメだなぁ。
こうやって家に置いてけぼりにされちゃうと、どうしても色々考えちゃうよぉ。
「どうしタ、マクレリア」
「うん。皆が頑張ってるのに私だけこうやってダラダラしてると罪悪感がねぇ」
「しょうがナイ。マクレリアが魔法ヲ使えバ、ルゥの負担にナル」
「わかってるんだよ。でもねぇ」
「ファウストはマクレリアとルゥのためだけニ戦ってイルわけじゃナイ」
「それもわかってる。デイがいる限り、ファウスト君に自由はない。この戦いはファウスト君のためにもなる。でもねぇ」
「なにガ不満ナノ」
「不満ってわけじゃないんだけどねぇ。はぁ」
どう説明していいんだろうなぁ。難しい。
「憂鬱……」
「そうだねぇ。憂鬱なんだろうねぇ。じっとしてると考えちゃうんだよ。皆と一緒にいれないこととか、お別れが近づいてきていることとか。なにか一つの原因があるわけじゃないんだ。色んなことが複雑に絡み合って、ゴチャゴチャになってる」
「……」
なにかを得ればなにかを失う。
きっとファウスト君と出会わなければ寂しくなることも、別れが悲しいものだって思い出すことも出来なかっただろう。なにかしてあげたいと悩んだり、無事を祈り神経を
でも。
代わりに手に入れた。そんなもの全部がちっぽけに思えるくらい大きなものを。
「ねぇマグちゃん」
「なニ」
「なんもないよぉ」
「なにソレ」
いままで生きてきた期間よりずっと濃密な六年間だった。
森で暮らし、肌で感じた命の循環。生と死。誕生と衰退。
そしていま。自分の体も滅びに向かっているのがわかる。自然の摂理という果てしない大海に、また戻るんだ。
でも不思議となにも怖くない。
ルゥと一緒だから。
そして……。
ねぇファウスト君。ねぇマグちゃん。君たちがいる限り、私はずっと存在するんだよ? 君たちのなかで生き続けるんだ。
命の循環のほんの少し外の方で。
「なニ。気持ち悪イ」
「マグちゃんはやっぱり可愛いなぁ」
「可愛くナイ」
「なんだか、マグちゃんを見てると憂鬱なんて吹き飛んじゃったよぉ。そろそろご飯にしようか。ジェイちゃんもお腹すかせてるよきっと」
「手伝ウ」
「うん。お願いねぇ」
薄紫の美しい髪の毛。輝く翼。
マグちゃんは本当に強くなった。今回の戦いでずっと大きくなった。
私が死を選んだことも受け入れてくれている。すっごく渋々だったけど。
私がじっと見つめていると、マグちゃんは首を傾げた。
「な二」
もっと。
「マグちゃんは本当に立派になったねぇ」
「そウ?」
もっと輝け。
「そうだよ。そしてマグちゃんはこれからもっともっと立派になる」
私の光。
◇ デスクワーク派 ノ 業務 ◇
―― 少シ 先ノ 未来 ――
イサキ邸
「セルチザハルの名がつく者を雇うんじゃなかった」
イサキさんが、溜め息を漏らす。
アイツがいなくってから、手厳しい取り調べを受けて、よくわからないことを延々と訊かれて、そりゃそりゃ大変だった。そうかと思えば今度はでっけー鳥が襲撃してきて、街中が戦争状態。
死んだやつ? 一々数えちゃいねぇよ。兵士も一般人も何人も死んだって話だ。
雇ってた傭兵共のなかにも連絡がとれねぇ奴がいる。死んだか飛んだろうよ。
「アイツとなんか話したか?」
「いや、なんも。あっ、なんか言ってたな」
「なにを」
「俺の髪型がどうとかって。なに言ってっかよくわかんなかったっすね」
「そうか」
「はい」
「とんだ疫病神だった」
「まったく」
なに考えてっかよくわからねぇ奴だった。髪型の件もそうだ。悪魔の奴隷を連れてた理由もわからねぇ。
性奴隷?
口も悪いし、目つきも悪りぃ。そんな男だった。
だがなぁ。嫌いではなかったよ。俺はな。
アイツのせいで徹夜する羽目になったが、その分の見返りは受けてっからな。恨む理由はねぇ。
清々しい奴だったよ。正直な奴だった。俺が言うんだ間違いねぇよ。
「そういやなんていいましたっけ、アイツ」
「ヨルだろ?」
「違う違う。ちょっとまえに暴れ回ってた剣士。セルチザハルの」
「あぁ、ヨークだ。死の番人ヨーク。思い出したくもねぇ」
「そんな名前でしたね。アイツは最初から嫌な奴だった」
「そいうや言ってたな。そんなこと」
「アイツは根っからの悪人だ。生まれ落ちた時から悪に染まってた。そういう種類の人間ですよ。目を見りゃわかる。それに比べりゃヨルはそこそこ見所のある奴だった。最後も義理通して行きましたしね」
「義理通そうがなにしようが、アイツはもう終わりさ。国崩しを企てたんだ。
「かもしんねぇっすね」
「一晩中むさ苦しい兵士に取り調べを受けてたんだ。眠くてかなわん。俺は寝るぞ」
「うっす」
この世界じゃよくあることさ。信念をもって反乱、罪人になって死刑。自分に力があると勘違いしてやがる。サイズを間違ってやがんだ、てめぇの器のサイズを。
なぁヨル。
テメェは良い男だったよ。
だが暴力はいけねぇよ。それをしちまうとよう。返ってくるんだ、もっと大きな暴力が。
あの世で悔い改めな。そしてよ、次はもっとうまくやるといい。
◇ 空白 ノ 期間 ◇
―― 少シ 過去 ――
農 園
「大変だったでしょう」
(なんということはないのう)
「まぁフューリーさんの足ならそうかもしれませんね」
(ところで知の。お主も随分変わったな)
「フューリーさんがいないあいだに色々
(埋め込んだ?)
「えぇ。腕のパーツは筋肉のなかに。頭は頭蓋骨にくっつけてて、背中は肩甲骨ですね。あんまり大きな物じゃないので負担は意外と少ないです。頭の補助パーツは触ったらわかりますよ。触ってみます」
(いや、遠慮しておこう。それと知の、お主空を飛んでおったが……)
「フライングスーツですね。あれは色々と大変でした。仲間を抱えて逃げることが出来たらなにかと選択肢が増えますし、単純に飛んでる生物って強いから造ってみようと思ったんですけど失敗の連続でしたね。
そもそも浮力の生み出し方がわからない。風魔法でどうにかするしかないと結論づけたのですが、僕の体は飛ぶ形をしてないでしょ? で、今度は翼を造ってみたけど魔力で操作するのは効率が悪すぎる。リズさんの義手に使った技術を応用してはどうだろうと背中にパーツを埋め込んでみたのですが、いままで翼なんて操作したことないから四苦八苦。
あと長期戦闘を視野に入れて、移動中に充電するシステムを考案したのですが、なかなかうまくいかない。
初めはプロペラ式の発電機を取りつけたのですが、推進力が得られない上にコントロール不可。で、無数のヒダを取りつけて、そこにかかる負荷をエネルギーに変換するシステムへ移行しました。ですがこの仕組みを採用したことで速度が低下しました。ですので、高速飛行中はヒダを折り
試行錯誤を繰り返してようやく完成したと思ったら、また問題が発生。飛行中に翼が折れたら終わるということと、地上の戦闘能力が低いということです。
この問題点に気がついた時はさすがに心が折れそうになりましたが、形態変化をさせることでなんとか解決しました。
僕のスーツは小さな粒の塊です。それが無数にくっついて出来ているのですが、損傷すれば一度分解して再構成させます。で、地上戦闘になった場合は、地上戦闘用の核に記憶されている形に組み直せば万事解決。
しかし今度は軽量化が原因で、攻撃力が低下するというトラブルが。だから攻撃専用の装備を造ることに。魔力を変質させて殴るというものなのですが、これがなかなか汎用性の高い仕上がりになりました。僕のお気に入りの一つです。
あと、マンデイも驚いたでしょう? フューリーさんが帰った後、一つ一つ成長していきまして、いまじゃそこらの生物より生物らしいです。もうご飯も食べれるし、なんでも出来ます。予想以上に強くなって困惑してる部分はありますが、マンデイは優しい子ですからね。手に入れた強さで弱い者イジメをするような感じにはならないでしょう。
そんなマンデイのために造ったのが水魔法の操作で火力を出すというコンセプトのスーツです。
これはフライングスーツと違って簡単でした。アシストスーツの応用でしたからね。
僕の能力は簡単なものであればあるほど化け物じみた性能になるのですが、マンデイのスーツはまさにそれです。コンセプトが明確、物理特化ですので、イカれた火力と耐久性を実現しました。殴る蹴るなどの瞬発的た動きは
あっ、それとリズさんのスーツの話も聞いて下さい。それと【コメット】スーツも。これが大変だったんですが--」
(ち、ち、ちょっとまて、知の)
「なんです?」
(お主も大変だったみたいじゃのう)
「えぇ大変でした」
(……)
「…………」
あれ? なんか引かれてるか? なぜだろう。
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