第172話 怒露駿技愛(ドロスギア)
信平は上杉景勝と合流した。
「上杉殿。遅くなりました。前田利家を捕らえたと聞きましたが」
「左様。佐々殿が自らがねじ伏せ捕らえた。利家殿は前田家取り潰しで構わんから兵の命を助けてくれと懇願し、利家殿と共にいた兵は武装解除し、佐々殿に預けておる。利家殿は大御所のところにいる前田慶次郎に前田家を継いで欲しいと言い、佐々殿は直接言えと突き放し申した。利家殿の処遇については信平殿にお預けしたく」
「わかり申した。佐々殿のお顔を立てましょう。しかし、まさか前田利家を生かすとは。余は若輩ゆえ佐々殿の心情はわかりませぬが、父上から漢が決めた事には意味はなくとも心があると聞きました。きっとこの先の未来に繋がる何かがあるのでしょう」
「信平殿は面白い考えをする。さすが勝頼殿の子だ。ところで金沢城攻めだが上杉に任せてもらいたい。佐々殿にいいところを持っていかれたのでな。少しは活躍せぬと勝頼殿に合わせる顔がない」
「わかりました。お任せ致します。それではわが軍と佐々殿、蘆名殿は先に若狭に向かいます。よろしいか?」
「承知。直ぐに追いついてみせよう」
二日後、金沢城は落ちた。前田利長は城で腹を切った。上杉景勝は五千の兵を加賀に残し若狭へ向かった。
織田信忠は武田信豊と合流して伊勢にいた。あまりの軍勢の多さに逆らう敵もなく堂々と大和へ向かっていた。
真田信綱、昌幸兄弟は伊達小次郎と共に琵琶湖を眺めながら因縁の山崎にむかっていた。途中の坂本城から兵が出てきたが兵の多さに驚き城へ戻っていった。坂本城主は滝川雄利、滝川一益の娘婿だ。かっての滝川家の勢いはない。義父を裏切って秀吉に付いた雄利にとって生き延びる事が正義だった。
ところが真田軍の侵攻が止まった。
「ん?伊達殿、どうなされた?」
昌幸は急に立ち止まった小次郎に問うた。
「あれは坂本城でしょうか?あの明智光秀の」
「左様。光秀殿とは何度か話をした事があるが立派なお方だった。織田家があそこまで栄えたのも光秀殿の功績が大きかったのは間違いなかろう。自らが天下人になろうとするとは志の高いお人でもあったのだろう。誰に唆されたのかはわからんが真っ直ぐなお方であった」
「今は誰の城なのでしょう?」
「滝川雄利殿が収めている。滝川一益殿の系統のはずじゃが何で秀吉に付いたのかはわからん。織田信雄殿の下にいたと聞いておったが」
伊達小次郎は、真田信綱に願い出た。
「このまま進む事も出来ましょう。ですが後ろを取られるやも知れません。伊達家に坂本城攻めを命じて頂きたく」
「捨て置いてもいい城だが、何かお考えがおありか?」
「坂本城はあの明智光秀の城、東北のそれがしには話しか聞いた事のないお方ですが、以前大御所が光秀は秀吉に騙されたが、立派な男であった。出来るものなら助けたかったが叶わなかった、と仰っておられました。その光秀殿の城、それがしが取り返し大御所へお渡ししたいと存じます。それがしが伊達家を継げたのは大御所のおかげでございます」
「よかろう。だがあまり時間がない。すぐに追いつかれよ」
真田軍は東北勢を置いて先に京へ向かった。七日後、坂本城を制圧した東北勢は真田軍を追いかけた。坂本城は籠城したが、蓄えがなく、謀反者も続出し滝川雄利は腹を切った。この歴史でも滝川家はいいところがなかったようだ。
海の上を武田海軍が進んでいる。戦艦駿河、焼津、清水、富士の他に楓マーク2が多数。それに一見空母に見える大型輸送船が15艘だ。空母のように見える輸送船には関東の兵2万人とその他諸々が載っている。
輸送船の名は、
「上様、足の調子はどう?」
「お市様、だいぶ馴染んで参りました。で、この触るなと言われた仕掛けは一体?」
「うーん、これを使う時が来ないことを祈るわ。上様。上様に直接攻撃をしてくる者がいたら迷わず仕掛けを発動させて下さい。それとこれを」
「何ですかこれは?」
「大御所とお揃いのベストです」
この時代にベストはない。当然ただのベストではなく何やら両胸にいくつかの部品らしき物が付いている。信勝はお市の言う通りにするよう勝頼に言われていたのでとりあえず言われるがまま着用した。
これの出番は大阪城、お市はそう思っていた。
「まあ上様が使うことはないわね、大御所は使うよなあ、絶対」
海軍の中にはお市の厳しい訓練のさらに上、究極地獄の特訓を乗り越えた七人の勇者がいた。その七人はこう呼ばれていた。
真・鬼神七兄弟と。この七人は大阪城攻略の為にお市が自ら考案した特訓メニューをこなした猛者達だ。実は特訓内容は海軍とはあまり関係がない、ただただ厳しい特訓だった。
それは積載している秘密兵器が答えになるだろう。
お市一行は大阪湾を通り過ぎ、毛利の領地へ向かっていた。そこに毛利水軍が現れた。
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