第170話 疾風のように

 上杉景勝は金沢城の前に突然現れた軍勢を見て、


「良い敵なり」


 と呟いた。前田利家の姿が見えたのである。


 その時城の屋根からハンググライダーが10機飛び立った。ただのハンググライダーではなかった。そう、甲斐紫電カイシデンと同じように電動プロペラ付きだ。穴山から電池の技術は豊臣軍に流れていて量産されていた。直ぐに落ちる事なく、飛行距離を稼いでいる、狙うは景勝だ。





 少し前、金沢城内では軍議が開かれていた。将達が報告が入るたび慌てて叫びまくっている。


『申し上げます。上杉軍二万五千、城を囲んでおりまする』


『申し上げます。周辺のお味方、城を囲む上杉軍に突入致しました。敵六千に対し、我が軍一万五千』


「おお、敵を蹴散らす絶好機」


「今こそ上杉に一泡………」


『申し上げます。上杉軍が城の囲みを解き、我が軍を円形に囲みました。敵の作戦と思われます』


「何だと、罠だと言うのか」


「殿、如何なされます、殿」


『吉報!利長様軍勢が敵円陣の一角を集中攻撃し突破した模様』


「殿、今こそ利長様に援軍を」


「殿、上杉景勝本陣には千名足らずしかおりませぬ。上杉本陣へ攻め込むのが良策かと」


「殿」


「殿!」


 前田利家は、考えていた。秀吉についた。娘も差し出し、孫ができた。しかも豊臣の跡取りだ。全て上手く行っている、ここを乗り切れば、そう乗り切りさえすれば直ぐに秀吉の援軍も来るだろう。


 敵の戦意をくじくにはどうするか?そう、大将の首だ。上杉景勝か武田信平の首が取れればよい。佐々なんぞ小物はどうでもいい。


「上杉本陣に向かって全軍突撃する!」


「おお!」


 利家は空撃隊を全て攻撃に加えた。また兵が出撃する中、忍びに信平暗殺を依頼した。そして自らが長槍を持ち戦陣に加わったのである。





 上杉軍は飛んでくるハンググライダーを警戒した。


「撃ち落とせ、あんなのはただの的だ。撃て!」


 上杉軍は上空に向けて鉄砲を撃ちまくる。ハンググライダーは次々と撃ち落とされたがその隙に前田利家は馬に乗り景勝本陣へ突入しようとした。


 利家自らが槍をふるい突っ込んでくる。周囲には護衛の兵が利家を命がけで守っている。倒されては新しい護衛が変わるがわる現れ主人を守り、利家は槍の又左の名に恥じぬ暴れっぷりだ。数に勝る利家軍は景勝に100mまで迫った。


「犬千代ー!お前の相手は俺だー!」


 その時突然佐々成政が僅かな兵と共に駆けつけ利家に突っ込んだ。どうやら城を出た利家を見て猛ダッシュで駆けつけようだった。軍勢は成政に追いつけず続々と進んできている、その数二万。五千の兵は金沢城に直接向かい、残りの兵は利家軍を囲んだ。


「犬千代、いや又左衛門。ここであったが百年目。信長様へのご恩を忘れ親父殿を裏切った悪党めが。わし自ら成敗してくれる」


 成政が利家に突っかかり、必然と一騎打ちのようになった。周りの兵は不思議と手を出さない。というか二人から立ち上る赤と青のオーラが舞い上がり、誰も手を出せず見つめていた。二人以外の時間が止まっているようだった。


 成政は槍を振り回し、利家が受ける。利家が突き、成政がそれをはじく。

 成政とて利家に劣らぬ猛将である、実力は拮抗、だが利家は戦闘後であり疲れていた。時間が経つに連れ差がでてきた。


「どうした、槍の又左も老いたな。その程度か、上様のご恩を忘れた愚か者め」


「そなたこそ時代の流れをわからぬ愚か者よ。信長公のやり方では民はついてこない、秀吉は新しい時代を作れる漢よ」


「秀吉がか?援軍もよこさぬではないか、お主は捨て駒であろうに。そんな秀吉についていこうとする馬鹿な男には用はない」


 成政の槍が利家の兜を飛ばした。利家は覚悟を決め、座り込んだ。


「殺せ、最後に頼みがある。前田家は取り潰しで構わんが兵は助けてやってくれ」


「ほう。家はどうでもいいと言うのか」


「元は荒子の国衆、しかもそれがしは分家の出。そうだ、慶次郎がおった。武田家にいると聞く。あのたわけに前田の名を託すと伝えてくれ」


 成政は困った。憎い、ずっと利家が憎かった。この手で八つ裂きにしたかった。ところが目の前にいる利家はあまりにも弱かった、いや老いただけかも知れないが俺はこんな男に振り回されていたのかと気が抜けてしまった。


「直接言え、面倒くさい。上杉殿、この馬鹿を殺さずに連れて行きたいのだが」


 景勝は面白くなかった。勝手に割り込んできおって、あっという間に利家をねじ伏せた。見事ではあるが横から獲物を攫われたのである。だが、成政と利家の因縁を知っていたので仕方なしと諦めた。せめて城攻めは上杉が行う事で妥協した。


「成政殿。控えているように指示したはずだが、まあいい。さて、うーむ、信平殿と相談だな。慶次郎殿はどこに?」


「信忠様と一緒のはず。大阪城で会えるだろう。とりあえず、鎧を脱げ犬千代」


「なぜ殺さぬ。そなたらには味方はせぬぞ、わしにも意地がある」


「殺す価値もない。せめて人質になってもらう」


 前田利家は縄で縛られて同行することになった。兵は投降したが、金沢城の反対側ではまだ戦が続いていた。景勝は成政に言って佐々兵を引かせた。






 前田利長は援軍に現れた直江兼続を蹴散らし金沢城へ入場した。その数三千。ところが入場してみると利家はいない。すぐに物見を出した。


「殿は上杉軍と戦い敗れました。人質になっております」


「何だと」


 城の後ろでは上杉軍との戦いはつづいていた。直江兼続の指揮の元、徐々に前田軍は殲滅されていった。兼続は周辺の出城、砦を抑えにかかった。すでに前田兵はほとんど残っておらず簡単に占拠できた。


 前田軍は実質金沢城の三千のみとなった。



 兼続は景勝と合流した。

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