第161話 兄と弟

 男は百田助蔵こと助さんを探していた。真田の庄に助さんがいる事は秘密になっている。村の者は皆そんな人は知らないと答えていた。


「そうか、秘密になっているのだな。俺が来ているのもお忍びだしさてどうするか?」


 そこに大崩から真田の庄に移ってきていた田中光吉が男を見て、


「の、信平様?何でここに、こりゃまたご立派になられて」


「やあ、みっちゃんじゃん。久しぶり」


 里は大騒ぎになった。殿、殿が来られた、歓迎せねばと急に活気が出てきた。


「皆の者。構わないでくれ、突然きてしまい申し訳無い。助さんに会いにきたのだがご息災か?」


 信平は里の奥にある怪しげな館に案内された。


「殿。どうなされた?この爺に何かご用ですか?」


「おお、助さん。元気そうで何よりだ。早速だがあのラジコンとやらを教えてもらえぬか?」


 助さんは理解した。殿は焦っておられる。


「なぜにございます。殿は大将です。自らが闘われる必要はありません。将を、部下を指揮し武田家を勝利に導くのが信平様の務め。それに戦は大御所と上様に任せておけばいいのです。餅は餅やというお言葉をご存知か?」


「余には戦は向かぬと申すか」


「違います。戦のやり方は千差万別。真田様の様に策略家もいれば忠勝様の様に剛の者もおります。その時々でどの戦法が最善か?誰をいつどこでお使いになられるのか、それを決めるのが大将の務め。大将が自ら武器を持つ必要は無いのです」


「では父上や兄上は何なのだ。剣術、武術、射撃も超一流ではないか?」


「武田家は勝頼様が生まれた頃は甲斐と信濃の一部を有する小さな大名でした。戦って戦って領地を増やしていったのです。それ故に自らが先頭に立って戦う必要がありました。ですが、もう武田家は将軍になりました。上様に万が一の事があれば信平様も次期将軍の候補になります。その様なお方の今為すべきことは、戦のやり方ではありません。国が統一された後の治世です」


「それはわかる。だがまだ国は統一されてはおらん。余は前回の戦が初陣だった。結果格さんに助けられて何とか上田に逃げ帰った。そんな情けない男がもし将軍になったとして皆が従うだろうか?皆が余を敬うのは父、勝頼の子だからではないのか?」


「お家という物はそういうものです。家臣は人ではなく家に仕えます。それに信平様は立派な武将ですぞ。逃げ帰ったと言いますが、よくぞ生き延びられた。武田家は何度も負け、その度に強くなった家です。逃げ帰ったのではなく次につなげるために生き延びられたのです。殿は雪風はお持ちか?」


「持っておる。護身用に持つように言われておる」


 裏へ来るように言われ行くと、そこは訓練場だった。まずは撃ってみろという。

 全弾撃ったが的に一発も当たらなかった。


「その腕でラジコンですと。笑止千万。弾をここに百発置いていきます。今日はここにお泊りください。明日までに多少は当てて下さいよ」


 助さんはそう言って家に戻り、城へ使者を出した。それと川根にいる勝頼とは愛話勝アイハカツで信平が来た事を伝えたが、かーるく好きにさせとけ、助さんに任せたと言われてしまった。全くあの人は人使いの荒いのは直らんなとしばらく唖然としていたが、


「そうか、好きにしていいんだな。最後のお勤めじゃ、任された!」


 とすっかりハゲてしまった頭をペシンと叩き、悪魔の様な笑みを浮かべる助さんであった。





 長浜城での密談を終えた後、一行は岐阜城へ向かった。岐阜城で直江兼続は別れて越後へ戻っていった。次に備えるという。


「斎藤道三の城か。それが信長、信忠の城になり今の城主は真田、いや武藤昌幸。この数十年で世の中は変わった物よ」


「兄上、何を物想いにふけっておられるのです」


「お屋形様がお亡くなりになり、穴山殿が裏切り色々あったが武田家が江戸に幕府を開いた。もうすぐ夢が叶う。お屋形様の天下統一の夢がな」


「我が真田家も小県の国衆から国持ち大名になりました。これも大御所はじめ武田家家臣の絶え間ない努力の積み重ねかと」


「昌幸。お主は勝頼様にお仕えして長い。幸村も信勝様と親しい。これからの武田家を頼んだぞ」


「兄上。何を言って………」


「この先ただでは済むまい。真田家を大きくしていただいた恩を返さねばならぬ。儂に何かあったら再び真田姓を名乗るがいい。なに、心配はいらん、命の安売りはせんよ」


 信綱は長浜へ戻っていった。信勝は蘆名幸村と昌幸の家臣に守られ清洲城へ向かっていった。


 何事もなく清洲城へたどり着いた。城門の前で織田信忠、松姫が出迎えていた。


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