第105話 信勝と茶々

 6月8日 勝頼は大崩の造船所にいた。助さん、桃、紫乃に迎えられそのままお市が使っている研究室に入った。部屋にいるのは勝頼、信勝、お市、真田昌幸である。助さんには気球の整備を頼んだ。


「では、全て話そう。まず、余とお市は未来から転生した。転生ってわかるか?」


 勝頼は神隠しにあうまでの事を話した。勝頼考案の武器が未来の知識から作ったものである事。そうはいっても格さん、助さんがいなければ作り上げる事ができなかった事。材料を集めたり作ったりは簡単ではなく、気持ち良く量産はできない物も多いという事などだ。


 それから転生前の歴史では今年の3月に武田は織田、徳川連合軍に滅ばされ、勝頼、信勝が死ぬ事。その時に穴山、小山田が裏切る事。最後まで真田家は味方だった事も話した。


「ここまではいいか。余はなぜ転生したのかまだわかってはいない。ただ勝頼として生まれ変わった以上、そのまま死ぬ気はない。歴史を変えるという事がどういう事かもわかってはいないが、こうなった以上、余は精一杯生きてやれる事をやる。それを邪魔する者は排除する」


 それから、神隠しの後の事を振り返りながら説明した。







 美濃流は湖衣姫のお墓まいりをした時に不思議な石を拾った。俺に拾われるのを待っていたような感じがした。


 その石を持って諏訪の秘密基地へ行ってみた。山中だが途中までは車で行けるようになっていて、行けるとこまでいってから歩いた。残念ながら跡形もなかった。周辺を探したが何も無い。


「手掛かりは無しか。とはいえ過去に戻れるとすれば諏訪だろう」


 美濃流は諏訪にアパートを借り、手掛かりを探した。お市の金のおかげで現金には余裕がある。古事記、諏訪にまつわる伝説、お市の言っていた女神について調べ、探索した。


 元々は馬場美濃守の願いを諏訪大明神が聞いて、俺が勝頼になった。多分ここまでは合ってる。恵ちゃんがお市になったのは何故だ?それとどう見ても秀吉は転生者だ。戦国時代に高校野球もどきをやるなんてありえない、きっと前世では野球選手か野球好きだったんだろう。


 3人も転生したのか。3人とも諏訪大明神のせい? ん?


 諏訪大明神が秀吉を転生させるか? ないな 。不利じゃん、ん?不利?何に対して?整理しよう。


 * 勝頼は諏訪大明神が転生させた。目的は馬場美濃守の願いと、それ以外にもありそうだ。


 * お市は諏訪大明神の八坂刀売神ヤサカノトメ が転生させた。これは間違いない。ただ、何でだ?もしかして勝頼とお市をくっつけるためか。


 * 秀吉を転生させた者がいる。こいつも神なのか?元々秀吉は転生しなくても天下人だ。ただ死後は無様な結果になったが。


 何にせよ転生させた目的がわからない。3人それぞれに目的があるのではないか?で、何で俺だけ現代に戻ったのだ。いや戻らされたのか。答えは簡単、邪魔になった。何の?誰に? 何をする為に邪魔になったのか、秀吉が天下を取るのに邪魔になった?だから秀吉を転生した神が俺だけ排除したとか。


 何となく辻褄はあうな。こじつけ過ぎてるけど。


 この現代から見た歴史では秀吉が天下を取って秀頼が豊臣幕府を開いてる。前世とは随分違うがこの結果が秀吉転生の目的なのかも知れない。

 秀吉が栄えて得をする神がいるって事か。神って損得関係あんのかね。


 さて、てことはだ。どの神が得をしてその神が損をしたかでわかるって事?ヒントは神社にあるのかもね。


 何度となく諏訪大社へ行った。上社にも下社にもだ。前世とそんなに変わった感じはしない。例の石を持って参拝した。神主さんに諏訪大明神のご加護をこの石に、とお金払って拝んでもらった。何も起きない。


 同じ事を何回も繰り返した。何も起きず、気晴らしに古府中へ行くかと甲州街道を走っていくとすごく大きな神社があった。春日神社だ。


「あれ?こんなところに神社あったっけ。それもこんなに立派な。」


 美濃流は春日神社によって調べることにした。



 春日神社。藤原家の始祖を祀っている。ふーん、藤原家か。立派なお家柄ですな。摂政関白って藤原家だっけ。あ、秀吉も藤原家の養子になって関白になったんだ。この春日神社は豊臣幕府の命令で穴山家によって建築された。ふーーん、やっぱりこの世界というか豊臣幕府ができたからだからって事か。前世ではなかったもんな。


 あとは、建御雷神タケミカヅチ を祀ってるのか。え、建御雷神タケミカヅチ って古事記に諏訪の話で出てきたぞ。

 もしかして、話が繋がったか?


 秀吉を転生させたのは建御雷神タケミカヅチ なのかもしれん。豊臣家が続くことによって神社も繁栄した。神社が栄えると神様にもいい事あるのかね?


 となると俺を転生させたのは、諏訪のもう一人、建御名方神タケミナカタ という事か。





「だいぶ長くなったが、ここまではいいか?」


「大殿。豊臣幕府って何?秀吉って源氏じゃあないから関白になったって教わったけど」


「お市。言葉使いがまた戻ってる。まあこの四人ならいいか。信勝、昌幸、実は余とお市は前世では一時期恋仲だったのだ。転生してやっと結ばれた」


 二人声を揃えて、


「何と」


 お市は顔が真っ赤になっていた。いい歳こいて照れるなっつーの。


「豊臣幕府か。この説明をすると信勝がな」


「父上。何ですか?これ以上驚く事はありますまい。すでに天地がひっくり返っておりまする」


「じゃあもう一回ひっくり返れば元に戻るな。余がこの時代に戻って来れなかった未来では、本能寺の変で信長、信忠が死に、秀吉が天下を取った。お市の言うように秀吉は出生がはっきりしない。朝廷を使って無理矢理藤原家の養子となって関白となった。秀吉の死後幕府を開いたのは嫡男の秀頼だ。秀頼は秀吉と茶々の子だ」


「何ですと!茶、茶々があ、あの秀吉の子を産む、し、信じられん、いや、あ、あってはならぬは。今すぐに秀吉の息の根……」


「うるさい!天地がまたひっくり返って戻ったろ。お主が茶々を好いてるのは知っておる。血は繋がっていないのだから問題はなかろう。すでに歴史は変わった。余が信忠を助けたのでな。この後はどうなるか誰にもわからん。ただ秀吉が天下を狙っていてこの武田家とぶつかる事だけは間違いない。信勝、関東を制圧したら婚儀を行なおう。で、話を戻すぞ。茶々は浅井長政の子だ。源氏の血を引いている。つまり秀頼は源氏という事で将軍となったのだ」


「何でもありですね。勝者は何をしても許されるのですね」


「お市。茶々はどうなのだ」


「お屋形様の事は兄のように慕っております。問題はないかと」


「じゃあ決まりだな。で、話の続きだ」


 勝頼は話を続けた。


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