第81話 お市の戦い

 前回、大崩の造船所では風魔忍者20名が勝頼に倒された。その事を風魔は知らずに怪しい建屋を占拠する目的で近づいた。


 森の中には人の気配はないが、目に見えるところに罠が仕掛けてある。一見素人が作ったように見える罠で余りにもあからさまだったので逆に風魔は警戒した。


 作戦はこうだ。森の上から近づき建屋に仕掛ける。敵が森に目を向けたところで正面から突入する。風魔お得意の陽動作戦である。これが偶然前回の風魔と同じ作戦になり、待ち構えていた武田兵の餌食となることになる。


 陽動は風魔の常套手段であり、この造船所を攻めるのにはこの場所しか無く、同じ形を取るのは必然であった。




 森の上に半数の15名、一本道を残りの15名で仕掛けようとしていた。まず森の中を警戒しながら進んだが、あからさまな罠を避けたところに隠していた罠があり、足を取られた。足に紐が巻きつき木の上に吊るし上げられ、そこに苦無が四方から飛んできた。


 この罠で三人が命を落とした。苦無には毒が塗られていたのである。と、同時にカランカランと音が鳴り響き、建屋から人が出てきて見晴らし台に登り何やら鉄砲に似た武器を森に向けた。


 生き残りの12人が森を抜け崖に立ったと同時に、その武器が火を噴いた。マシンガン 嵐乱連アラレ である。あっという間に50発連射し敵を見ると、敵は2名を犠牲にし木の陰に隠れ銃弾を逃れていた。


 風魔は下忍を盾にしたのだ。見晴台の兵が何てことを、と考えた隙にに矢が飛んできて見晴らし台の兵を倒した。銃声を聞きつけ、中から30名ほどの兵が出てきた。その中にはお市もいた。


 崖の上から矢を射る風魔に対し、建屋の屋根がスライドして地面に立ち、盾になり矢を防いだ。崖の上からの攻撃を防ぐ為に作られたお市アイデアの防御壁である。矢が一段落したタイミングで兵に命じボーガンから桜花散撃改を3発、崖の上を狙って発射させた。


 それと同時に、一本道を風魔忍者が建屋に向かって走って近づいてきた。建屋に近づくにはこの一本道しかない。お市は今度は桜花散撃を一本道に向かって発射させた後、20名の兵を一本道を向かってくる風魔隊に備えさせた。




 崖の上では炸裂した手榴弾から無数の小型手裏剣が高速でばら撒かれ敵の半数は即死、三名は怪我を負ったが残りの三名はやはり他の忍びを盾にして手裏剣を防いだ。


 お市と武田兵は崖の上は仕留めたと思い目を離したが、その隙に無傷の風魔忍者は崖から飛び降りた。崖の高さは20mはあり、いくら忍者でも無事ではいられない、その時両手両足に風呂敷のような布を広げ、パラシュートのようにして落下してきた。風魔忍法 ムササビの術である。布には蠟が塗られており空気を通さない。お市達はそれに気づかない。






 一本道の方では上空で炸裂した手榴弾から無数のマキビシがばら撒かれた。風魔は編み笠を盾代わりにし、致命傷を避けていた。だが、地面はマキビシだらけで思うように進む事が出来ない。そこを狙って建屋から飛び出した桃がリボルバー雪風を連射し、他の兵も弓矢を放った。雪風の弾丸は編み笠を貫き四名が負傷した。武田兵は矢を打ち続け風魔は半数が撤退した。


 武田兵が追おうとしたがマキビシが邪魔で進めない。お市は追撃をやめさせ、ふと振り返ると空中から敵が落下してきていた。


 慌てて、


「崖から敵三名襲来」


 と叫びポケットから何かを取り出し指につけた。お市の服装は着物ではない。ロングTシャツにジャージにスニーカーととても姫様には見えない格好をしていた。全て勝頼に頼んで作らせた特注品である。


 風魔忍者は高さ3mくらいのところで、布から手を離し苦無を投げつつ落下した。兵が三名倒された。着地と同時に忍び刀を抜きお市の方へ向かってきた。それを見てお市を庇うように武田兵が間に入り応戦した。


 桃は駆けつけたかったが、一本道を撤退した風魔が戻ってくるのを警戒していたため動けなかった。


 武田の兵は半分は伊賀者である。甚三郎の指示でお市を護衛しつつ敵襲に備えていた。


 敵が二人倒され、最後の一人がお市に向かって突っ込んできた。お市は待ってましたとばかり、左手を前に振り、すぐさま右手を振った。と同時に念のために後ろへ下がった。左手から飛び出したのは粉球で、敵が刀で払った瞬間、辺り一面が真っ白になった。右手から飛び出したのはそう、ヨーヨーである。鉄で作られた物で重さは1kg、回転と同時に刃が飛び出す仕掛けがしてある。目の前が見えなくなった瞬間、顔面にヨーヨーが直撃し悶絶しているところを、他の兵に斬られた。


 お市はヨーヨーを戻し一息ついた。一応下着がわりに鎖かたびらは着てはあるが痛いのは嫌いである。ダッシュで逃げる用意はしていたがなんとかなった。実は背後には甚三郎が控えていてもしもの時は助けに入ることになっていたが、お市が指揮をとりたがったのでやむなくこうなった。


 お市様に何かあったらお屋形様に顔向けができませんと何度もお市に訴えたのだが、何かに対抗しているようで私がやると言って聞かなかったのである。




 甚三郎は部下を駿府へ連絡する為に走らせた。それと崖上の風魔忍者にとどめを刺しに向かった。




 お市は、


「これで開発に没頭できるかしら。問題は武器なのよねえ」


 と呟き、造船所に戻っていった。そう、楓、お幸に対する焼きもちがお市を変えた。勝頼の役に立つ女No 1はお市でありたかったのである。






 駿府城では、風魔忍者が人質をとり脱出を試みようとしていた。一人が徳姫の喉元へ後ろから刀を当て、一人は信平を抱いていた。


「そこを開けろ、それと刀を地面に置け」


 風魔は城の入り口へ向かった。真田昌幸、本多忠勝、井伊直政は忍びの5m後ろを歩いていった。


「動くな、そこに座れ。そして向こうを向け」


 風魔は三人をこちらが見えないように座らせた。その瞬間、徳姫の足を切り、信平を抱いたまま城から逃げ出した。


「いたーい、痛い。信平、信平を返して」


 叫ぶ徳姫の声に驚き駆けつけた時には、風魔の姿は消えていた。


「医者だ、医者を呼べ!」


 直政は医者を呼びに走った。昌幸は徳姫を慰め、忠勝は居ても立っても居られず風魔を追って走った。





 しばらくして、勝頼が駿府城へ戻った。事の成り行きを聞いた勝頼は、今までになく激怒した。昌幸が今までに見た事のない鬼の形相だった。


「お屋形様。申し訳ありません。この忠勝、腹を切ってお詫び致します」


「馬鹿者、腹を切ったら信平が帰ってくるのか!命に代えてでも取り返してこい! 昌幸、伝令を出せ。北条を攻める。上州勢には倉賀野城、鉢形城を落とすように伝えよ。甲斐勢には滝山城を落とした後小田原へ向わせよ。関東の国衆には武田につくよう伝えよ。北条につく愚か者は今後敵とみなすとな。

 それから、余は三島へ向かう。あずみを呼べ。茜もだ」


 勝頼は徳姫を見舞った。徳姫の傷は大したことなかったが精神的なダメージが大きく震えて泣いていた。勝頼は、心配するな、信平は必ず取り返すといって、戦の準備を始めた。




 その後、駿府へ現れた甚三郎の部下にお市に城へ戻るように伝えた。徳姫につけるためである。


 そして秘密部屋から愛話勝アイハカツ を使い戦艦駿河、格さんと連絡を取った。


 織田信長へは北条を攻める旨を伝え、織田から来ている応援要請を断った。

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