第76話 第一次木津川河口海戦とおまけ
曾根昌世は、佐竹義重と会っていた。
「佐竹様。武田勝頼が家臣、曾根昌世でございます。本日参ったのは我がお屋形様は佐竹様と懇意にしたいと考えておられます。今回武田家で生産しております塩硝と、滋養強壮剤をお持ちいたしました」
「曾根殿。武田家では塩硝を作っておるのか。鉄砲には弾薬が必要だが、常陸では商人を通じ高値でも仕方なく購入しているのだ」
「お屋形様は、今回の塩硝を試して頂き、良ければ今後は安値でご提供したいと申しておりました。佐竹様は結城様や宇都宮様とも通じておられるご様子。共通の敵は北条になるゆえよしなにとの事でございます」
「武田は北条と結んでおろうに」
「そうでございます。ただいつかは北条と戦う日がくるとお考えのようです。その時に佐竹様にお味方いただきたいと申しておりました」
「北条にはいつも苦労させられておる。息子の義宣の時代に同じ苦労はさせたくないのでな。この佐竹、勝頼殿にお味方致す」
曾根は塩硝とかつよりんZを献上し、今後の連絡の為城下に武田商店を開く許可をもらった。今後塩硝は武田商店経由で販売することになった。
木村悟郎と配下の忍びは東北へ向かった。蘆名、伊達、岩城、白河の情報を得るべく拠点を作る為である。
曾根並びに武田船団は大崩の造船所へ向かった。彼らはまだ造船所が襲われた事は知らなかった。
真田昌幸は弟の真田信尹を連れ大友宗麟、義統と会っていた。すでに家督は義統に譲っていたが実権はまだ宗麟が握っていた。
「武田勝頼が家臣、真田昌幸でございます。武田家では、是非に大友様と懇意にさせて頂きたいと、この度、武田家で生産しております塩硝と滋養強壮剤を献上しに参りました」
「武田勝頼殿のご活躍は九州まで聞こえてくるぞ。五ヶ国の太守ではないか。織田とも同盟を結んでいるらしいし、何もわしと組まんでもよかろう」
「お屋形様は先を睨んでおいでです。織田は勢いがありますが、信長様のやり方ではうまくいかない可能性もあると。お屋形様は早く戦のない世にしたいのです。様々な可能性の中で、九州では大友様こそが信じるお方だと申しておりました」
「世辞はいい。本当に塩硝を作っておるのか?今我らは商人に毛利に塩硝を売らないよう働きかけておるのだ。織田信長のところの羽柴というのがうるさいのでな」
「羽柴殿がそのような事を」
「将軍が織田に追い払われて毛利へ移った。今後は織田と毛利の争いになる。毛利に弾薬が回っては都合が悪いのであろう。その間にわしは毛利に取られた領地を取り返すつもりだ」
そうか、もう織田の手が回っているのか。しかも秀吉。
「塩硝ですが、今回のをお使いいただいてよろしければ今後は今のご購入金額より安値でお取引させていただければと存じます。武田は水軍を持っておりますので、輸送は問題ありません。ご注文ですが、ご城下に武田商店という店を作るご許可を頂きたく。今後はここにお話いただければと」
「あいわかった。九州は任せておけと勝頼殿へ伝えよ」
それと、弟の信尹を紹介し、九州の視察をさせたいのでと領地内を歩く許可をもらった。早速城下町の中で土地を買い、店の建築を始めた。
「信尹、わしは四国へ寄ってから戻る。お主は暫く九州にいて九州の大名を探ってくれ」
「わかり申した。兄者も気をつけて」
前世の歴史では信尹は武田家滅亡後、徳川に仕えていたが、この歴史では昌幸の補佐役を務めている。
その頃、織田信長は明智光秀に石山本願寺攻めを命じた。光秀は五千の軍勢で攻め掛かり天王寺砦を占拠したが本願寺勢が大量の鉄砲と二万の兵で反撃し砦から出られなくなってしまった。
信長はまだ京にいたが、その話を聞き取るものも取らず大阪へ向かった。あまりに急な出発だったので誰もついてこれず、結局大阪で味方がつくのを待って、織田軍総勢五万の軍で攻め掛かり光秀を救出した。
本願寺勢は城へ立て篭もった。織田軍は周囲の砦を全て抑え籠城する本願寺勢への食糧調達を断つ作戦に出た。石山本願寺は攻めにくい拠点である。織田軍とはいえ力尽くで攻め取るには無理があったのである。
ところがいつまでたっても兵糧が尽きる感じがしない。そう、陸路ではなく水路で兵糧が運搬されていたのである。
信長はそれに気付き、直ちに織田水軍に制海権の確保を命じた。織田水軍の将、九鬼嘉隆は300隻の船で海上を封鎖した。
これにより食糧調達が困難になった本願寺顕如は、毛利家にいる足利義昭と連絡を取り制海権を取り返す旨を依頼した。
毛利輝元は領地を拡大した結果織田と領地が接する事になり、織田との同盟で悩んでいた。そこに足利将軍が信長に追われて輝元を頼ってきた。
その上、織田は毛利の領地に牽制を始めた為、足利義昭を受け入れ織田と対決する事を決断した。
毛利水軍600隻が木津川河口に現れて、織田水軍と激突した。毛利水軍は焙烙火矢と呼ばれる武田家の桜花散撃に似た、火薬が飛び散り辺りを燃やす手榴弾を使い織田の船を全て燃やし尽くした。
この戦いでの毛利水軍の損害は0。織田水軍は300隻全てを失った。
毛利水軍は楽々と石山本願寺へ兵糧を運び込んだ。
織田信長はこの敗戦を聞き激怒した。ならば燃えない船を作れ!と指示し、領地にある船を全て集めて改造を始めた。
毛利水軍は兵糧を運び込んだ後、悠々と海上を進んでいた。突然目の前に黒ずくめの20隻の船が現れた。そう九州から戻ってきた武田水軍である。
真田昌幸は正面から海一面に広がって向かってくる船団を見て、
「とりあえず進路を南へ向けてください。逃げられるとは思えないですが」
そう、船速はこちらが早いが占拠してる面積が違いすぎる。こっちは20、相手は600はいる。
伊谷は戦艦清水、焼津に載っている間宮兄弟に進路を南へ全速移動を伝えた。
毛利水軍は織田水軍に対し圧勝しており自信に満ち溢れていた。俺ら最強じゃん、というノリである。
そこに謎の船団が現れたのである。
この海域で毛利水軍でないイコール敵である。勢いで攻撃すべく態勢を整えて射程距離に入ったところで焙烙火矢を放った。
「いっけー、燃えちまえ!」
武田の船は全て鉄甲船である。火はあちこちに飛んだが燃える事はなかった。攻撃された
毛利の船は一撃で沈んだ。
「あーあ、撃っちゃった。まあやられたらやり返すしかないですな。海の男ってのはそういうもんです」
伊谷は呑気に昌幸に話しかけた。
「お屋形様からもやられたらやってもいいと言っておられましたので、やっちゃいますか」
「では、遠慮なく」
「あ、半分くらい残してください。お屋形様がもしもの時はそうしろと」
「承知致した。全船、砲撃用意」
指示が各船に伝えられた。20隻の船が一直線になり、砲台が毛利水軍に向けられた。
毛利水軍は、武田の船に乗り込もうと近づいてきた。
「撃てー!」
20cm砲弾、20cm鉄球が全砲門から発射され、当たった船は海の藻屑となっていった。
「撃ち方、やめー」
だいたい半分くらい沈めたところで、一気に逃げ出した。
毛利水軍は初めて見る鉄甲船とその武器に恐れおののいた。全滅を覚悟したが、なぜか敵船は逃げるように見えなくなっていた。
帰港後、輝元に報告したところ、その船に勝つ為の大砲を作る様領内に指示が飛んだ。
昌幸は何事もなかったように清水港へ帰港した。
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