第50話 駿府はいいところだ
家康が東照宮作ったのってこの辺だよな?
勝頼は海が見える山の上にいた。駿府である。そういえば恵ちゃんが言ってたっけ。
『静岡にはね、海と山と川があるんだよ』って。その時は普通じゃんて思ったけど、古府中や伊那にいるとここのありがたみがわかる。親戚が静岡にいるって言ってたよな。どう繋がって恵ちゃんが産まれるんだろ?
「静岡はいいな。」
「殿、静岡とは何ですかな?」
高さんが不思議そうな顔して聞いてきた。
「ん?静かな丘はいいなと言ったのだが。」
適当にごまかした。家康が老後を駿府で過ごしたのには理由がある。気候が温暖で地震も少ない。それこそ、海があって山があって川がある。日本で一番過ごしやすい場所かもしれない。
将来俺が天下をとったら、ここに俺が祀られるのか。もしかして神になっちゃうの?
「殿、明日軍議があるそうですが。」
ボーッと考え事をしていたら楓が話しかけてきた。お幸には親衛隊jrの特訓と、格さんの手伝いを命じていたので、ここのところ側にいるのは楓である。そのため、前回伊那に戻った時には側室に会う前にお幸に襲われた。側室の方が立場は偉いが、一応先輩が先と思ってるみたい。
「軍議か。いくつかあるのだが、まず水軍を作りたい。おそらく父上も同じ考えだと思う。武田の水軍を作るのだ。そうでなければ今後の戦は勝てん。楓、伊那の者に命じ今川の水軍だった奴らがどうしているか調べさせろ。そいつらを家臣にするのだ。」
「承知。」
楓が走り去った。お、俺があげたスニーカーを履いているではないか、愛い奴。
「高さん、最近弟には会ったか。」
高さんの弟は、親衛隊jrの中でも一番の成長株で、寅松という。
「この間帰った時に会いました。お幸様のしごきが鬼のようだと嘆いておりました。まだまだお役に立つには早いかと。」
「そうか。お幸は褒めておったぞ。機転が利くそうだ。明日の軍議次第だが、弟には駿府に来てもらうかもしれん。」
「?????」
少し遡ります。
滝山城を攻めた武田軍はそのまま小田原城へ軍を進めた。と、慌てる北条をおちょくるように雪の中を一気に古府中へ戻った。田植えが終わった頃、武田軍は今度は駿河へ進軍し、あっという間に蒲原城、清水城を落とし、駿府城を手に入れた。旧今川家に仕えた猛将達は、諜略により武田についた。特に駿府城代であった岡部正綱は優れた武将であり、駿河平定の立役者になっていった。
勝頼は信豊と蒲原城を落とし、駿府へ入っていた。今回の様々な戦を見て、『父上は西上を焦っているのか?死期を感じているのか?』と、前の信玄とは何かが違うと感じていた。ならば、取る道は決まってくる。明日の軍議の前に考えを整理する為に海が見える山の上に来ていた。
「そう、軍議では。それがいい。」
勝頼は方針を決めた。
翌日の軍議には武田家の重臣の他に旧今川勢も出席した。今後の戦をどう進めるかと諸侯に聞いた信玄に対し、いの一番で勝頼が答えた。
「水軍が必要かと。今川、北条の水軍から人を引き抜き日の本一の武田水軍を作るのがよろしいかと。」
「三郎兵衞はどう思う?」
「今後戦を続けるには舟を使い物資を運ぶ事が重要と考えます。また、舟と舟の戦にもなるかと。」
三郎兵衞こと山県昌景は答えた。山県昌景は信玄が最も信頼する重臣であり、その言葉は信玄の代弁者とも言われていた。
信玄は西を見ていた。信長は既に京へ登っている。身体が動くうちに、駿河、遠州、三河を抜け織田と対決し京へ登りたかった。それには陸軍だけではなく、海軍が必要と考えていた。勝頼が同じ事を考えていたのには驚いた。戦では先陣を切りたがり変わった武器を使い、自らも敵陣に突撃する勝頼が物事を俯瞰して考えられるとは思っていなかったのである。その時、勝頼が想定外の事を言った。
「駿府を某に頂戴したくお願い申し上げます。」
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