第2章 機動隊
「どこに行きやがった」
一階を隈なく探して見たが、どこにも難波の姿はなかった。
機動隊隊長の松尾重五郎は考えごとをしていた。
この会館に入った時から思っていたが、そもそも、この会館には今まであった大量の本が床にばらまかれた状態で、とても人が歩けるような状態ではなかった。この状態を難波が故意に作っているのか、それとも先ほどの爆発の地響きで起こったのか、そんなこと考える必要はないな。前者に決まっている。
「隊長、何処にも居ませんね」
松尾より先に探し終わっていた副隊長の近衛向日葵が、隊長という長に勝ったことを隊員に知らせるように、勝ち誇った笑みを浮かべ大きな声で叫んでいた。
「相変わらずバカでかい声だな向日葵。しかし、どこに行きやがった。国防省から連絡のあった通り、難波の情報を持った奴のスマートフォンのGPSをつけてきたのに。確かに此処だったよな、向日葵?」
「はい、隊長。確かに此処で間違いないですよ。というよりか、その名前で呼ばないでください。向日葵って名前ですけど、俺男なんですから」
勝ち誇っていた向日葵に場所を確かめると、次は隊長が俺を頼ってくれたと言わんばかりに嬉しそうに答えた。
「そうだったな。悪いな向日葵」
「また隊長は俺をからかう」
そんないつも通りの下りになったところで、一人の隊員が声を上げた。
「隊長、そんないつもの下りはどうでもいいんですけど、その国防省に電話をかけてきた人のスマートフォンがそこに落ちていましたよ。それに、僕たちが来たときエレベータが地下に下りましたし」
お前さり気なくそんな事って言ったよなと思いながらも、本題に入った。
「お前、言うの遅いよ。エレベータなんて入った時にすぐ分かっただろ。で、何階を指していたんだエレベータは?」
「隊長、此処のエレベータは、上の階か下の階かしかでないんですよ。スマートフォンの
ことはすみません、何か楽しそうにしていましたから」
「楽しそうにしてねぇよ」
二人の声がかぶり、周りの隊員たちから笑い声があがった。
「隊長、その仲を仕事に生かしてくださいよ」
そう言って、その隊員は松尾の指示なしで勝手に館内を探し出した。
「一人で探すことに何も言わんが、何かあればすぐに俺たちを呼ぶんだぞ」
「分かりました」
すでに松尾の目に映らなくなっていた隊員の声だけが微かに聞こえた。
「これが此処にあるってことは、難波の仲間か、俺たちの尾行に気づいて捨てたか、どっちかだよな向日葵?」
「そうですね」
向日葵はいまだ松尾が負けを認めないことに拗ねていた。
「でも、他にこうとも考えられませんか。もし奴が、難波の仲間でないとすると、残るのは人質にされたか、仲間以上の関係――例えばこの事態を招いたのが、その国防省に電話をして、俺たちが尾行してきた人物……」
「そうかもしれんな。まだ此処に難波たちは居るはずだ。全フロア隈なく探せ、今からは自由探索時間だ。ただし、何かあれば俺たちにすぐ連絡すること」
このフロアに居る、全隊員に聞こえるよう叫んだ。
松尾は基本、事件の捜査などは自由探索という名目で事件解決に臨んでいる。
この操作方針に反対の者も多いが、これで今まで未解決だった事件から、強盗、さらには殺人まで、幅広い犯人を捕まえてきた。
松尾はこの方法があながち間違っていないと思っている。なぜなら、個人で事件を解決の方向に持っていくことで、各自の探索スキルを上げることができるからだ。これによって、将来の若い者が立派な警察官、自衛官に育っていくことを松尾は知っているから、この方針を取っていた。
今でこそ、その働きが認められて、日本どころか世界の警察、自衛隊をまとめる機動隊の隊長になっている。
警察に成り立ての頃は、黙々と仕事をし、精一杯肝も冷えるほどの難事件を解決し、警察の長になった。松尾のやり方に不満を持った警察官たちが抗議しに来たことも一度だけではなかった。警察の長になったにも関わらず、周囲から嫌われ、松尾は孤立状態になっていた。その時、松尾に最後まで文句もつかずについてきてくれた奴がいた。向日葵だ。向日葵は、松尾のやり方に少なからず賛同していて何かと助けてくれた。そのおかげで俺は頑張れて、次第に周囲からも少しずつだが信頼を得ることができた。向日葵がいてくれたからこそ今の俺がいる。
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