序章 学校生活

「今日も学校か・・・・・・」

 毎日決まって同じことを言いながら、今日も僕は学校へと向かう。

 学校へ着いて数分もしないうちに一週間という時を長く感じてしまった。しかし、今日はまだ月曜日らしい。それは黒板に目がいった時に初めて知った。最近の部活は練習試合や大会が土日まで詰まるハードなものだった。だから今日が何曜日なのか分からなくなるほどに、曜日に対する錯覚を起こしているのだと気が付いた。

「月曜日・・・・・・まだあと五日もあるじゃないか」

 曜日をそのまま何気なく眺めていると、ふと下の欄に視線がいった。

 日直の欄に自分の名前が書かれていたからだ。

「はぁ、それに今日は僕が日直の日じゃないか。なんてこった、面倒くさいな・・・・・・」

 何かとこの学校の日直は面倒くさい仕事を任される。花の水やりから授業の号令、そして移動教室時の消灯や机の整理整頓・・・・・・他にもいろいろと仕事をさせられる。

 一クラス、生徒が二十六人(多少誤差があるが)という少人数で構成されている。単純に計算すると、ひと月に一回日直の仕事が回ってくることになる。

 そんな面倒な日直の仕事をまともに最後までしている生徒は数少ない。昨日の生徒も面倒くさがって最後までしなかったんだろう。

 名前の字からして担任が書いたもので間違いなかった。普通は日直が次の日の日直の名前を書くのだが、大抵の生徒は書かない。ただ、それは僕たちの担任が優しすぎるからなのかもしれない。生徒一人一人に気を使い、そのすべてを自分一人で補うように陰で動いている。多分、僕と一部の生徒しかそのことには気が付いていない。だからこそ僕は、先生の手助けをこれまた陰からしているのである。

 そんなことを考えながらも、僕は日誌を取りに行くため椅子から立ち上がった。

 日直が面倒だからと言って、勢い良く立ち上がったのは良いものの、僕は他人に迷惑をかけることはしたくなかった。とりあえず、他人が足を引っかけないように、椅子を少し持ち上げ机の下に入れた。

「何か楽しいことでもあれば、毎日でも学校に行く気になれるのに・・・・・・」

 日誌を取りに駆け下りる階段で呟いた。

 僕のクラスは二階にあり、職員室までは階段を下る必要があった。

 階段そばの廊下の曲がり角から三年の担任が出てきて驚いたのは言うまでもない。休み明けの朝の廊下は特に騒がしく、先生の足音が全く聞こえてこない。

 聴覚には自信があるほうだが、ここまで騒がしいと呆れて聞く気もなくなる。足音を聞いてもいいが、それには至難の業が必要だし、別に悪いことはしていないのだから先生たちに気を使う必要もない。

「相変わらず騒がしいな。休みの日ぐらい自分の時間を満喫してるに決まってるだろ。わざわざ騒ぐなよ。お前らはまだ小学生やってるつもりかよ」

 先生とすれ違いながらも、蚊の鳴く声で呟いた。大概の休み明けは同じことを呟いている気がする。

 

 コン、コン、コン・・・・・・


 僕は少し開いている職員室の扉を軽く叩いた。

「失礼します。二年二組の久遠です。日直日誌を取りに来ました」

 僕がそう言うと、奥の方から目擦りながら眠たそうにしている先生が出てきた。その先生の右手には日直日誌と達筆な朱字で書かれた黒色の冊子を持っていた。欠伸を隠す手とは反対の手から差し出された日誌を受け取った僕はそそくさと職員室から出ようとした。

「相変わらずお前とあいつだけだな。しっかり日直としての仕事を最後までしてくれるのは……。俺は久遠たちの担任ができて嬉しいよ」

 すでに背を向けていた僕に掛かった声は寂しそうだった。

「丸山先生、無理しないでくださいよ。僕とあいつ・・・・・・遠馬だけは少なくても先生を助け続けますから」

「そうだな、ありがとな。本当に困ったときは久遠たちに助けを求めるよ」


 僕が通っているのはどこにでもある普通の高校だ。僕はここに通って今年で二年目になる。

 歴史のある学校だが、外観は白く綺麗な色をしていて、窓ガラスには周りの景色が映りこむほど透明で、誰が見ても新校舎だと見間違えるほどである。現に僕も入学当初は新校舎に立て直したのかと思っていた。住んでいる住民でさえも見間違えるほど綺麗な校舎のため、他所から来た人は必ずといっていいほど見間違える。ただ校舎の中だけは歴史には逆らえないのか、さすがにところどころ汚れが目立っている。

 それでも毎日、用務員の人たちや僕たちが掃除をすることによって、何とか綺麗な状態に保たれている。

 しかし、僕たちはどちらかといえば、学校に通っているという理由で掃除をさせられているように感じている。

 綺麗な校舎での勉強は気分がいいし、昼ご飯を食べる時も清潔な環境で食べることができる。しかし、そう感じている割には掃除を僕は好きになれない。たぶん大半の生徒が同じ考えを持っていると思う。

 二年目を迎えて授業が忙しなくなってき始めた先日、一週間前に行われた中間テストの成績表が返ってきた。今回のテストは、僕が満足できる結果ではなかった。いつもなら平均九十点以上を余裕でとれる僕が、今回は点数が取れなかった。先生はそれを僕に渡すときに小声で「何か困っていることがあるんか?」と聞かれた。僕はその言葉を不思議に思い、それを恐る恐る見た。そこには平均八十二点と書いてあった。

 それでも、クラスの中での成績は上位だったので、クラスメイトから「竜也ってやっぱり頭いいよな、どうやって勉強してるん?」などと聞かれる。

 一年の頃から繰り返し聞かされているその言葉は僕には重たかった。自分の成績が落ちることで、自分から離れる人がいるのではないか、先生からも見放されるのではないかと、いつも不安に駆られる。人間関係とはいつ壊れても不思議ではないのだと僕は思う。だからこそ、僕は一度つながった人の輪を安易に放したくない。

 しかし、幾度となく聞いているはずの言葉に僕は答えることができない。僕は基本的に勉強をしないほうの人間だった。だから、自分からすれば、勉強をしておいて点数がとれないというのは、自分で自分を痛めつけるほどの勉強をしない、その甘えのせいからではないのかと思う。

 そんなことを思う僕でさえ、全国と勝負すれば下位のほうにいると思っている。確かに学校の小テストや定期テストはほとんどが満点に近いが、前回受けた学力を試す、全国模試では中間のあたりにいた。

 だから僕は、自分が全国では下位のほうだと勝手に決めつけてそう思っている。

 一週間後、一学期の全範囲で作られたテストが行われる。これは実力を試すためのものであり正規のテストではない。だからと言って勉強しないわけにはいかないのだが・・・・・・

 二年生になってからというもの授業が難しくなり、ある程度の余裕しか持つことができなくなってきていた。だから、今まで通りの良いテストの結果がでるのか自分でも分かっていない。就職希望の僕にとっては、二年生である今のテストの結果や評定も大変重要になってくる。そのため僕はこのテストに全力を注いでいる・・・・・・

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