力を見せろ!狩猟祭!
赤黒レンズ
第1話
「うーん、この村は相変わらずのどかだな」
輝く陽射しを一身に浴びて、気持ち良さげに両腕を天に突き出した旅の剣士の青年アルドは、村の周囲を散歩しようと歩き出した。
だが、村といっても人間の村ではなく、彼の周りには青い肌、頭部に一対の角がある亜人種、魔獣族がその日の暮らしを営んでいた。
本来、特にこのAD300年ミグランス王朝の時代では、人間族と魔獣族は対立関係にあるが、蛇骨島という魔獣族の島にある村、コニウムではその法則は当てはまらない。魔獣族本来の戦闘の性はあるものの、平和的に暮らしたいと思う者が多数生活をしている。だからこそ、人間族であるアルドたち一行が出入りしても、珍しい客という反応で済む。
アルド本人も仲間が何人か出身のため、バルオキーほどではないが何度か旅の途中で寄っていた。それはさておき、しばらく歩いていると、蛇頭イゴマに続く入り口付近で10才くらいの子供たちが男女2人ずつ何やら相談をしながらもの憂い顔をしていた。
「私は釣りが良いと思うんだ…だって手頃じゃない?」
と大人しめな女の子が言うと、
「いや、こういう大事な時こそ魔物でも取るべきだろ?釣りなんて練習次第で誰でもできるしカッコよくねーじゃん!」
と活発そうな男の子が言い返す。間髪入れずに
「そうよ!どうせならいつもと違うのを相手にした方がいいわ!特別な行事なんだって分かってるんでしょ?」
と、大人びた女の子が少年に同調したが、
「で、でも…大人たちもあまり無理するなって言ってたじゃないか。あんまり難易度が高いのは、みんなを心配させるだけだって」
と臆病そうな男の子が反論した。しかし不服そうなもう1人の男の子は、
「それはそうだけど、それじゃ変わり映えなくてつまんないよ!お前たちは、そろそろ自分で獲物を獲りたいとか思わないのか?」
と口を尖らせると、反対していた大人しめな女の子と臆病そうな男の子は
「それは……」
「確かに、つまらないけど、でも……」
と俯く。
側で聞いているだけのため話が見えてこないが、困っているのなら力になれないかと、アルドはおーい、と声をかけた。
「なんの相談なんだ?こんな道の真ん中で」
「あっ!アルドだ!」
4人の中でも、活発そうな男の子はすぐに反応してきた。魔王ギルドナの仲間として、アルドはこの村のほとんどの住人に顔を覚えられているため、種族の壁はなくすぐに話に入れる。
「今ね、狩猟祭の相談をしてたのよ」
大人びた女の子が可愛らしい仕草で答える。
「狩猟祭?それはなんだ?」
アルドが怪訝な表情で聞き返すと、
「狩猟祭はね、簡単に言うと狩りのお祭りかな!」
と、活発そうな男の子が楽しそうに言った。
「へえ、お祭りか!それは楽しそうだな、名前からしてみんなで何か狩るのか?」
アルドが自身の考えを聞くと、全員の顔が個人差はあるがいくらか曇った。
「ま、まあ、そうなんだけど…」
「ちょっと、何というか、ね…」
大人びた女の子と大人しめな女の子が困ったように顔を見合わせる。
「ん?違ったか?もしかして、今揉めてたことに問題があるとか?」
子供達の歯切れが悪いため、アルドも自身の予想を聞いた。それならそれで話してくれれば協力しよう、と思っていた。…が。
「あー、いや、合ってるよ。いや合ってはないけど」
「ええ?」
かなり曖昧な返事だ。活発そうな男の子まであやふやな答え方をしたため、アルドは戸惑う。合っても間違ってもないってなんなんだ。何か言いにくいのかな?と思っていると、とうとう臆病そうな男の子が
「…狩猟祭はお祭り。それ自体は間違ってない。でも、その内容は実際建前で、本当は試練みたいなものだからだよ」
と俯きながら付け足す。
「試練?」
「私たち魔獣族は、芽角の年から毎年、家族や日頃お世話になっている人に、狩りの獲物を取ってくる習慣があるの」
「それで、僕たちは何にするかをみんなで話し合ってたんだ」
大人しめな女の子と臆病そうな男の子がつないで説明をした。アルドは腕を組んで少しの間考えた。
「芽角って…」
(ASデュナリスクエストをしている場合)
『ああ‥デュナリスが慶命の儀に集めた子供たちのことか』
(ASデュナリスクエストをしていない場合)
『聞き慣れない言葉だけど、魔獣族の子供たちのことを指しているのかな?だけどまず、話の腰を折らないようにするか…』
「ああ、それで狩りをするか釣りをするかで話し合っていたんだな?でも、やっぱり子供だけで魔物狩りはやめておいたほうが良いと思うぞ。感謝のつもりが心配させちゃ、本末転倒だろ?」
アルドが確認をしながらたしなめた。手伝うことは出来ても、流石に子供たち全員を魔物のいる場所に連れていくことは危険すぎる。しかし、活発そうな男の子は割りきれなさそうに訴えた。
「分かってるよ、けどなあ、毎年同じなんだよな。釣りっていっても近くの水場だけに制限されるから、種類が限られるし」
「かといって、みんなで協力、はご法度だしね…」
大人びた女の子の発言に、アルドは驚き目を見開く。
「え!?なんで協力がダメなんだ?」
すると、臆病そうな男の子がおずおずと口を開く。
「さっき試練だって言ったでしょ?あれは、普段お世話になっている人のための感謝だけじゃなくて、自分たちがどこまで成長したかっていう腕試しの意味も含まれてるんだよ。だから、それぞれ自分たちの力で獲物を取らなきゃいけないんだ」
「大人たちの力を借りるのはもちろん、個々の力を示すって意味でも子供同士の協力はダメなのよ」
大人しめな女の子が自身なさげな声音で男の子の後を引き継ぐ。アルドはここでようやく子供たちが抱えてる問題の本質を理解した。
「なるほどな……。そうなると、当然俺もダメだよな……」
何か力になれないかと声をかけたものの、そもそも力を貸してはいけない問題だとは思わず、肩を落とした。まさか自分が介入することで子供たちに迷惑をかけるわけにはいかない。しかし、ここでアルドの人の良さがある案を頭によぎらせた。
「そうだ!力を貸すことは出来なくても、アイディアを貸すことはできるんじゃないか?」
突然の申し出に、子供たちの視線はアルドに集中した。
「アイディアを…貸す?」
臆病そうな男の子は首をかしげながらおうむ返しをする。
「ああ!人間のオレだからこそ貸せる知恵があるかもしれない。それに、みんなの護衛も。まさか、大人たちだって子供だけで行かそうとはしないだろ?外は魔物だらけだし。これでも腕には自信があるから、安心してくれ。ただし、オレ一人だから無理はできないけどな」
この提案には、大人びた女の子も大人しめな女の子も、顔を見合わせて納得し、臆病そうな男の子も
「た、たしかにそれなら…」
と頷いた。もちろん活発そうな少年は、
「それ、すごくいいな!よろしく、アルド!」
と気持ちよく承諾し、アルドの行動は決まった。その五人で盛り上がっていると、魔獣の荷物を持った男が後ろから声をかけてきた。
「途中から話を聞いていたが、狩猟祭の相談をしているのか?」
「ああ、そうだけど?」
「なら、兄ちゃん気をつけな。子供らの護衛を請け負ってくれるのはありがたいが、最近凶暴な魔物がこの近くにいるらしいからな。あまり外に長くいるのはおすすめしない」
「ええっ!?」
男以外の全員で驚きの合唱をする。ただでさえあまり無理はできないと思っていたのに、余計状況がひどくなるとは予想していなかった。
「そんな…」
「そんなの、ありかよ…」
思わず、子供たちはうなだれる。大人しめな女の子も活発そうな男の子も、その他声を上げなかった二人も、それぞれ個人的に楽しみにしていたのは確かのようだ。アルドも子供たちが可哀想に思えてきたが、これについては文句を言っても始まらない。
「まあ、でも知ってると知らないの違いは大きいからな。教えてくれてありがとう」
「いやなに、礼を言うのはこっちの方だ。本当は俺たち大人が子供についてなきゃいけないが、自分たちの仕事もあって一日中ってのは無理なんだ。戦力が増えてくれるのは大助かりだからな」
と笑顔で返した。自分たちは旅人であるためしばしば忘れるが、村人たちも日々の仕事がある。アルドはハッとしたように
「確かに、自分の仕事と狩猟祭も一緒じゃ、色々大変だよな…その上、子供たちの護衛もなんて…」
そうつぶやくと、男は首を傾げた。
「ん?話の途中からだったから知らなかったが、兄ちゃん子供たちから聞いてないのか?」
「え?」
「あ…アルド、言うの忘れてたけどこれって、子供だけのものなの」
「そうなのか!?」
大人びた女の子の追加の説明にまた驚くことになった。そういえば、今日はコニウムで朝を迎えたが、特別な行事で忙しそうにしている者は一人もいなかったなと、アルドは振り返る。
「芽角の年から成人になるまでってのが狩猟祭だからな。子供の仕事は祝福されてからそのあとの力を伸ばすこと、大人の仕事は子供たちの護衛と子供が持ってきてくれた獲物を受け取り、その子の持つ力を認めることだ」
男が分かりやすく解説を
(ASデュナリスクエストをしている場合)
し、アルドは納得した。
(ASデュナリスクエストをしていない場合)したが、アルドは再度出てきた単語に首を傾げた。
(ASデュナリスクエストを完了した場合)
「ああ、なるほど。芽角の年は確か、子供たちが慶命の儀で新しい命として祝福をもらう年だったよな」
「お、兄ちゃんよく知ってるな。儀式自体はともかく、昔の名残りで、子供が大人から狩りや採集を習うのもこの年ってことになってんだ」
「へぇ…大事な年ってのは知ってたけど、生活する上でも重要だったんだな」
(ASデュナリスクエストを完了していない場合)
「さっきから言ってる、芽角の年ってなんなんだ?」
「ん、そうか、あんたは知らなくて当然か。芽角の年ってのは、俺たちの先祖が考えた風習だ。なんでもその当時は7歳くらいまで生きられない子が多くいたために、それを天の園に帰ったと考えて悲しみを慰めていた、って話だ。だから、芽角の年を迎えた子供は新たに村の一員として狩りや採集などの大人と同じ仕事を教わると言われているんだ」
「へぇ…子供たちにとってすごく重要な年だったんだな」
「そうそう。あ、オレはこれから仕事でイゴマにいるから、お互い無理しないようにしような!」
説明が終わった男はお先に、と言いながらコニウムを背にして歩いて行った。アルド達はそれを見送ると、早速自分たちも本題に入ることにした。
「さて、これからどうする?魔物が出るって話だから、できるだけここで話を済ませておいた方がいいと思うんだ。今まで話し合ったもので、何か良さそうな策はないのか?」
「う…うーん」
「そうは…言われても…」
アルドの問いに、臆病そうな男の子と大人びた女の子は反応はしたが、それは答えではなかった。先ほどまで元気だった活発そうな男の子も黙り込み、大人しめな女の子はより一層暗い雰囲気を漂わせている。ただでさえ良案が浮かばず焦っている上に、凶暴な魔物が出るという凶報。アルドはまずこの暗い空気からどうにかしようと、いくつか案を絞り出した。
「じゃ、じゃあ、村の人たちに何かして欲しいこととか聞いてみたか?」
「してほしいこと……?」
大人びた女の子が首を傾げる。
「ほら、この祭りって、子供たちが大人に成長を見せるために狩りをしたり採集したりするんだろ?なら、まずは周りの大人たちに手伝ってほしいことを聞いて回ったらどうだ?」
「……あ、そっか。俺、自分一人で頑張ることにこだわって話し合ってたけど、みんなの…村の役に立つことについても考えなきゃいけないんだ……」
活発そうな男の子はつぶやくと、臆病そうな男の子がそれに続く。
「う、うん。それについてはまだ誰も話してない」
「私も、誰にあげるとか、役に立つとか、まだ……」
大人しめな女の子が俯くと、大人びた女の子がじゃあ、と口を開く。
「それぞれ、自分の家族やお世話になった人に、してほしいことや日常生活で足りなくなってきた素材を聞いて回りましょう!なかった場合、自分たちで獲物を決めてそれに取り掛かる。知識や情報の共有とかは祭りのルールに引っかからないから、それをするためにまた後でここに落ち合うっていうのはどう?」
「うん、いい案だと思うぞ!みんな、ひとまずそれでいいな?」
アルドが子供たちを見渡して確認すると、全員が異論なし、と頷く。
「でも…アルドはどうする?」
活発そうな男の子がやや心配そうに聞く。大方、することのないアルドの暇を気遣ってのことだろう。だがそこは誰もが認めるお人好し。アルドは、
「大丈夫、オレはみんなの様子を少しずつみて回るよ」
と子供たちを安心させるように言った。
「よーし、じゃあ気を取り直して、行くぞー!」
この活発そうな男の子の掛け声が、行動開始の合図になった。
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