第125話
1838年
レガリス中央新聞
落雪の月11日
“空の向こうにさえ及ぶ、レイヴンの凶刃。閉ざされていく亜人の未来”
先日、遊覧船“セオドア・フォークス”が遊覧中にレイヴンに襲撃され、多数の帝国軍憲兵が死傷する事となった。
そしてその際に、アーウィン・フィッツクラレンス氏が所有していた著名な奴隷、ダニール・ヤンコフスキーがレイヴンの凶刃により急逝。
自身の血筋に流れる罪人の血を自覚する様に演説で呼び掛けていたダニールは、皮肉にも立場と罪を弁えない抵抗軍、レイヴンの手によって息を引き取る結果となった。
自らの生まれと格を正しく弁え、多くの無学で愚かな亜人達を導いてきたダニールの急逝により、多くの亜人が再び道と心の支えを見失い、悲痛な叫びと共に心を痛めている。
今回に際し、ダニールを所有していたフィッツクラレンス氏は「彼が今も演説を続けてくれていたなら、もっと多くの罪深い亜人達を救えた筈です」と沈痛な面持ちで心中を吐露し、「彼の演説、彼の信念を忘れず、今後も亜人達には償いと礼節をもってダニールの意思を引き継いで欲しい」と述べた。
有識者の一部は、今回の件を切っ掛けに事態を曲解した亜人ことラグラス人が、罪の自覚を放棄して無実のキセリア人を目標にした犯罪行為に励むのでは無いか、と危惧している。
今回のダニールの逝去により、近々ペラセロトツカに新設される予定だった寄宿学校、その生徒に向けて演説される筈だった“償いの道”の演説は、全て取り止めとなった。
幼い頃から奴隷民族としての自覚を持たせ、危険な芽を摘み取る事。そして何があってもキセリア人に隷属と奉仕する事こそ、ラグラス人のあるべき姿だと教育する予定だったが、計画は殆ど白紙に戻す結果になってしまったと帝国は発表している。
また一つ、レイヴン達の手によってペラセロトツカは一歩“後退”する事となってしまった。
黒羽の団によるレガリス及び帝国への被害は近年益々深刻化し、無実のキセリア人のみならず、穢れているとは言え同胞の筈のラグラス人の未来さえ脅かしているレイヴン達。
かつて一度は抵抗軍として名を馳せたものの、今ではラグラス人達の間でもレイヴン及び黒羽の団を「信念が無い」と忌み嫌う声は多く、今回とうとう“共食い”まで犯してしまった黒羽の団。
誇りすら失い、亜人達からすら嫌われたレイヴン達には果たしてどんな結末が待っているのだろうか。
少なくとも、レイヴン達が思い描いている様な、都合の良い結末にならない事だけは確かだろう。
尚、今回の件に触発され一部のラグラス人の間では、“黒羽の団は単なる亜人贔屓ではなく、現政権を打倒し平等をもたらしてくれる革命軍だ”という風潮が広まっているとの噂だが、言うまでもなくそんな妄想は恥ずべき思い違いであり、抵抗軍の術中に嵌まっている証拠に他ならない。
道端を歩いていても、今回の件で万が一思い上がっている亜人を見掛ける事があれば、聖母テネジアの名において厳格に戒めるのがキセリア人の義務である。
愚かな方へと道を外れがちな亜人を導き、時には正しい方へと戒める事が我々、正当人種の使命であることを今一度自覚する様、各々で努めてもらいたい。
主と奴隷を見誤る者にこそ、影は差すのだから。
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