第21話
マクシム・ドゥプラは上機嫌だった。
この辺りで一番人気で品薄だった、ブランデーを部下の一人が手に入れたからだ。
勿論部下といっても、正式な部下では無い。恐喝と脅迫で主導権を握っている非公式な部下だ。中には、顔すら知らない者も少なくない。
部下は、此方の要望を通す為に部下を作り、その部下が更に部下を作る。そして、マクシムは今の権力を手にいれた。
汚い力と言う物は汚い分、小綺麗な力より遥かに強力で融通が効く。それをマクシムは権力を“行使”する度に身に染みて実感するのだった。
件の部下が、どの様な理由と経緯でその品薄のブランデーを手にいれたのかは、マクシムにはどうでも良かった。自分はただの一枚たりとも金貨を払う事無く、そのブランデーを手にいれる。それだけで満足だった。
ディロジウム駆動機関の個人列車に揺られつつ、マクシムが機関主に手振りで指示すると煉瓦造りの地面に走る何本ものレールの一つを走っていた個人列車が、幾ばくかの火花を散らしながら速度を上げる。
窓を覆っている防護板の隙間から覗く外の光景にマクシムは小さく鼻を鳴らし、懐中時計を取り出した。
すっかり夜だった。昼間から娼婦と楽しんだせいで、すっかり日が暮れてから起きる羽目になったが、マクシムは余り気にしてはいない。
夜に起きているのなら、眠くなるまで酒でも楽しめば良い。マクシムはそんな自堕落な考えに思考を委ねながら、何をするでも無く、窓から流れていく夜半の街並みを眺めていた。
そんなマクシムの個人列車を、一つの黒い影が遠く高い屋根から見据えていた。
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