骨格標本

 俺は骨格標本だ。

 理科室とかいうところで保管されているのだが、なぜか魂を持ってしまった。

 ここが中学というところで、理科室というのは薬品だか何だかを使って実験をするところらしい。

 らしいというのは。

「ねーねー。この薬品、大丈夫?」

「平気だよ!」

 毎日幼女が入り込んでは薬品を取り出し、爆発騒ぎを起こしているからだ。

 なんだこの学校。管理体制とかどうなってんだ。

 今日も透明な液体を混ぜて真っ赤にしてから爆発させている。

 毎回思うが、なんで生きているんだ。

 あ!

 お前っそれはこの間大爆発を起こした薬品だろう!

 二人ともそれで怪我したじゃないか、やめなさい!

「爆発させないように、ゆーっくり!」

「ゆーっくり!」

 俺の心配をよそに、ビーカーからゆっくりと薬品を移し始める。

この間は漏斗を使ってザーっと入れてドカンだったので、今回はスポイトを使っている。

……じれったい。

 いつ爆発するのかと思うと心配でしょうがない。というか本当になんで毎回爆発させ店のこの子たち!

「やったー! 出来たー!」

「出来たー!」

 薬品を移し終えると、幼女二人が手を取り合い喜び始めた。

 その場でクルクルと回転したり、全身で喜びを表現しているのだが。

「「あ」」

 だよね。ぶつけるよね。ビーカーに。

 ぐらりと体を傾けるビーカー。ゆっくりと液体がこぼれる。危ないと思ったその時。

「危なかったー」

「怖かったねー」

 二人がビーカーを掴んで止めた。素晴らしい!

 でも中身は飛び出た。少しだけ。

「「あ」」

 その衝撃で小さな爆発が起こり、薬品の入ったビーカーだけ、俺のほうに飛んできた。

 いいんだ。俺は骨格標本。幼女たちが被るより何倍もましさ。こうやって見守ってるだけしか出来ないしな!

俺にぶつかったビーカーが砕けて、中身が飛び散る。それに合わせて衝撃を受けた液体が真っ赤に反応。大爆発を起こした。

 視界の端で幼女たちが机の下に避難しているのを見れたので一安心だ。

 ここで幼女たちを見守る生活もおしまいか。そう思っていたのだが。

「……ん?」

 爆発が収まっても意識が消えることはなかった。

 それどころか体が重い気がする。そして何となく冷たい。どうやら床に倒れているようだ。

「成功だね!」

「先にかけておけばよかったね」

「爆発しちゃったけど成功だよ!」

「危ないことしたらまた先生に怒られるよ!」

「大丈夫、もうこれで終わりだもん!」

「そうだね!」

 顔を上げると、目の前に幼女たちがいた。床に座って俺のほうを見ている。

「「一緒に遊ぼう!」」

 あー、なるほど。俺が意識を持ったのはこの子たちが原因か。まったく。変な子たちだな。

 そう思って立ち上がると、鏡に俺の姿が映る。

「……え?」

 部屋の隅に置かれていたが、薬品棚の脇に備え付けられていた鏡で自分の姿を見ていたので、間違えるはずがない。

 俺が動かしているこの体は、前のものとは違う。こう、肉体の構造を見れる形だったのに、今は普通の人間みたいになっている。

「「っきゃ」」

 そして、全裸だった。

 幼女たちが顔を隠して照れている。だが、指の間からこちらをうかがっているのがわかる。このおませさんたちめ!

「これは一体、おや?」

 しゃべっている。俺がしゃべっている?

「はいこれ」

「今のうちに逃げよう!」

 何が何だかわからないが、とりあえず幼女たちからもらった服を着て、外に出ることにした。

 外は太陽を分厚い雲が隠し、あたりを骨ばったカラスが飛び交っている。

 どことなく赤い空は不気味さを演出している。

「「ようこそ、チバラギ帝国へ!」」

 ……聞いたことない世界なんだけど。

「貴方は私たちが頑張って生み出した勇者様です!」

「ちょっと失敗して骨格標本に魂が入っちゃったので、作り直しました!」

「「さあ、魔王スモールリリィ子を倒し、チバラギをジャッポンの首都にしましょう!」」

 ……ナニソレ。

 まぁ、幼女たちの願いはともかく。

「先に先生たちからおしかりを受けようか」

「え、やだよぅ」

「こわいよう!」

「大丈夫。一緒に怒られてあげるから」

 幼女たちの手を引くと、怒鳴りながら走ってくる先生の所へ向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る