地球防衛軍

「今、喫緊の問題で、あるが」

 妙にメカメカしい室内で、サングラスをつけたおっさんが両手を口の前で組み、テーブルに肘を乗せた態勢で重苦しそうに話している。

 俺はその様子を見ながら『コスプレ大会にしか見えねえからやめろよ』とか思っている。

 絶対言えないが。

「長官。はじめ君が『コスプレ大会にしか見えねえんだよジジイ』と思ってます」

 勢い良く手を上げたのは同僚の高梨。人の思考を読むことが出来る超能力者で、この子の前で『おー。スタイルいいなー』とか『カップ数は……』とか考えるだけで、セクハラだと訴えられる。

「おいやめろ。人の考えを読むんじゃない。超能力禁止だろ!」

 個人のプライバシーを侵害しているぞ!

「はじめくん。そんなことを思っていたのかね?」

 長官がサングラスの奥にある瞳を潤ませているように見えた。このおっさん、見た目に反してメンタル弱いからなぁ。フォローしておこう。

「いえ、ジジイは思ってません」

「はじめくんの椅子を取り上げたまえ」

「っは!」

「っちょ、やめろ高梨。昨日変えたばっかりのゲーミングチェアだぞ!」

「経費で落ちなかったからって抵抗しないでください。給料泥棒!」

「おまっ、言っちゃならないことを言ったな!」

「いつも『高梨のおっぱいはおっきいなー』とか思ってるのが悪いんですぅー!」

「いっつもは思ってませんー! たまにですぅー!」

「バレッバレなのよ、この変態!」

「……二人とも、子供みたいな喧嘩はやめないか」

「「こいつが悪いんです!」」

「はぁ。もういいからこれを見てくれたまえ」

 長官はため息とともに部屋のモニターの電源を入れる。

 テンテロリンという起動音と共に、たっぷり20秒待ってからモニターに電源が入る。

 地球防衛軍の会議室のモニターがこの調子ってマズくないか?

 何世代も前のパソコンみたいな動きをしているんだけど。

「今、隕石が降ってきてる。しかも100個」

「やばいっすね」

「人類の終わりね」

「そうだね。地球防衛軍も本日をもって解散だろうね。はっはっは」

「笑い事じゃないっすよ。どうにかしないと」

「どうにもならんよ! ミサイルでも打ち込むかい? 近隣諸国から反発食らって地球を救っても日本が終わるよ!」

「じゃあ、各国に連絡して——」

「そーんな時間はない! っていうかさっきいくつかの国が核を打ったよ! 外した上に航空機にぶつけて大問題さ! 世界大戦がはじまっていずれにせよ人類は滅びるね!」

「じゃあどうするっていうんですか!」

「なーんも。はじめくんもいい加減高梨君に告白して童貞捨てさせてもらったらいいよ!」

「っちょ、長官。何言ってんすか!」

「長官、セクハラです。すべてが終わったら訴えますからね」

「はっはっは! 人類滅びるのに? 構わんよ、その時に日本があったらね!」

「そうだ、建造中だった巨大ロボがあるじゃないですか!」

「あぁ、アレ? 未完成だよ! 予算が足りなくてお台場に送られたさ! 今頃間抜けにも大地に立ってるんじゃないかな?」

「確か、戦艦を作ってませんでしたっけ?」

「そんなもん机上の空論でたらめ計画さ! やってみたけどぶっちゃけ空母程度を持っておけば平気って結論になっちゃったし、宇宙戦艦とかも考えたけど無理だからね! だって地球の争いごとすらどうにもできないんだから!」

「……じゃあどうするんですか!」

「大切な人と、最後の時間を過ごしなさい。私は別れた妻に電話するよ」

 そういうと長官は出て行ってしまった。

 部屋に残されたのは、どうしようもない絶望感と。

「やだ、キモイ」

「なんも言ってねえし」

 口の悪い高梨さんだけだった。

「……どうする気?」

「あぁ? そんなの決まってるだろ」

「やだ、不潔!」

「何言ってるんだ? これから出撃するんだよ」

「私はあんたのことなんて何にも……え?」

「地球を守るっていうアホみたいな目標掲げた組織に入ったんだ。やらなきゃ。最後まで」

「……でも一個や二個落としたところでどうにもならないじゃない」

「100個落とすさ。だって侵入角は一定だからな。出迎えてやれば100個の隕石が目の前さ。一秒に一個落とせば100秒で世界が救える」

「核でも無理なのに?」

「当たれば何とか出来るでしょ」

「100発も持ってくの? どうやって?」

「あぁー。うん。まぁなんだ。ずっと言ってなかったけどさ。俺の能力」

「今更何を……」

「巨大化なんだよね」

「は?」

「巨大化。大きくなれる時間はサイズによって変わるけど、訓練したんで100秒くらいはいける」

「……こんな時に下ネタ?」

「じゃないってわかるだろ。行ってくる」

 俺は部屋を出ると、基地の外へ向かった。

 外は意外なほど静まり返っており、空を見上げると真っ赤に燃えた隕石群が地球に迫っているのが見えた。

 そりゃ絶望する。目の前に死が降ってくるようなものだ。

 でも俺は、少なくとも地球防衛軍に入ったんだ。みんなを守りたいと志して。だから、出撃するんだ。

「よし、行くか!」

 この後、地球は滅んだ。


               

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