第367話 命燃やすぜ!

 リビングタウロスに最初の攻撃を仕掛けたのは、その正面に立つイルミだった。


「【輝拳乱射シャイニングガトリング】」


 イルミの攻撃が一点集中ではなく散弾の形を取ることで、リビングタウロスは聖気への不快感から左手に持つカイトシールドで防ぐ。


 その隙に、上空からレッサーヴァンパイアとフロストレイスの魔法系スキルが放たれる。


 防御の優先順位はイルミの攻撃の方が上だから、リビングタウロスはカイトシールドの位置を変えずに前進する。


 中身はなく鎧に覆われているとはいえ、一応は馬の下半身である都合上、前向きのまま後ろに跳んで退くことはできないから、レッサーヴァンパイア達の攻撃を躱すには前進するしかなかったのだ。


 2体の攻撃では、イルミのヘイトを上回ることなんてできず、技の発動が終わった瞬間にリビングタウロスがカイトシールドを構えたまま突撃する。


「やらせねえよ! 【輝重斬撃シャイニングヘヴィスラッシュ】」


「こちらもいきます! 【輝斬撃巣シャイニングスラッシュネスト】」


 アルバスとジェシカが両サイドから攻撃すると、リビングタウロスはイルミへのシールドバッシュを諦めて大きく跳躍し、2人の攻撃を躱す。


 空中はレッサーヴァンパイアとフロストレイスが制空権を確保しており、レッサーヴァンパイアは風の刃を、フロストレイスは球状の冷気をリビングタウロスの顔面にぶつけた。


 それにより、リビングタウロスは着地する前に体のバランスを崩した。


 そして、いつの間にか着地点に潜り込んでいたイルミが仕掛ける。


「【輝闘気シャイニングオーラ】」


 イルミが深呼吸してから聖気を上方向に向けて放出すると、リビングタウロスの馬の方の腹部にそれがぶつかった。


 左手に持ったカイトシールドは自身の馬の腹部には届かない。


 だからこそ、リビングタウロスは聖気を嫌がって大きく身を捩じらせたのだが、元々崩れてしまっていたバランスが完全に崩れてしまい、イルミが脱出した着地点に横転する形で墜落した。


「【聖裁刃雨ホーリージャッジメント】」


「【輝斬撃巣シャイニングスラッシュネスト】」


 どうにか左側面が上に来るように転んだため、リビングタウロスはカイトシールドを左半身の壁にするため上に掲げ、アルバスの技から受けるダメージを最小限に抑えた。


 しかし、その隙を突いてジェシカがリビングタウロスの馬の腹部側に回り込み、輝く斬撃を連続して放つ。


 2方向からの同時攻撃を1つのカイトシールドだけで防ぐことはできず、リビングタウロスはジェシカの技を喰らうしかなかった。


 その不快感により、リビングタウロスはジェシカの技に当たりながらバタバタと暴れて立ち上がった。


 立ち上がったリビングタウロスは、メイスを掲げると体に付着した聖気を洗い流すつもりで全身から瘴気を放出した。


 放出された瘴気は全方位に散弾のように飛んでいく。


「【輝闘気シャイニングオーラ】」


 イルミはリビングタウロスに対抗し、聖気を全身から放出して瘴気の散弾を自身に届く前に消失させた。


「【幻影歩行ファントムステップ】【輝旋風シャイニングワールウインド】」


 残像を残すようにアルバスが瘴気の散弾を躱し、その足捌きを利用して輝く旋風を放った。


 アルバスに向かって飛ぶ散弾は、その周囲の散弾も輝く旋風に飲み込まれて消え、旋風自体もアルバスの盾として散弾を防ぎ終えた途端に消えた。


「【輝八旋シャイニングエイト】」


 その一方、ジェシカは横向きに8の字を描くようにリジルを回すことで、リビングタウロスの放った瘴気の散弾から身を守りぬいた。


 後方にいたスカジの所にも散弾が少しばかり届いたが、それらはいずれもトーチナイトが防いでスカジにダメージはない。


 瘴気の放出が止まった瞬間を狙い、イルミが至近距離まで移動していた。


「【輝闘気シャイニングオーラ】【聖壊ホーリークラッシュ】」


 今度は聖気を体から放出せずに留め、そのまま大技をリビングタウロスの上半身と下半身の接合部に放った。


 だが、リビングタウロスは咄嗟にカイトシールドを体の前に滑り込ませ、イルミの大技に直撃する事態を防いだ。


 もっとも、その代償としてカイトシールドが粉々に粉砕され、リビングタウロスもその余波で前脚を強制的に上げざるを得ないぐらい人の上半身が仰け反ったのだが。


「倒れろ! 【聖断ホーリーサイズ】」


 後ろ脚だけで立っているので、アルバスがリビングタウロスのバランスを崩してやろうと右側面から大技を放つ。


 リビングタウロスはアルバスが放った斬撃に気づき、メイスを剣のように振るってそれを受け流した。


 しかし、勢いを殺し切れずに体が左側に傾いた。


「【輝啄木鳥シャイニングウッドペッカー】」


 左側面後方にジェシカが回り込み、正確無比なコントロールで左後ろ脚を連続して突いたことで、リビングタウロスは再び体のバランスを崩した。


 その結果、ジェシカが素早く離脱した場所に左側面を下にして倒れた。


「私もやる」


「スカジ!?」


 いつの間にか、スカジがレッサーヴァンパイアに後ろから腹部を抱えられるような形で空を飛んでおり、リビングタウロスの体目掛けてタリスマンポットの聖水を上空から振りかけた。


 自分の行動に驚くイルミに対し、スカジは冷静なまま声をかける。


「イルミ、驚いてないで追撃」


「わかった! 【聖壊ホーリークラッシュ】」


「もう一丁! 【聖断ホーリーサイズ】」


「蜂の巣にしてあげましょう! 【輝蜂巣シャイニングネスト】」


 イルミは上半身と下半身の部分に一撃かまし、アルバスは聖水に濡れて痙攣している右腕を切断した。


 ジェシカは2人に攻撃が当たらぬように、馬の腹部を穴だらけにした。


 囲まれてボコボコにされていたリビングタウロスだが、自身の体が聖気に侵されていくことを嫌がり、無理矢理立ち上がって暴走し始めた。


 瘴気を暴発させた状態で走り出し、初めに最もヘイトを稼いでいたイルミを執拗に追いかけた。


「うわっ、こっち来た! アルバス君助けてぇぇぇっ!」


 愛しのイルミに助けを求められた瞬間、アルバスは駆け出した。


「命燃やすぜ! 【幻影歩行ファントムステップ】【幻影走行ファントムドライブ】」


 普段のアルバスなら【幻影歩行ファントムステップ】しか使わないし、この上位技である【幻影走行ファントムドライブ】を使う必要もない。


 何故なら、【幻影走行ファントムドライブ】は体への負担が大きいからである。


 ところが、今はイルミが執拗に狙われており、イルミが囮爆弾デコイボムを投げてもそれに惑わされずにイルミを追い続けている。


 その状況で助けを求められれば、アルバスが無茶をしてでもイルミのために駆け付けようとするのは当然だ。


 【幻影歩行ファントムステップ】から【幻影走行ファントムドライブ】に繋げることで、最初はゆらりとステップを踏んだだけだったにもかかわらず、いきなりトップスピードで走れるようになった。


 そして、自身の攻撃の射程圏内に入ると、アルバスはリビングタウロスのヘイトをイルミから奪うべく走って得た運動エネルギーを上乗せして技を放った。


「【聖断ホーリーサイズ】」


 普段よりも確実に威力のある斬撃が放たれると、それがリビングタウロスの両後ろ脚を切断した。


 突然後ろ脚がなくなったことで、リビングタウロスは走ることができなくなり派手に転倒した。


 そこに、上空から再びレッサーヴァンパイアに抱えられたスカジがタリスマンポットの中身をばら撒き、転倒したリビングタウロスを聖水塗れにする。


「固定します! 【聖投槍ホーリージャベリン】」


 大きく跳躍したジェシカが、聖気を纏ったリジルを投擲してリビングタウロスの体を標本のように地面に固定した。


「イルミさん、とどめをお願いします!」


「イルミ決めて!」


「イルミ、やりなさい!」


「任された! 【輝闘気シャイニングオーラ】」


 イルミは3人の声に応じてすぐに全身を光り輝かせた。


 だが、今までと違ってその輝きを両手に集める。


 そして、イルミは両手を組んで振りかぶりながら前方に大きく跳躍した。


「私の鉄槌を喰らえ! 【聖腕槌ホーリースレッジハンマー】」


 着地と同時に、イルミの組んだ両手がリビングタウロスの胴体に命中した。


 その瞬間、リビングタウロスの体全体に罅がビキビキと広がっていき、パリーンという音と共に砕け散った。


 イルミが攻撃を終えた瞬間に4人の耳にヘルのアナウンスが届き、それが戦闘の終わりを告げた。


「勝ったよぉぉぉっ!」


「やりましたね、イルミさん!」


「うん! やったよアルバス君!」


 リビングタウロスの討伐に成功したことで、アルバスが駆け寄って来るとイルミは抱き締めたままその場でグルグルと回り始めた。


 その一方、ジェシカは地上に降りたスカジを労っていた。


「お疲れ様でした。良い働きでしたよ」


「ありがとうございます。無事に倒せて良かったです」


「そうですね。後は戦利品だけ回収して、ライト君に結果を報告するだけです。こちらは私がやりましょう」


「よろしくお願いします」


 ハイテンションで喜ぶ夫婦とクールな2人という対照的な状況ではあるが、ジェシカ達は無事にライトの期待に応えて特殊個体ユニークの討伐に成功した。

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