第229話 楽しそうでなによりです

 海の幸を食べたいという思考を一旦振り切ると、ライトはカリプソに対して<鑑定>を発動した。



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名前:カリプソ 種族:ロッテンクラーケン

年齢:なし 性別:雌 Lv:60

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HP:11,000/11,000

MP:9,200/10,500

STR:2,800

VIT:2,800

DEX:3,000

AGI:1,000

INT:2,500

LUK:1,800

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称号:南海の主

二つ名:なし

職業:なし

スキル:<触手鞭テンタクルウィップ><呪黒墨カースインク><水流操作>

    <麻痺刺突パラライズスティング><遊泳><配下召喚><配下統率>

装備:なし

備考:なし

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 (ペイルライダーよりは弱いけど、面倒なスキル構成してるじゃん)


 カリプソのステータスを確認し、ライトはカリプソが長らくオリエンスノブルスで倒されなかった理由を理解した。


 DEXが3,000もあるならば、<触手鞭テンタクルウィップ>や<水流操作>は汎用性の高いスキルと言えよう。


 実際、カリプソが起こした津波は<水流操作>によるものだ。


 津波を起こすためのスキルではなく、津波も起こせると考えた方が良いだろう。


 <触手鞭テンタクルウィップ>だって、10本足のカリプソならばこのスキルで様々なパターンで攻撃できるはずである。


 墨をかけた相手の視力を一時的に奪いつつ弱らせる<呪黒墨カースインク>に、刺した相手を麻痺状態にさせる<麻痺刺突パラサイトスティング>がある。


 敵を状態異常にさせる力もある訳だ。


 更に<配下召喚><配下統率>も加われば、クラーケンは自ら手を出さずとも敵を倒せる。


 ”南海の主”の称号があってもおかしくないと言えよう。


 ライトがそこまで考えていると、カリプソの正面の海面がブクブクと泡を立て始めた。


 海面の色が段々と灰色になっていった。


 それがカリプソの<配下召喚>で召喚されたロッテンスクイッドだとわかったのは、灰色の体をしたそれらが海面に姿を現した。


「ライト君、ロッテンスクイッドの群れは私に任せて」


「わかりました。僕達はロッテンクラーケンと戦います。【【【・・・【【防御壁プロテクション】】・・・】】】」


 エマがロッテンスクイッドの群れを請け負うと、ライトは無数の光の壁を足場代わりに海の上と空中に創り出した。


「ライト、カリプソの注意点は?」


「海水と触手を器用に操ること、目潰しの墨、麻痺させられる刺突かな。でも、ペイルライダーよりは弱いよ。ヒルダは左側、アンジェラは右側から攻撃して。僕は適宜フォローするから」


「了解」


「かしこまりました」


 ライトがヒルダとアンジェラに指示を出した頃には、エマがロッテンスクイッドの群れを相手に【岩弾ロックバレット】を連射していた。


「アハハッ、これすごい! すごいよライト君!」


 (楽しそうでなによりです)


 一種のトリガーハッピーになっているエマに対し、ライトは心の中でコメントを残して目の前の敵に集中した。


「先手必勝です!」


 カリプソを狙ってアンジェラがグングニルを投げた。


 その速さ、コントロールに避けなければ危険だと本能的に察したカリプソが足でガードする。


 しかし、そのガードを貫通してようやくグングニルの勢いがなくなったため、カリプソはアンジェラを先に排除すべきだと警戒した。


 グングニルが手元に戻って来たアンジェラが、再びそれを投げるフォームに入ると、必然的にカリプソがアンジェラに<触手鞭テンタクルウィップ>を発動する。


「やらせないよ。【【【・・・【【聖戒ホーリープリセプト】】・・・】】】」


 アンジェラを襲うカリプソの攻撃に対し、ライトは何重にも束ねた光の鎖で足を拘束した。


「伸び切った足は斬るに限るね。【聖十字斬ホーリークロス】」


「グォォォォォッ!?」


 スパパッと音を立て、ライトが拘束した足をヒルダが一瞬にして切断した。


 【聖十字斬ホーリークロス】はゼロ距離で放つ【聖十字刃ホーリークロスブレード】であり、斬撃を飛ばす代わりに縦横に連続して斬る瞬間に込める聖気を増幅させる。


 自分にとって有害な聖気で足を斬られたカリプソは、この流れは良くないと判断して海中に一旦潜った。


 (あれ、待てよ。これってチャンスなんじゃないか?)


 ライトは思いついたことを実践すべく、海水を対象に技名を唱えた。


「【【【【【聖付与ホーリーエンチャント】】】】】」


 バッシャァァァァァン!


 重ね掛けし過ぎると、南の海を聖水に変えてしまう恐れがあったため、ライトは様子見で5倍にして【聖付与ホーリーエンチャント】を発動した。


 その瞬間、周囲一帯の海が自分の住める水質ではなくなってしまったことに驚き、カリプソが海上に飛び出した。


「今がチャンスだよ!」


「流石は旦那様です!」


 空中で身動きが取れなくなったカリプソに対し、アンジェラはグングニルを投擲した。


 最初の攻撃によってその脅威を理解しているカリプソは、<触手鞭テンタクルウィップ>を駆使して側面からグングニルを叩き落とそうとする。


 だが、多少軌道をずらすのが精一杯であり、結局足を1本犠牲にして防ぐことになった。


 足を負傷し、重力に逆らうことができずに海に落ちるカリプソに対し、ヒルダはライトの方を向いた。


「ライト! 【水牢ウォータージェイル】」


「了解! 【聖付与ホーリーエンチャント】」


 ペイルライダーと戦った時のように、カリプソを聖水の牢獄に閉じ込めてしまおうというヒルダの考えを察し、ライトは細かい打ち合わせもせずにヒルダの期待に応えてみせた。


 カリプソはバシャンと音を立てて聖水の牢獄にぶち込まれ、ジタバタと足掻くが聖水のせいで体に力が入らないようだ。


「【【【【【聖戒ホーリープリセプト】】】】】」


 脱出させるつもりはないので、ライトは光の鎖でカリプソの体を縛った。


「旦那様、アンデッドに純度の高い聖水をかけたらどうなるか、実験されてみてはいかがですか?」


「そう言えばやったことなかったな。うん、やってみよう。【聖付与ホーリーエンチャント】」


 牢獄内の聖気の量が倍になり、カリプソの体が急速に痙攣した。


 痙攣するカリプソの表面は、みるみるうちに溶けていく。


 カリプソが海水から飛び出した時は、水の量が多かったせいでここまでではなかったようで、カリプソは必死に抵抗しようとするが全く動けなかった。


「なんだか気色悪い。ライト、早く倒しちゃおうよ」


「わかった。もう1回だけやらせて。【聖付与ホーリーエンチャント】」


 ジュワッ!


 普通の3倍の聖水に触れてしまい、カリプソの体の溶けるスピードが加速した。


「これは酷い。【昇天ターンアンデッド】」


 パァァァッ。


《ライトはLv64になりました》


《ライトはLv65になりました》


 グロ注意な状況になってしまったので、ライトはすぐにカリプソを消滅させた。


「【浄化クリーン】」


 カリプソが入っていた聖水の牢獄に、魔石とカリプソの頭を模ったガントレットが入っていたため、聖水に浸っているというのにライトはそれらを浄化した。


 なんとなくカリプソのエキスが聖水に含まれていそうだったからやっただけで合って、実際は元々清められた水なので意味はない。


 意味がなくても、カリプソが溶けたのを目の当たりにすれば、ライトが浄化してしまうのも仕方のないことだろう。


 微妙な幕引きとなったが、ライトは気分を切り替えてカリプソの頭の形をした呪武器カースウエポンに<鑑定>を発動した。


 (カリプソバンカーって何これ? ロマン武器?)


 <鑑定>の結果を見たライトは、自分が今手にしているガントレットがカリプソの形をした右腕用のガントレットであるとともに、イカの頭部分が杭のように射出されるパイルバンカーにもなっていることを知った。


 使用者はSTR×1.5倍かつパイルバンカーを放てるが、その代償として装着するとイカを一生食べられなくなり、パイルバンカーは1回使うと6時間は使えなくなって、ただの右腕用のガントレットになってしまう。


 大してイカが好きではなく、肉弾戦をする者ならばカリプソバンカーはとても重宝するだろう。


 (これ、イルミ姉ちゃんが欲しがりそうだなぁ)


 そう思ったのはライトだけではなく、ヒルダとアンジェラにカリプソバンカーの説明をしたら2人もライトと同様の意見だった。


 元々、イルミには良さげな呪武器カースウエポンが見つかった場合、壊れてしまったヴェータライトの代わりにあげることを約束していたので、丁度良い成果物と言えよう。


 その後、幸せそうな顔でMP切れになって気絶していたエマを回収し、ライト達はレギンの待つ屋敷へと向かった。


 その日の夕食は、ライト達が長年オリエンスノブルスを悩ますカリプソを倒したということで、領民達も総出のお祝いとなった。


 セーフティーロードが完成し、オリエンスノブルスも救われたので、良いこと尽くしのお祝いにライト達も久し振りに気分良く宴を楽しむことができたのだった。

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