第151話 おいおい、一体誰だと思ってるんだ? イルミさんだぞ?

 翌週月曜日、生徒会メンバーは公欠扱いで呪信旅団の捜索に駆り出されることになった。


 そんなことになったのは、ルースレス討伐のためのレイド遠征で教会の人手が足りなくなったからだ。


 フレッシュゴーレムのルースレスによる被害は、3ヶ月半で無視できない数になってしまった。


 本来であれば、呪信旅団の捜索に人手を割きたいところなのだが、ルースレスを放置した結果、教会が完全に手を出せなくなるなんて事態は避けたい。


 ルースレス討伐遠征と呪信旅団捜索のタイミングが被ってしまったので、ライト達生徒会が駆り出された訳である。


 ただし、呪信旅団を捜索するのに生徒会だけでは不安があるため、シスター・アーマが引率することが決まった。


 そして、シスター・アーマが操縦する蜥蜴車リザードカーに乗り、ライト達はバスタ山へと到着した。


 先週のG2-1のハーフレイド遠征と同じように、バスタ監獄に蜥蜴車リザードカーを預けると、ライト達は襲撃者ジョン=ドゥと遭遇した鉱山に来た。


 呪信旅団の捜索を先に進めている守護者ガーディアンは、バスタ山を包囲して徐々にその包囲網を縮めながら捜索している。


 それに対して、ライト達は一足遅れての参加だから、今更他の守護者ガーディアン達と連携するのは難しいという判断で標的を目撃した場所から捜索を開始した。


 クロエがファイアスターターで火を点けて松明を用意すると、それはライトの手に渡った。


 ライトは近接戦もできるが、現生徒会パーティーは後衛がライトしかいないから松明の担当はライトなのだ。


 イルミとアルバス、クロエは前衛で、ヒルダは<水魔法>を使えるから中衛、ライトが<法術>による支援で後衛というフォーメーションである。


 シスター・アーマはフリーだが、何かあった時はライトを守ることになっている。


 それは、ライトさえ無事であれば<法術>でいくらでも戦況を立て直せるからだ。


「いざ出発」


「イルミ姉ちゃん、頼むから独断専行なんてしないでね?」


「わかってる。お姉ちゃん、やっちゃいけない時にはやらない系女子だから」


「そんなジャンルの女子なんて知らない」


 よくわからない根拠を持ち出し、しっかりと指示を聞くとアピールするイルミに対し、ライトは本当に大丈夫か心配になった。


「おいおい、一体誰だと思ってるんだ? イルミさんだぞ?」


「それを聞いて僕はとても不安になったよ」


 イルミに全幅の信頼を寄せるアルバスの言葉は、ライトをより一層不安にさせた。


「このパーティー、大丈夫だよね?」


「クロエ、無理に戦えとは言わないよ。自分の身を守ることに専念して」


「会長さん、そうは言っても私だって生徒会メンバーだよ? 何もしないなんて堪えられないよ」


「無理にネームドアンデッドとかと戦おうとしなくて良いよ。できることだけやってみて。それに、危険があってもライトがカバーしてくれるし」


 ヒルダがそう言うと、ライトは力強く頷いてみせた。


「大丈夫ですよ。僕がいる限り、パーティーメンバーを死なせはしませんから」


「やだ、頼もしい」


 安心感を与えるライトの言葉に、クロエは少しだけ気が楽になった。


「惚れたら駄目だからね?」


「わ、わかってるって」


 ライトは自分のものだと主張するヒルダを見て、クロエは首を高速で横に振った。


 そんな中イルミがスッと手を横に出し、ライト達に止まるように合図を出した。


「あっ、ライト、アンデッド発見。えっとね、槍を持ってるからスケルトンランサーだね。それが4体」


「ライトは何かあった時のフォロー。それ以外で1人1体倒すよ」


「「「「了解」」」」


 ヒルダの指示により、イルミとアルバス、クロエは自分が倒すべきスケルトンランサーの前に移動した。


「スケルトンランサーなら、MPは勿体ないね」


 イルミは両腕を前に構え、スケルトンランサーとの距離を一気に詰めるとその顔面を殴り、MPを消費することなくスケルトンランサーの頭蓋骨を砕いた。


 頭蓋骨が砕けたせいで、スケルトンランサーはその体を維持できずにバラバラに崩れ落ち、そのすぐ後で魔石だけをドロップして消えた。


「流石はイルミさん! 俺だって!」


 あっという間に自分のノルマをクリアしたイルミを見て、アルバスも負けてられないとフリングホルニを構えた。


 アルバスの正面にいるスケルトンランサーは、仲間が瞬殺されたことで相手に攻めさせてはいけないと判断したらしく、アルバスが攻撃するよりも先に手に持った槍を突き出した。


「甘い!」


 石突の部分で槍の穂先を弾くと、アルバスは弾いた勢いを利用して刃の部分でスケルトンランサーの首を刈った。


 聖銀ミスリル製のフリングホルニのおかげで、斬れば刃毀れするに違いないスケルトンランサーの骨を豆腐を切るように簡単に斬り落とした。


「消えなさい」


 ヒルダは強く踏み込んで突きを放ち、スケルトンランサーの眼窩にエクスキューショナーを突き刺し、頭蓋骨内部に灯る光を消した。


 それにより、スケルトンランサーの動きが糸の切れた人形のように崩れ落ちて消えた。


 残るはクロエだけだ。


 クロエは行商人を目指しているから、道中にアンデッドに襲われることはよくある。


 先程心配していたのは、アンデッドというよりも呪信旅団を相手にすることだったので、スケルトンランサーを相手にクロエは怯えることなく自らの槍で攻撃を重ねた。


 <槍術>を会得していなくとも、クロエの槍捌きは<槍術>持ちと遜色ない腕前だ。


 勿論、<槍術>の技を使用することはできないが、普通の動作ならば<槍術>持ちと同等の実力を有する。


 スケルトンランサーの動きを見切り、無理のない範囲でコツコツとダメージを与えることで、クロエはスケルトンランサーを倒すことに成功した。


「クロエは私が育てた」


「なんでイルミ姉ちゃんがドヤ顔なんだよ」


 イルミが師匠面したことに対し、ライトはきっちりとツッコんだ。


「イルミは何を馬鹿なこと言ってんの? クロエ、お疲れ様」


「会長さん、問題なくやれたよ」


「うん、見てた」


「あのぉ、後続が来てますよ? スケルトンタンクとスケルトンソーサラーの混成集団です」


 アルバスが遠慮がちに言うと、ライトはすぐにアルバスが指し示す方角を見た。


 そこには盾を持ったスケルトンタンクが横一列に並び、その奥にはスケルトンソーサラーも横一列に並んでいる。


 スケルトンタンクに時間を稼がれ、スケルトンソーサラーに魔法系のスキルを使われるのは面倒なので、ライトが自分がやると前に出た。


「僕の番。【【【・・・【【昇天ターンアンデッド】】・・・】】】」


 パァァァッ。


 【昇天ターンアンデッド】の重ね掛けにより、スケルトンタンクとスケルトンソーサラーの混成集団は全滅した。


「ライトは相変わらずすげえな」


「ネームドアンデッドでもないし、これぐらいは余裕だよ」


「アハハ、ライト君の強さは私の自信を一瞬で失わせるんだね。はぁ」


 ライトがあっさりと敵の集団を一掃するものだから、スケルトンランサー1体に時間をかけて戦った自分の弱さをクロエは思い知った。


「クロエ、ライトと自分を比べちゃ駄目だよ。お姉ちゃんだって、もうここ数年はライトに勝ててしないし。大半は守り切られちゃうんだもん」


「え゛?」


 クロエは模擬戦をしたことがあるから、イルミの強さを知っているつもりだ。


 その時ですら、クロエはどうにかイルミに攻撃を仕掛けることに成功したが、すぐにやられてしまった。


 そんなイルミに対し、ライトは守り切る実力があると聞けば、クロエは改めてライトのすごさを知った。


「当然だよ。だって、入学時点でライトは教皇様から逃げ切るだけの実力があるんだし」


「いや、あれは叔父様も手加減してくれてたからね?」


「それでも引き分けは引き分け」


「えっ?」


 ヒルダが追加した情報を聞くと、クロエは口をポカンとさせた。


 イルミどころかローランドから逃げ切る実力があると聞けば、ライトが雲の上の存在だと思えてしまうのも仕方のないことだろう。


 クロエが放心している間に、ライト達は手分けしてドロップした魔石を回収した。


 回収作業が終わると、イルミがクロエにデコピンして正気を取り戻させた。


「痛っ・・・」


「常在戦場のつもりでいないからだよ?」


「だとしても、加減を考えてよぉ」


「イルミ姉ちゃんやり過ぎ。【回復ヒール】」


 クロエの赤く腫れた額を気の毒に思い、ライトは【回復ヒール】で痛みを鎮めてあげた。


「ありがとう、ライト君。イルミと違って天使だよ」


 目の前で激甘空間を展開されることはあっても、イルミみたいに肉体的ダメージを与えられることはなく、むしろ治してくれるのだからクロエの中でライトへの好感度が上がった。


 もっとも、いくらライトへの好感度が上がろうが、ライトは既にヒルダと婚約しているのだが。


 それはさておき、ライト達は洞窟内の捜索を再開した。

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