呪武器事変編
第145話 なんということでしょう
7月初旬の金曜日の午後、ライトは生徒会室でデスクワークに勤しんでいるとシスター・アーマに呼び出されてそのまま教会に移動した。
シスター・アーマがシスター・マリアの代わりに教会学校に勤めているおかげで、単なる呼び出しならヘレンが自ら来なくともシスター・アーマを通して呼び出せる。
ローランドの部屋に通されると、そこには勿論ヘレンもいた。
「こんにちは、叔父様、叔母様」
「よう、ライト」
「来てくれたわね、ライト君。そこに掛けてちょうだい」
ライトはヘレンに促され、来客用のソファーに座った。
シスター・アーマはライトを案内した後、教会学校に戻るのかと思いきやその場に留まった。
その時点で、
「今日はどうされたんですか?」
「話す前に注意させてもらう。今から話すことは極秘だ。良いな?」
「わかりました」
ローランドが極秘だなんて言うものだから、どんな話をされるのかライトは不安になった。
「よし。アーマにはこの件を事前に知らせてあるから、そこも気にしなくていい。実はな、教会の倉庫から
「世紀の大事件じゃないですか」
「幸い、盗まれたのは倉庫の肥やしになってるものだけだったんだが・・・」
「マスカレードとグラッジメーカーも盗まれてしまったのよね」
ローランドから引き継ぎ、ヘレンがその先を口にした。
「マスカレードとグラッジメーカーが盗まれたんですか?」
「ええ。どうも盗人は、デメリットを省みずに
「随分と無茶をしますね。命を粗末にするとは嘆かわしいことです。誰が盗んだかはわからないんですよね?」
「現在捜査中よ。盗まれたと考えられる日から姿が見えなくなった者や、性格や体調に異変があった者を調べてるの」
「そうでしたか。それで、僕がここに呼び出された理由はこの話を聞くためだけだとは思わないのですが、何をすれば良いんですか?」
「ライト君には、前回中断した倉庫の肥やしになった
「なるほど。そういうことでしたか」
「今回の作業の報酬は、処理してもらう武器から好きな物を1つライト君にあげるってことでどう?」
「やりましょう」
使える武器があれば戦力アップに繋がるのだから、ライトにヘレンの依頼を断る理由はない。
ライトがやる気になると、シスター・アーマが部屋の隅に置いてあった倉庫の肥やしとなっている
「これ全部が倉庫の肥やしだったんですか? 多過ぎません?」
「ライト君、使い勝手の良い
「・・・言われてみればその通りですね」
自分やヒルダ、イルミが使っている
だから、ライトは自分の感覚がいつの間にかズレていたことを肯定した。
気持ちを切り替え、ライトは1つ目の箱に目を通し始めた。
1つ目の箱には、釘の形状をしたメイスと絶叫する髪の長い女性の頭部が描かれた盾が入っていた。
(ネイルノッカーとスクリームフェイスか。これまた結構癖が強いな)
手早く<鑑定>を済ませると、ライトは今見た2つの呪武器の名前と効果、デメリットを調べ始めた。
ネイルノッカーには、敵対する者の体の一部に打ち付けるとダメージが本体に入るという効果を持つ。
その代わり、逆に体の一部にネイルノッカーでダメージを与えた相手から攻撃を受けるとダメージが2倍になる。
スクリームフェイスには、この
その代償として、使用者には装備中常に何かに怯える女性の顔が見える。
「【【
【
(どっちも鋼鉄製か。熔かして再利用するのが良いんじゃないかな)
1つ目の箱の処理が終わると、ライトは2つ目の箱に手を伸ばした。
その中には、瘴気と独特の存在感を放つ髑髏が先端に付いた大鎌だけが入っていた。
「【
この
(セルフィッシュスカルって何? あの髑髏が喋んの?)
名前から武器の効果を想像したが、ライトの予想は外れた。
セルフィッシュスカルの髑髏に魔石を捧げると、それを吸収して大鎌が軽くなったり切れ味が上がったりと様々なバフがかかる。
しかし、どれだけの魔石を捧げれば良いかはその時次第で変わるのでセルフィッシュスカルという名前だった。
実際、戦闘中に必要な魔石の量がわからなければ、いざ勝負を仕掛けると言う時に出端を挫かれる。
それは扱いにくいと判断されてもおかしくはない。
「【
セルフィッシュスカルは前2つとは異なり、聖気をゆっくりと消化するように馴染ませていき、馴染み終わると仄かな光を放つ銀色の大鎌へと変わった。
瘴気の発生源だった髑髏も、黒ずんでいた見た目が銀色に変わっていて印象が全然違った。
ダーインスレイヴやナグルファルと同じように、銀色の大鎌にはうっすらと赤い分岐線が浮かび上がっていた。
(フリングホルニってなんでだよ)
ミスリル製の
それをライトが名付けた訳ではないのだが、神話とは明らかに物が違う。
フリングホルニで言えば、本来は巨大な船のことだったはずなのに大鎌にその名前が付いている。
アンデッドを黄泉に送り届けるという意味では、船の要素がない訳でもないがそういう認識なのだろうか。
ライトはそこまで考えたが、どこまで考えてもフリングホルニの名前が変わるわけでもないからそこで考えるのを止めた。
フリングホルニの効果は、魔石もしくはMPを注ぐことでSTRかVITを選択して上げられるというものだった。
セルフィッシュスカルと違うのは、魔石ではなくMPで代用しても構わなくなっただけでなく、どれだけの魔石もしくはMPを注げばどれだけの効果が出るか基準が定まった点だ。
(なんということでしょう。気まぐれな困ったちゃんが、契約に基づいて働く勤勉な武器に早変わりしました)
劇的に使いやすくなったフリングホルニを見て、ライトは思わず脳内でナレーションを自演した。
「おっ、当たりが出たか」
「当たりみたいね。ライト君、<鑑定>の結果を教えて」
「わかりました」
ライトからフリングホルニの効果を聞くと、ローランドもヘレンも複雑な表情になった。
「使いやすくなったのは間違いねえな」
「そうね。でも、使い手がいないのよね」
どうやら、癖の強い大鎌を扱う
だが、それならばライトにとっては全く問題がなかった。
「それなら僕に任せていただけませんか?」
「誰か使える人を知ってるの?」
「アルバスです。彼の武器は鋼鉄製の大鎌なんです。それに、前から使いやすそうな
「そういえば、アルバス君の武器はそうだったわね。うん、良いんじゃないかしら」
こうして、ライトはフリングホルニをアルバスにあげるために貰った。
その後、残りの倉庫の肥やしになっている
ミスリル製の
ローランドとヘレンの依頼を終えると、ライトは教皇室から辞して教会学校の生徒会室に戻った。
大鎌を背負って来た自分を見て、アルバスが玩具を持ち帰った父親に見せるような笑顔を向けると、ライトは自分とアルバスが同い年であるはずなのにアルバスが息子みたいに思えた。
精神年齢で考えれば、ライトとアルバスは年が離れているのだから仕方のないことだろう。
それはさておき、アルバスはライトからフリングホルニを安く買えて大喜びだった。
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