第103話 圧倒的じゃないか、ダーイン公爵家のご子息は

 東門にはライト達を含めて20人の守護者ガーディアンが集まっていた。


 ローランドの姿はここにはなく、既にグラッジを倒しに行った後だった。


 ゲイザー率いる集団を迎撃する前に、ぞの場にいる全員で自己紹介し合った。


 1つ目のパーティーは、”夜明けの守り人”と名乗った。


 騎士ナイトのギルバートがリーダーを務めるパーティーで、剣士フェンサーが1人、暗殺者アサシン1人、魔術師マジシャン1人、森呪師ドルイド1人という構成だった。


 男女比は前衛3人が男、後衛2人が女というバランスだった。


 ちなみに、森呪師ドルイドの女はギルバートの婚約者だったりする。


 暗殺者アサシンの男は、斥候の役も担っており、ヘレンにグラッジとゲイザーがこの東門に来たと伝えた張本人である。


 2つ目のパーティーは、”筋肉武僧”と名乗った。


 パーティーリーダーはエドモンド=アルジェントで、ヒルダとイルミのパーティーメンバーであるターニャ=アルジェントの兄だ。


 このパーティーは特殊な部類で、パーティーメンバー全員の職業が僧兵モンクだった。


 というより、ムキムキなボディビルダーだけでパーティーを組んだのだと思うくらいである。


 黒光りした肉体を惜しげもなく披露し、5人全員がサイドチェストで自己紹介をした時は、ライト達がドン引きだった。


 ターニャを知っている生徒会パーティーとしては、ターニャにこんな兄がいることに同情的にならざるを得ない。


 それに加え、ターニャが婚約者探しを貪欲に行っているのは、自分の兄を知られてしまえば、関わり合いになりたくないと思われるからだろうと察することができた。


 ターニャは泣いて良いかもしれない。


 3つ目のパーティーは、ヘレンがリーダーを務める急造パーティーなので、パーティー名はない。


 重騎士アーマーナイト2人、薬師ファーマシスト1人、吟遊詩人バード1人、魔射手マジックアーチャー1人の構成で、普段はパーティーを組んでいない。


 重騎士アーマーナイトの2人は、ライトを含めたレイドの後衛メンバーを守るためにヘレンが声をかけた教会学校時代の同期で、教会内でも守りに秀でた人材だ。


 驚くべきことに、どちらとも女でアーマとノウンという双子の姉妹だった。


 薬師ファーマシストは回復役の控えとして連れて来られただけでなく、爆薬等を投げつけて攻撃することを期待されている。


 回復以外にも役に立てると思われて連れて来られたが、完全にライトの下位互換と言えよう。


 吟遊詩人バードはホルンを装備しており、その奏でる音で味方のバフや敵へのデバフを期待されてヘレンに連れて来られた。


 そこに、生徒会パーティーが加わるとなると、寄せ集め感が否めない。


 生徒会パーティーだって、本来は別々のパーティーに所属している者達が集まった臨時パーティーなのだから。


 半数以上が臨時パーティーなのは、レイドを組むうえで心配に思わない方がおかしいだろう。


 しかし、それでもヘレンの人選に間違いはないらしく、全体の指揮を執るヘレンの指示に全員が従った。


 迎撃準備が終わった頃、ゲイザーよりも先に雑魚モブの集団が東門にやって来た。


「スカルホーク30、ロッテンベアー10、スケルトン20!」


 ”夜明けの守り人”の暗殺者アサシンは、自分の目で捕捉した敵の内訳を素早く報告した。


 (あれぐらいなら、問題なくやれそうだ)


 そう判断すると、ライトはヘレンに話しかけた。


「叔母様、あの集団は僕だけでやって構いませんか? ここで皆さんのMPを消費するのは、得策ではないでしょう?」


「ライト君1人でやるの?」


「はい。多分、一撃で済みます」


「・・・そう。じゃあ、お願いしようかしら」


 ライトの表情には、一編の曇りもなかった。


 それを見て不安材料はないと判断し、ヘレンはライトに雑魚モブの混成集団を任せることにした。


「ありがとうございます」


 お礼を言うと、ライトは【範囲昇天エリアターンアンデッド】の射程圏に雑魚モブの混成集団が入るのを待った。


 そして、全体が射程圏内に入ったのを確認すると、すぐに行動に移った。


「【範囲昇天エリアターンアンデッド】」


 パァァァッ。


《ライトはLv41になりました》


「瞬殺!?」


「圧倒的じゃないか、ダーイン公爵家のご子息は」


「これが<法術>・・・」


「ライトこそ最強。異論は認めない」


 他のパーティーがざわざわする中、ヒルダがライトがNo.1だと言ってのけた。


「そんなことはないと思うけど」


「今日、人類はライトがどれだけすごいのか思い知ることになる」


「おーい、ヒルダ。戻って来て~」


 嬉しそうにブツブツ言っているヒルダに対し、ライトはヒルダの目の前で手を振って正気に戻ってもらえるように声をかけた。


「おっと、魔石の回収しないと」


 暗殺者アサシンが我に返り、ライトが倒して現れた戦利品の回収に向かった。


 これから起こるであろう戦闘で、手に入るはずだった魔石が失われるのは損失でしかない。


 それゆえの判断だった。


 暗殺者アサシンが素早く魔石を回収して戻って来ると、突然、地面がグラグラと揺れ始めた。


「地震!?」


「このタイミングで!?」


「落ち着きなさい!」


 ニブルヘイムにおいて、耐震工事なんてものは存在しない。


 だから、地震が大きくなれば、最悪の場合家が壊れることだってある。


 それを理解しているから、地面が揺れ始めたことで不安になった者が慌ててしまったのだ。


 しかし、ヘレンはそれを一喝することで抑え込んだ。


 地面の揺れが収まった瞬間、今度は東門の前方の地面にビキビキと亀裂が入った。


 地面が割れ、底に砕けた地面の欠片が落ちた。


 それと同時に、その穴の中から腐った体のモグラの軍勢が現れた。


「ロッテンモール! 数は最低でも50以上!」


「まさか、地下から進軍して来るとは思ってなかったわ」


「叔母様、もう1回やりますか? まだ、皆さんのMPは温存しておきたいでしょうし」


「・・・お願いできるかしら?」


「わかりました。【範囲昇天エリアターンアンデッド】」


 パァァァッ。


《ライトはLv42になりました》


「あれで学生か・・・」


「回復に戦闘もこなすなんて、どんな人材よ」


「むぅ。筋肉を披露する機会が足りない」


 最後の人は、少し黙っていていただきたい。


 そんなことを思う者もいたが、わざわざ口に出すことはなかった。


 それよりも、ロッテンモールがドロップした戦利品の回収の方が優先である。


 地形が若干変わってしまったので、暗殺者アサシンは慎重に動きまわって魔石を回収した。


「瘴気が少し濃くなりましたね。浄化します。【範囲浄化エリアクリーン】」


 瘴気が周囲にあって得をするのはアンデッドだけなので、ライトは空気を浄化した。


「1パーティーに1人欲しい人材だよな」


「私達、戦場でさっぱりしてるなんてどういうこと?」


「筋肉さえあれば・・・」


 (”筋肉武僧”の人、少し黙っててくれないかな)


 男子たるもの、筋肉はある程度身に着けておきたいとライトは考えている。


 だが、それはあくまでで構わないのだ。


 ライトはになりたいなんて全く願っていない。


 というより、筋肉よりも先に背を伸ばしたいという願いの方が強い。


「お姉ちゃん、ライトがムキムキでも良いと思うよ」


「拾わんでよろしい」


「そうよ、イルミ。ライトが暑苦しい無駄マッチョになったらどうするの?」


「「「「「無駄マッチョ・・・だと・・・」」」」」


「言い得て妙」


「確かに、重くて動きづらそうですね」


 ”金剛武僧”の5人が無駄マッチョという言葉に凹んでいると、メイリンとジェシカがそれに追い打ちをかける。


 ところが、そんなくだらない話はすぐにヘレンが止める。


「ライト君、悪いんだけど、ゲイザーが来るまでの間に雑魚モブが出たら、対処は任せても良い?」


「構いませんよ。MPにはまだまだ余裕がありますから」


「そう言ってもらえると助かるわ。困ったことに、私の知ってる情報にズレが生じてるのよね。グラッジとゲイザーが引き連れたって報告があったアンデッドの中に、ロッテンモールは入ってなかったの」


「もしかして、もう1体ネームドアンデッドがいると考えてますか?」


「その可能性がないとは言えなくなったわ。まあ、ほんの少しだけどね」


 ほんの少しと言いつつ、ヘレンの表情は険しい。


 実際、想定よりも敵の戦力が見過ごせないぐらい増える可能性があれば、全体を指揮する者として表情が険しくなるのも仕方がないだろう。


 そこに、ヘレンの思考を邪魔するかの如く、暗殺者アサシンの声が響く。


「ゲイザー接近!」


「来たわね。総員、戦闘準備!」


 来るかどうかわからない敵のことよりも、今確実に接近している相手ゲイザーに集中するべきだと判断し、ヘレンは全体に指示を出した。

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