第82話 アンジェラ、お前は盾か!? 違うだろ!?

 アンジェラが負傷したのを察して、ライトはすぐに動いた。


 ペインロザリオのせいで、本来のダメージは感じた痛み程酷くはないとわかっているが、ライトにはアンジェラを放っておくことなんてできはしない。


 それに、<堕力弾ディジェネブリッド>に命中すると、一時的に全能力値が下がるデバフ効果がある。


「【範囲回復エリアヒール】【範囲治癒エリアキュア】」


 【回復ヒール】と【治癒キュア】の射程圏外にいたアンジェラのために、ライトはMP消費量が多い【範囲回復エリアヒール】と【範囲治癒エリアキュア】を迷わず発動した。


 それにより、アンジェラの傷は塞がり、HPも全能力値も全快した。


「若様、ありがとうございます!」


「アンジェラ、お前はか!? 違うだろ!? 僕は自分の身を自分で守れる! となり戦うのなら、アンジェラは攻撃に専念しろ!」


「・・・承知しました」


 ライトにここまで言われてしまっては、自分を情けなく思うのも仕方のないことだ。


 アンジェラは深呼吸して、気持ちを切り替えた。


 その瞬間、アンジェラの纏う空気が変わった。


 ライトからペインロザリオを受け取った時、アンジェラの顔つきは真剣なものだった。


 今は、真剣なことに変わりはないのだが、冷たく鋭い雰囲気を纏っている。


「クソが」


「【防御壁プロテクション】」


 黒い雨が降り出し、ライトとアンジェラを襲うが、ライトはアンジェラの頭上を守るように光の壁を展開することで、自分にもアンジェラにも<恐黒雨フィアーレイン> が当たらないようにした。


 そうしてくれると信じていたので、アンジェラはその時点でソードブレイカーとの距離を詰めており、射程に入った時点でペインロザリオを横に薙いだ。


「鬱陶しい」


 血染めのローブごとスパッと斬られ、ダメージを負ったソードブレイカーは反撃だと言わんばかりに<堕力弾ディジェネブリッド>を連射した。


 しかし、自分だけを気にして戦えば良くなったアンジェラの動きは、既にソードブレイカーが捕捉できないものへと変わっていた。


 そのせいで、連射した<堕力弾ディジェネブリッド>は全て外すこととなった。


 今度は背後に回り、アンジェラが斬撃を放つ。


 それがソードブレイカーの背中に命中した時には、アンジェラはその場から移動していて姿はない。


 アンジェラを捕捉できず、捕捉できたとしてもライトに自分の攻撃を防がれるソードブレイカーは、イライラが頂点に達した。


「滅びろ」


 苛立ちを込めてそう言うと、ソードブレイカーを中心に先程よりも黒い霧が発生した。


 <呪霧カースミスト>を最大出力で発動したのだ。


 だが、そんなものはライトにとっては大した障害にはならない。


「【範囲浄化エリアクリーン】」


 黒い霧はすぐに消え、ソードブレイカーの姿が露わになった。


 キリが消えた瞬間を狙い、アンジェラはソードブレイカーに向かって突きを放った。


 骨身に命中し、金属同士がぶつかったような音がしたが、ソードブレイカーが後ろに体をのけ反らせていることから、確かにダメージが与えられている。


 アンジェラはこの隙を逃さず、連続で突きを放った。


 金属同士がぶつかる音が続き、ソードブレイカーが不快感を我慢せずに反撃した。


「おのれっ!」


 ダメージを受けながらも、どうにかアンジェラに反撃してやろうとソードブレイカーが<堕力弾ディジェネブリッド>を連射した。


 ところが、アンジェラがそれを全て見切って避けるものだから、ソードブレイカーの反撃は失敗に終わった。


 (あと1回でもアンジェラの攻撃が入れば、<範囲昇天エリアターンアンデッド>で確実に倒せる)


 ライトはソードブレイカーに<鑑定>を使い、ソードブレイカーのHPがとどめを刺すまであと少しであることを知った。


 そして、ライトはいつでも<範囲昇天エリアターンアンデッド>で倒せるように、タイミングを逃さず仕留める準備をした。


 その一方、ソードブレイカーは右手を前に出し、瘴気を圧縮していた。


 ヴェータラ戦を経験していたライトは、ソードブレイカーが<呪砲カースキャノン>を発動するつもりだと察した。


「【範囲浄化エリアクリーン】」


「何ぃっ!?」


 切り札だった<呪砲カースキャノン>は、集めた瘴気も周囲の瘴気ごとライトに消されてしまい、不発に終わった。


 切り札まで潰されてしまえば、ソードブレイカーも驚かないはずがない。


 そこで生じた隙を狙って、アンジェラがソードブレイカーにペインロザリオを振り下ろした。


「今だ! 【範囲昇天エリアターンアンデッド】」


 パァァァッ。


 アンジェラの一撃により、一気に倒せるラインまでHPを減らされたソードブレイカーに対し、ライトの【範囲昇天エリアターンアンデッド】が命中してそのまま消滅した。


 ヴェータラやボールクラッカーよりも大きな魔石に加え、下から1/4は黒いグリップ、残り3/4は赤い金属でできた棒状の何かがドロップして地面に落ちた。


《ライトはLv37になりました》


《ライトはLv38になりました》


《ライトはLv39になりました》


《ライトはLv40になりました》


《ライトの称号”鉄心”が、”鉄華”に上書きされました》


《ライトは<多重詠唱マルチキャスト>を会得しました》


 戦いの終わりを告げるように、リザルトラッシュが起きた。


「若様~!」


「【浄化クリーン】」


 上空から、ライトの【防御壁プロテクション】を足場にして駆け降りダイブするアンジェラを躱し、そのまま【浄化クリーン】を発動した。


 これは、アンジェラの存在自体が邪だからということではなく、瘴気を放つソードブレイカーの近くで戦っていたアンジェラを清潔にするライトの優しさだ。


 決して、アンジェラが汚いものだからではない。


 いや、正確には業の深い性格を浄化できないだろうかと思っていたりする。


 ライトにダイブを躱されたアンジェラは、戦闘の時とは打って変わって頬を赤く染めてモジモジしていた。


「若様ときたら、激戦を終えた私を冷たくあしらうなんて・・・、どれだけ私を喜ばせてくれるんですか」


「黙れ変態」


「ありがとうございます!」


「しまった・・・」


 罵れば喜ぶことを忘れ、うっかりとアンジェラを罵ってしまったことをライトは後悔した。


 体をクネクネさせて喜ぶ変態アンジェラを放置して、ライトは魔石と共にドロップした呪武器カースウエポンらしきものに<鑑定>を発動した。


 (カースブレイカー。長杖ロッドに分類される呪武器カースウエポンなのか)


 よく見てみると、このカースブレイカーの赤い金属部分は、剣を折る剣と称されるソードブレイカーに似て後ろがギザギザしていた。


 普通に殴る時は前で殴り、剣を折る時は後ろで受け止めて折るのがこの長杖カースブレイカーの使い方らしい。


 さて、肝心の効果とデメリットだが、今回は使用者が限定されるものだった。


 まず、効果は呪武器カースウエポンやアンデッドが使う武器をその武器を3回攻撃すれば壊せる。


 その代わり、普通の武器に対してカースブレイカーは長杖でしかなく、この長杖が使用者に常時<恐慌フィアー>をかけてくるデメリットがある。


 使用者が限定されるというのは、戦う相手が基本的に人型の武器を持つアンデッドであり、<状態異常半減>以上の状態異常への耐性スキルが使用者に求められることを意味する。


 そうであるならば、ライトにはもってこいの呪武器カースウエポンだと言えよう。


 そもそも、接近戦をするつもりがないライトならば、ペインロザリオはただのお守りのようなものなのだから。


 3回攻撃する必要はあったとしても、呪武器カースウエポンやアンデッドが使う武器を壊せるという効果は大きい。


 それに、<状態異常激減>を会得しているライトにとって、カースブレイカーのデメリットはデメリットにならない。


 そこまで考えが至ると、ライトはカースブレイカーと魔石を浄化して回収した。


 戦利品のチェックが終わったら、次は自分の変化を確認することにした。


 新たな称号を会得し、スキルも会得したのだから、確認しない理由はない。


 <鑑定>を自分自身に発動し、ライトは自分のステータスを確認し始めた。



-----------------------------------------

名前:ライト=ダーイン  種族:人間

年齢:10 性別:男 Lv:40

-----------------------------------------

HP:3,600/3,600

MP:27,100/31,200

STR:2,600

VIT:2,500

DEX:3,200

AGI:3,000

INT:3,200 (+3,200)

LUK:2,500

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称号:ダーイン公爵家長男

   鉄華

   ネームドスレイヤー

二つ名:なし

職業:賢者ワイズマン

スキル:<法術><鑑定><道具箱アイテムボックス

    <状態異常激減><超回復><多重詠唱マルチキャスト

装備:ダーインスレイヴ

   カースブレイカー

   ヘルハイル教会学校制服

備考:なし

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 (能力値が軒並み上がってるけど、DEXがINTと同じになってるや)


 昨日の午後、アンジェラから出された課題により、アンジェラに抱き着かれないようにするためには是が非でも器用にならざるを得なかった。


 鑑定結果によると、急成長したDEXのおかげで、”鉄華”と<多重詠唱マルチキャスト>を会得したのだから、課題に取り組んだのは正解だったらしい。


 ”鉄華”という称号は、並大抵のことには動じないメンタルと、戦場での指揮の技量が一定ラインを超えると与えられる。


 <多重詠唱マルチキャスト>というのは、1つのスキル、技を重ねて発動できるスキルだ。


 使用者が慣れれば、MPが尽きない限りいくらでも同時に同一のスキル、技を発動できる。


 ライトが狙っていた<器用貧乏>とは違うスキルだが、これにはこれで十分に使いようがある。


 ライトは鑑定結果に満足し、ステータスチェックを終えた。

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