第2話 魔法がある世界。
青い猫型ロボットのマンガやアニメ所か、マンガもアニメも存在しない世界。
前世でも思わず呆ける程の高そうな装飾品が並ぶ部屋なんて、テレビでしか見たことは無いが、どうみたってかなりの大金持ちの屋敷感がある室内。
日本国内で見かけた事のない建築様式は、それだけでこの場が日本ではない事を強調している。
それだけだったら、多分「私、外国旅行とかしましたっけ?」とか…
見に覚えはないけど何かの犯罪に巻き込まれたか!?くらいの突拍子もない妄想が炸裂していたかもしれないが…
そんなくだらない事を考える事すら出来ないくらいの重大な事が、私の体に起こっていた。
――――私、いつからこんなに幼くなったの………
前世の私は幼いどころか19歳で、大学に通う普通の女の子だった。
勉強しか取り柄がなく、友達にも呆れられるタイプ。
そういう記憶がしっかりと頭の中に存在しているというのに…
それなのに、この世界で産まれた後の記憶もちゃんとある。
どっちが本当の私!?とさっき取り乱したが、冷静に考えれば分かる事だった。
今のこの幼い体の私が、現在の本当の私で、
19歳の私はこの室内を見る限りは、世界観的に前世というものの記憶の中にしか存在していない私らしい。
色々と気難しく考えたけれど、結論として違和感を覚えるのは、現世の私は幼い体を持っているのだから幼い人格だろうに、主人格的なものが前世の私になってしまっていて、頭は十九歳の思考と記憶を持つのに、アンバランスな事に身体はとても幼い。
この世界の記憶はあるが、それはテレビで見た映像を覚えている感覚に似ていて、
不思議な事に、前世の記憶の方が現実感がある。
異世界転生なんだろうけど、頭の中は異世界転移だ。
アンナという私付きのメイドらしいのも記憶にあるし、メイド服っぽい衣装を着た女性の「姫様」呼びからも、お姫様ってことなのもわかる。
記憶の中でも周りは姫扱いしていた。
産んで貰っただけの母親とはたまにしか会えないが。
元々の記憶でも寂しがってはいない。
舌ったらずに質問した内容の答えを聞き、いろいろ考えて…
結果、うん、ココ、地球じゃないね?と再度結論づける。
アンナに質問した内容の回答はこうだった――
“ヴァイデンライヒ帝国”
それが今居るこの国の名前らしいけど、地球にそんな名前の国は無かった。
ただ、豪華な室内の調度品を確認する限り、そんなに違和感はないのに。
ロココ調っていうの…?ロココだかバロックだか分からないけど。
昔のお貴族様の豪華なお屋敷または城って感じなんだよね。
なのに、国名だけ知らないのはおかしいよね?
アンナが話す言葉も日本語っぽく聞こえてるし。
アンナを質問攻めにしてしまったせいで、アンナが心配しだした。
「急にどうしたのですか?お加減は大丈夫ですか?」
オロオロと私の額や頬を触って体温を調べてる。
――――優しいアンナ。
アンナに心配かけてはなるまいと、舌っ足らずな子供っぽさを強調して、元気一点張りの態度でその場を濁した。
というか、アンナが諦めた。
それでも心配は継続中だったのだろう。
「今日はいつもよりもうんと早く寝ましょうね?」と、アンナに夜も早い時間に寝かしつけされる事になった。
――――アンナが薄暗くなりましたね。と、部屋の調光をしてくれる。
勿論、アンナの手には調光リモコンなどない。指でちょいちょいと明るさを調整してるし。
照明の方を向いてるけど、指の動きをセンサーで認識して調光する凄いタイプじゃない限り。
胸が全力疾走した時のようにドキドキする。
これは…まさか魔法というものなの?
今の私の目は、目玉が溢れんばかりに見開かれてるだろう。
…いや、でも…がいっぱい頭の中に浮かぶ。
固まった私を抱っこすると、アンナがそろそろお風呂にしましょうね。と言った。
そして連れて行かれた浴室は、私専用という割にはとんでもなく広い。
前世の私の部屋が3つは入るくらい無駄に広い。
濃いピンク色の大理石調バスタブは、猫脚付きでとっても可愛い。
四隅の猫足は金色の華美な装飾が施された金具がはめ込まれていた。
部屋といいお風呂といいテーマは「可愛い」の一言につきる。
猫足バスタブに乙女心をキュンキュンさせてると、まだ抱っこしたままのあたしを下ろす。
アンナが手を翳して「水よ」と一言呟いた。
(さっきの調光では無言で指ちょいだったのに、今は言葉を使ってる。違いはなんだろ?)
色々疑問は湧くが、今度まとめてアンナに聞くことにして、今は目の前の不思議な光景を見つめた。
空中に透明な蛇口でもある様に水が出てきた。浴槽にみるみる水が貯まる。
浴槽いっぱいに満たした所で、アンナが手を沈め一瞬で湯気が上がったのだ。
…すごい!あっという間だった。
あれ?でも今のは、黙ってしてた気がする。
聞こえなかったとかかな…この世界の魔法ってどんなのなんだろう?
私は心の中で「魔法だ魔法!!!凄い!!アニメみたい!」と騒いでいたけど、
アンナが私の世話をしてる中で魔法を使うのは日常的だったのに、今更はしゃいだら怪し過ぎる。
だから、怪しまれない様に見慣れてる風を装った。
お風呂の準備を済ませたアンナはテキパキと私の衣服を脱がした。
そして、丁寧に髪を洗って貰ったり、体を洗って貰ったりして、浴槽に入れられる。
気持ち良さに、思わずほぅ…っと声が出てしまった。
アンナに見守られながらぼーっとしていると、今度はこの幼い姫様らしい自分の事が気になり始めた。
記憶を探ってみても、この姫の記憶は断片的でハッキリせず、この世界に対する知識もほぼない。
幼い子どもの頭の中にはアンナと自分だけの世界しかないみたいだ。
母親の記憶もどんな顔だったかくらいはボンヤリとあるものの、一緒にいた記憶もなかった。
王家の家族関係ってこんな冷たいものなの、めっちゃ寂しいーーー!!と思う。
使用人と自分の二人しか居ない世界だ。
アンナの方が母親みたいだよ。
「さぁ、寝る時間ですよ。」とベッドルームに手を引かれて連れて来られる。
私としては考える事が色々ありすぎて、睡魔なんて全く来ませんが。
天蓋付きの豪華なベッドに寝させられる。
就寝の挨拶をした後、静かに退室していくアンナ。
それを寂しい気持ちで見送る私。
扉が閉まり、ぽつんと1人になった。
「これってさ、異世界転生ってヤツよね」
先程から何回も結論づけた癖に、まだどこかにもしかしたら? があったのかもしれない。
声に出して見るだけで、何となく現実感が増した。
私の子供特有の幼さの残る高い声が、広い室内に響いていた。
私の前世では有り得ない魔法という代物を、アンナがいともたやすく使ったのを見て、異世界確定だった。
ヨーロッパ風の室内だって、姫様と呼ばれる身分だって、メイド風の衣装だって、
幼い記憶にアンナが魔法使ってた事だってあったけれど、どこか夢物語の中の様なイメージだったんだろう。
目の前で使われた事で、夢物語ではなく現実だと本当に理解したのだった。
そうなると……
前世の私はどうなったんだろう。
最期の記憶が私の中にもない。
転生なんだし、もう死んじゃったのかな……
私、ひとりっ子だったから、親には申し訳なかったな。
大学2年生だった私は、全然親孝行出来なかった…。
大学を卒業して就職した後、私のお金で家族旅行をプレゼントしようと思ってたのに。
もう会えない両親を思い出し涙が出た。
二度と食べる事の無い母親の手料理や、お母さんには内緒だぞって言いながら私にお小遣いをくれるお父さんの笑顔。
色んな思い出が溢れて止まらない。
涙も止まらない。
絶対寝れないよ!無理!と思ってたはずなのに、とても長い時間をめそめそと泣いてるうちに、いつの間にかスヤスヤと寝てしまったのだった。
あれだけ何時間も泣いていたけれど、元々がとんでもなく早い時間に就寝した私は、まだ夜も開けない遅い時間に目が醒めてしまう。
――今、何時だろう?
ぼんやりとした頭で、纏まりづらい思考の中、寝るまで考えてた事を思い返していた。
そして、ただ何となくパチリと目を開けて、目の前の光景にビシッと固まった。
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