第0話
電話で、医者から連絡を受けた。これから、見知らぬ誰かに、筋繊維を分けてあげる。
SNSで、出会った、相手。顔も名前も、知らない。
ただ、なんとなく、筋繊維移植の手続きをして。移植対象に、このSNSの人間を指定した。それだけ。
なんでもいいから、良いことをしてみたかった。見知らぬ誰か。絶望的な障碍に対して、戦うのではなく、受け入れた人間。
医者。SNSを眺めて。言う。
「移植はできますが、せいぜい、数時間歩けるようになるだけだと思いますよ。完全に繊維が馴染んで歩けるようになる確率は、とても低いです」
「それでもいいですよ、別に。一度でいいから、歩いてもらえれば、俺はそれで」
「そうですか。掛け合ってみます」
「おねがいします」
見知らぬ誰か。男か女かも分からない。SNSのサムネイル。これは、入院するときに着るガウンか何かだろうか。その、たぶん、腹部。
「これ。何のサムネイルなんですか?」
医者に訊いてみる。
「病衣のお腹のところですね、たぶん」
「そうですか」
自分のサムネイルとは、えらい違いだった。
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