37――業魔の剣

話しを聞いたアイレンは当然召喚の玉に興味をしめはしたが、既に手元にはない事を伝えるとあっさりと引いてくれた。

まあ彼女の求める物では無かったのだから、興味はあっても必死に食いつく程の価値は見いだせなかったのだろう。


しかし、アイレンの求めている業魔の剣とはいったい何なのだろうか?


極秘事項との事で、残念ながら彼女から剣の説明は聞けていない。

そのせいか、今度は逆に俺がそれに興味を引かれてしまった。

まあまだ迷宮の探索は続けるので、そのうち見つかるかもしれないと期待しておこう。


「扉が!」


迷宮を探索していると、大きな扉に突き当たる。

以前見た扉と同じで、石造りの表面には細かな意匠が施された跡が見てとれた。

前の扉と同じなら、トラップ付きのお宝が眠っている事になる。


「やっぱ、封印されてる?」


「はい」


「ふむ……まあ、開けるか」


俺は少し考えてから口を開いた。

目的を考えると無駄なリスクを負うだけではあるが、冒険者としての本能が俺を突き動かす。


まあ正確には、ワンチャン業魔の剣があるんじゃないかという下心ではあるが。

興味が出てしまったんだからしょうがない。


「開きました」


サラは仕事が早い。

あっと言う間に封印を解除してしまった。

俺が――前に出るより早く、ドマが扉に手をかけあけてしまう。


探索における唯一の仕事まで取られてしょんぼりだ。

まあそんな事はどうでもいい。


「うっ……」


中をの覗くと、巨大な生き物と目が合う。

扉の先には巨大な円形の空間が広がっており、その中央には熊を丸呑みできそうな程の巨大な蛇が蜷局を巻いていた。

そしてその眉間には、赤黒い剣が深々と突き刺さっていた。


……ひょっとして業魔の剣か?


確信はないが、何となくそんな気がする。

そして剣が刺さっている事を考慮すると、欲しけりゃ倒して奪ってみろって事なんだろう。


こういう時はやはり――


「サラ、魔法で先制を頼む」


相手は未知の魔物だ。

魔法による先制。

あわよくばワンパンで決めて貰うとしよう。


「……」


いつもなら返事がすぐに帰って来るのだが……見ると彼女はその場で跪き、頭を地面にこすりつけるかの様にお辞儀していた。

いわゆる土下座スタイルである。

そしてそれはサラだけではなく、エマとドマもそうだった。


つまり――


「捧げよ」


蛇が口を開き、お決まりの台詞を吐いた。

どうやらこいつが幻獣の様だ。


他の奴らは出入り口だけ開けて別空間にいる様な感じだったのだが、こいつだけはこの迷宮を直に住処にしているのだろうか?

後、なんで幻獣の眉間に剣が刺さってんだ?


色々聞きたい事はあるが、巨体の割に音もたてずに迫って来た蛇が目の前で口を開いたので、俺はダークマターを発動させる。

食われる心配はないとは思うが、目の前で鋭い牙の生えたデカい口を広げられるのは圧迫感が凄い。

この状態で話をする気にもなれないので、とっとと納めて貰う事にした。


「もういいですか?」


適当な所でダークマターをストップする。

こっちから切り上げないと際限なく食い続けそうだからな、こいつらは。


「剣を」


蛇が口を閉じ、その巨大な頭を俺の前に突き出した。

眉間部分に刺さっている剣を引っこ抜けと言う事だろうか?

手を伸ばし、取り敢えず剣の柄の部分を握ってみた。


その瞬間、何かが体の中に流れ込んでくる。


それはこの剣の力の一部だった。


流れ込む力から、この剣がどういった物かが理解できる。

これは魔を封じる力を秘めた剣だ。


その名も――


「業魔の剣……」


気付けば剣は蛇の額から抜けていた。

その刀身は鈍い赤色に輝いている。

眉間にあいていた穴は瞬く間に塞がり、蛇は部屋の中央付近へと戻って蜷局をまく。


「さあ、行くがいい」


「いや、さあって言われても」


これまでの幻獣と同じで、説明が一切ない。

蛇に饒舌を求める気はないが、せめてもう少しヒントなりなんなりが欲しい所だ。


そもそもこの剣、何のために俺に渡した?


「遠からず。この近辺で奴の欠片が息吹く」


「欠片?息吹く?」


口を開いたかと思えば、ちんぷんかんぷんな単語だった。

出来ればかみ砕いてお願いしたいのだが。


そんな俺の心の声が届いたのか、蛇がまともな言葉で話してくれる。

それは俺にとって、とんでもなくショッキングな内容だった


「人が厄災ディザスターと呼ぶ魔物が、じき生まれるだろう。その剣で封じるのだ。奴の欠片を」


厄災ディザスターが現れる!?」


かつてシタイネン王国に現れ、深い傷跡を残したと言われる最悪レベルの魔物。

100年程の周期で世界各地に表れているそれは厄災と呼ばれ、人々に恐れられている。


「そんな馬鹿な……いや、馬鹿な話じゃないのか」


シタイネンが襲われてからもうじき100年経つ事を考えると、幻獣の言葉には信憑性があった。

と言うか、そもそもこいつらが俺に嘘を吐く理由がない。

そう考えると事実なのだろう。


まあ百歩譲ってそれはいい。

問題は――


「剣で厄災を封じよ」


「俺に厄災を倒せってのか!?」


無理!

無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理…………無理!


相手は王都の分厚い外壁を容易くぶち破る様な化け物だ。

確かに手にしているこの剣からは凄い力を感じるが、どう考えても俺が個人でどうにかできるレベルの相手では無いだろう。

厄災は。


ていうか、俺じゃなくお前が戦えよ。


「それが転生者であるお前の使命だ」


「は?」


使命ってなんだ?

ていうか俺が転生者だって事を、幻獣達は知ってるのか?


「ではゆけ」


「うわぁ!?つぅぅぅぅぅぅ!!」


蛇が鼻を鳴らすと、奴の鼻息がとんでもない突風となって俺を襲う。

手にした剣を地面に突き立てたが、まるで氷の上を滑るかの様に体が後方に流されてしまう。

見るとサラ達はピクリとも動かず、土下座のポーズのまま流されていく。


いや、少しは抗えよ。

相手が幻獣だからって、無抵抗過ぎだろ。


やがて突風が収まる頃、俺達は扉の辺りから随分と後方へ飛ばされてしまっていた。


「扉が……」


顔を上げた時、そこにはもう扉は存在していなかった。


なんでこう幻獣ってのは、中途半端な所で話を切り上げるんだ?

もったいぶるのが趣味なのだろうか?

まあ何にせよ。


「いくら何でも厄災の相手は流石に無理だからな!」


俺はその場で行き止まりに向かって声を張る。

聞こえてるかどうかは分からないが、ハッキリと宣言しておく。


何せ相手は抑え込むのに万単位の兵力が必要な相手だ。


どう考えても――――


無理!!

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