第62話 イザ・カヤル、動き始める

ミハルのダンジョン改造計画も無事に進行中。当初は10階層だったが今では30階層を超えるダンジョンに成長したらしい。


 エリアも2エリアから、3エリアに広がった。

 命の泉ダンジョンの主なドロップ品はお酒とポーション(下級)、ドワーフがダンジョン詰めかけないかと冷や冷やしていたが、意外にもそんなことは無かった。


 ダンジョンに潜るより、鍛冶をしているほうがいいらしい、さすが一流の職人と名高いだけあるよな、自分が納得のいく武器や防具を造り、その対価で得たお金で美味しい酒を買うのが楽しみなんだって。


 次は、絆ダンジョン、ここは魔石やポーション(中級)、生活に役立つようなドロップ品を多くしてもらってる、極小や小の魔石は、冒険者ギルドの貴重な収入源なので、値段は高くないが確実に売れる商品だから、あればあるだけ買い取ってくれる、大量にストック出来れば他のギルドに卸すことも出来るしね。


 もちろん、通常のブルーボアや、角兎つのうさぎ、ロックバードの肉や卵はどちらのダンジョンでもランダムに出没するし、隠しダンジョンの日本の食卓でドロップされるものも、多少、ばらまいてもらっているんだ、出所を怪しまれないようにね。


 そして、この絆ダンジョンの下層部、3フロアに社畜やブラックに染まった魔物がひしめくことになる。


 俺とミハルは、全力で反対したんだよ、そんなもの絶対に受けないからやめておけって、せっかく順調に人が集まってきているのにそれをぶち壊すようなこと、賛成出来る訳ない。


 そうそう、この頃からやっとナナミとミハルが俺にちゃんと報告してくれるようになったんだ、いままでずっと振りまわされてきたから、当たり前だろ! って顔したけど、本当はほっとしたのもあるけど、やっぱり嬉しかったんだ、だってさ、……ちょっぴり、寂しかったんだよ……ちょっとだけ、だけどな。


 そんな社畜モンスターだが、これが意外と受けた! びっくりだよ。


 もちろん初めのうち冒険者には、すこぶる不評だった、手間がかかってメンタル削られ、しょぼいドロップ品、誰だってやりたくないよ、そんなもん。


 だが、このなんとも、いやーな社畜達に鍛えられるのは、冒険者達を確実にレベルアップさせたんだ。


 種別:カマッテスネーク ランクF

 あまり人を襲うことはないが、うっとうしい。

 但し、怒らせると狂暴になり危険。やり過ごすのが良い。 →気配察知UP


 種別:社畜ゴーレム ランクD

 攻撃力は弱いが、とにかく打たれ強い。

 弱点を見つけて一撃で倒すのが望ましい。

 早めの倒さないと増殖する。   →クリティカルヒット率UP


 種別:アンデッドのお局ドール ランクD

 パーティの一人をターゲットにして、見えないところからの攻撃を繰り返す。

 三人以上集まると、ランクC相当。  →防御力UP    


 等々が、同ランクのモンスターを倒すよりも効率良く、レベルアップすることが分かり、その上、これらのモンスターは、どれも致命的な攻撃は少ないので、命の危険が少ない中で効率的なレベルアップが出来ると、一部から人気が出たのだ。


 どんなものでも需要ってあるんだな、ミハルもこれらのモンスターを生み出したことでデトックス効果があったらのか、ずいぶんと表情が明るくなって、笑顔も増えたので、結果オーライ!


 そして、ブラックな魔物達をくぐり抜けると、いよいよ、次のダンジョンへのゲートカードが手に入る。


「よお、ダイチ、じゃねえ、カイル、ようやく金目になるドロップ品が出てきたな、次の護り森のダンジョンは、宝石が取れるらしいからな、これで、万年貧乏ギルドから抜け出せそうだぜ 」


 にこやかに、アダムが近づいてきて、上機嫌でバシバシとカイルの背中を叩く。


「痛いですよ、もう、少しは加減して下さい 」


「んなこと言ってもよう、ドナーテルだけ移住許可出して、屋敷までくれてやるって、贔屓しすぎだろう、ずりーよ 」


「ずるくないですよ、一番初めに移住希望に手を挙げてくれたんですから、そりゃあ、多少の優遇は仕方がないでしょう、それに、ドナーテルさんはちゃんと、ご自分の後任を育てていらっしゃいましたけど、アダムさんはいないでしょう? 」


「そんなもんは、アリサに任せれば大丈夫! 」


「な、訳ないでしょう、ギルマス 」


「アリサ! なんでここに、……」


 アダムさんの顔を覗き込むように、笑顔で近づいてくるアリサさん。


「私は今日、お休みなので、どこにいてもいいんですよ、そんな事より、シュバーツェンの街のギルドはギルマスが責任持ってくださいね、あっちが本部であなたがマスターなんですからね、支部はサブマスの私でも大丈夫じゃないかな? 」


「いや、……、こっちは何が起こるかわからんし、その、アリサは、慣れてる仕事のほうが……いいんじゃないかな……」


 ずいぶんと歯切れが悪いし、思いっきり目をそらしてますよね? 


「ふうーん、こっちのほうが快適だもんね、ギルドの中にシャワーがあるなんて、ここくらいですし、食事も安くて美味しいし、奥さんがシュバーツェンの街に帰りたがらないとか、聞いてるよ、んん? 」


 アダムさん、そんな目で俺を見ても助けられませんから、ちゃんと仕事をして下さい、……いや、だから、おっさんに袖を引っ張られて、ウルウルした目で見られてもな、可愛い女の子ならまだしもさ。


 日用品、食料品を売る店と、飲食店は何軒か移住してもらったけど、どれも5件程度の募集に十倍以上の申し込みがあって、よく聞くと、元々商売してない人まで申し込んできたらしい、そういう方達はもちろん面接の前にお断りせていただきましたとも。


「アダムさん、次にですね、この街の自警団の方々を募りたいと思ってますので、シュバーツェンの街で募集をかけて下さいね 」


「お、俺は元Bランクだから、役にたつぞ! 」


 ちょっと、アダムさん、ツバとばしてしゃべらないで下さいよ、もう、汚いな……


「ギルマス! 勝手に辞められる訳ないでしょう、本部の了解が取れるとでも思ってます? 取れる訳ないですよね 」


 がっくりと肩を落とすアダムさん、


「……また、おれ、あの家で、ボッチになんのか…」


 頑張れ、アダムさん、応援してるぞ、応援だけだけどな……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る