第15話  計画

 それから俺達は毎日、洞窟ダンジョンに通い、順調にミハル達も力を取り戻していった。


 二日目にお弁当を持っていって、皆に食べてもらったら、なんと!ダンジョンレベルが上がりました。


 2人で二日目だから、2階層がギリギリなのに3階層まで回復した。これにはミハルも驚いていたが、差し入れは神へのお供えとなるらしく、人間でいえばポーションを飲んだ状態になるらしい、これを利用しない手はないと、あらゆるものを持ち込んだオソナエシタ結果、わずか2週間程で10階層まで到達する驚異的な回復力となった。


 「なんともまあ、驚きよの、1年程はかかるかと思うたが、たった2週間程とはのう。」


 すっかり元気になった猫又八人衆もご機嫌な様子で、一列にならんでしっぽを振っている。あまりにも揃いすぎてるので、ラインダンスでも踊ったら可愛いのにと思って、つい口にだしてしまったら、ナナミの食いつき具合がひどすぎて、さすがにミハルに止められていた。


「これからは冒険者達を呼び込み、更に広げてゆきたいと思うが、たった二人の魔力に支えれておるおかげか、階層は広がったが魔物が寂しすぎるのう、困ったものじゃ。」


最下層のエリアをクリアした者には、ダンジョン・マスターがいる場所まで導かなければならず、そこで負ければ、勝利者はダンジョン・マスターの魔石を手に入れ隷属契約を結ぶことが出来るらしい。


頂上に君臨しても、負ければ奴隷。ファンタジーは甘くなかった。


この2週間、毎日ダンジョンに通い、ミハルや猫又達と話しをしてきたダイチにはある計画があった。  その内容とは?


まずダンジョン内の一部を区切り、ドワーフを移住させる。

今、創造可能な10階層分のうち1階層分を地上に移し、可能な限りの広域とする。

残りを4階層と5階層のダンジョンに分けて転移式として、転移先毎にドロップ品に特徴を持たせる。


「地上をダンジョンエリアにすれば、通りがかりの人の魔力も取り込めるだろう、俺は異世界の食材が欲しいけど、他の冒険者には何の魅力もない。だったら、普通の冒険者が欲しがるドロップ品が出るダンジョンを別につくれば良くね、って思ったんだけど・・どうかな。ダンジョンって繋がってればいいんだろう、地上の1階層から5階層に繋がる入り口とかって作れないの?」


「…可能じゃな。じゃが、なんでドワーフを移住させるのじゃ?」


「だって、常にダンジョン内に誰か居れば、魔力が贈られてくるんだろう、猫又達も安心出来るかなって。」


「ダイチ殿~、我らの事まで考えてくださるとは…かたじけないにゃ、もったいないにゃ、この御恩はいつか必ず報いてみせますにゃ。」


プルプルと震えながら、真ん丸な目にぶわっと涙が盛り上がるサイゾーくん。他のネコ達もみんな泣いていた。


「あー、もう。泣かないの、もう仲間でしょう、俺達は。」


その言葉に、更に涙が盛り上がり、ぼたぼたと落ちていく。


「ダイチって、いろいろ考えてたんだね、なんかすごーい、男爵家後継ぎで転生者って割にさ、特徴ないなあって思ってたんだけど、実は仕事が出来るタイプ?」


なんか、猫又達との暖かい気持ちが、ゴリゴリと削られたんだが。

悪気はないんだよな…うん。


「ねえねえ、そういえばさ、前世で仕事は何やってたの?」

「俺は、四井物産の海外商品部で働いてたんだ。」

「四井物産の海外商品部って、超エリートでしょう、なんで居酒屋やりたいの?」


「俺の家は、父が医者で母が弁護士、小さい頃から勉強は出来て当たり前、テストの成績さえ良ければ親は機嫌が良かった、勉強は嫌いじゃなかったけど、T大に入るってノルマを達成した後にやりたいことも無くてさ、ただ何となく習慣で勉強を続けてたけど、誘われて初めて居酒屋に行ったとき、酒を飲んで笑って、大声出して飲みつぶれても、又、笑って、皆楽しそうで、あー、こんな世界があったんだ。こんな世界をつくりたいって思って、それからは、もう、料理の勉強して就職して金貯めて居酒屋やるのが俺の夢になってたんだ。考えてみたら家族で笑って食事とか家の中でなかったよ。」


ぽつり、ぽつりとこぼす話に耳を傾けるミハルと猫又八人衆。


「へー、T大入るのが当たり前で、勉強好きとか、それを自分で言う時点でやな奴だよね。」


ふーん、昇進試験にあんなに苦労していた私がバカみたいじゃない、なんか、むかつく。完全に八つ当たりである。中身はデキルお姉さんのはずが、この世界の実年齢15才に精神が引っ張られてるようだ。 


「どうせ友達いなかったんでしょう、頭いいだけのつまんない奴だったの?」


……正解。   と自分で言うのはなんかやだ。


本人に面と向かってつまんないとか、なかなか言えない。

ミハルが同情的な視線をダイチに向けている。猫又八人衆はそっと目をそらした。


「せっかく、貴族やエリートの家に生まれても、何もやることが無いって、ある意味すごいよね。」

悪気も無いが、遠慮も無い。


「ま、まあ、以前は知らぬが、ダイチがおらねば我らは消えておったかもしれぬし、ナナミも助けられておるのじゃろう、ダンジョンが栄えれば領地も潤う、やり方は一つでなくても良かろうよ。」


「それは、、感謝はしてるわよ、助けてもらってるのは、言われなくてもわかってるし。」


何の見返りもなく、優しくされる事にまだ慣れていないナナミが素直になれるのは、もう少しかかりそうだ。

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