第6話 お着替え
「とりあえずさ、ナナミの着替えと必要なものを揃えないとな。
あっと、その前に俺も着替えないと、あと髪も染めて、」
カイルが戸棚から、小瓶を取り出してなにやらクリーム状のものを髪に塗っていく、それから、ブラシで梳かしていくと黒髪だったダイチの髪がこげ茶色に変わっていき、服も平民が着ているようなシャツとパンツに変えて、靴も履き替える。
「ナナミもこの薬を塗って、髪色変えておいてくれる、その銀髪は目立ちすぎるから。ブラシはこれを使ってね、このブラシは温風がでて、色素を定着させてくれるからさ。」
そう言って、ダイチは家を出て行った。
ナナミはブラシを手に取り、くし先を手のひらにあててみた。
手のひらのふれたところが、あたたかい。
すごい! 本当に魔法のある世界なんだ。 まさか、電池内蔵ってないよね、
家の中はごく普通。家電製品はもちろん無い。
小さい窓があるが、窓には布がかけらている。
この部屋の明かりはどこからかと、上を見上げると白い光の球が浮かんでいた。
電球替えなくてていいんだ!
《この世界では、魔素がエネルギーとなっております。》
小さな笑い声とともに軽やかな声が聞こえてきた。
慌てて辺りをキョロキョロと見回しても誰もいない。
《私、フレイアはナナミ様の中におります。この声はナナミ様だけが聞くことが出来ます。ナナミ様がご自身に問いかければ、私と会話することが可能ですよ。もっと時間がたてば、私の記憶や想いも一つになりましょう。》
「それって、フレイア様がいなくなっちゃうってこと?」
《元々、一つの魂なれば、元に戻るだけ。二つが一つに。どちらも私であり私でない。》
「うーん、ごめん、良く分からないんだけど、」
《無理に理解する必要はございません。この世界の基礎知識は私を通して取得可能であるとお分かりいただければ良き事。》
「分かったわ! 良く分かんないけど分かった。」
ナナミの体から淡い光がいくつも浮かび上がり、ゆらめいている。
一つ、又、一つとナナミの体の中に戻っていく。
これは、フレイアの記憶だ。ナナミが混乱しないようにフレイアは自分の力を抑え込んでいた。
異なる人格、知識、無理に統合すれば荒ぶる御魂となり、自我を失う恐れもある。
そのために殻に閉じこもるようしていたが、ナナミがこの世界を受けいれる準備ができたことを確かめ、ほんの少しだけ自分を解放した。
淡く揺らめく光が、ナナミを取り巻き、残りわずかとなった時、
バタンと扉が開いて、ダイチが帰ってきた。
ナナミの動揺を示すように揺らめいていた光は、細かく震えナナミの中に戻っていった。
「びっくりしたじゃない! 気を付けてよ。」
「あっ、ごめん、着るもの買ってきたから・・・。」
ここは、ダイチの家で居候のナナミが怒るのは理不尽ではあるが、
反射的に謝ってしまった事により、上下関係が決定された瞬間となった。
鉄は熱いうちに打て!
対人関係の初期に於いて、上下関係が成立した場合、無意識に支配下におかれることがよくある。
「着替えを用意したんだけど、まだ髪を染めてなかったの、それは目立つって言ったよね。」 少し、あきれ気味に言うダイチに、
「忙しかったのよ!」
もはや、逆切れも正論と化す。
「そ、そうなんだ、じゃあ、手伝おうか?」
あっさりとナナミの言い分を認める。
これ以上進めば、下僕となる可能性もなきにしもだが、本人無自覚なので。
「お願い出来る? 使い方良くわからなかったし」
クリームを髪につけて溶かすだけだが?
「この世界で目覚めたばかりだもんな。 そりゃあ、いろいろ戸惑って当然だよな。一人にして悪かったけど、そのままでずっといるのも危ないと思ったからさ。」
基本、ダイチは女の子に優しい。ましてや美少女ともなれば男としての保護欲も出てくるかもしれない。
だがしかし、目の前にいるのはフワフワ、トロ甘のお人形では無く、”やりすぎ注意”と書かれたプラカードが良く似合う熱血女刑事である。
「まず、髪の色から変えようか、このクリームつけていくね。
服や顔についても、熱を加えない限り着色しないから安心していいよ。」
あっという間に銀髪から柔らかなハニーブラウンに変わる。
手渡されたワンピースに着替えると、裕福な商家かおかかえ騎士の娘位に見えるようになった。
「へえー、なかなかセンスあるじゃん、うん、可愛い、可愛い。これならお貴族様には見えないかな?」
「大丈夫だと思うよ、もともとここでフレイア様のお顔を知るものなんていないから。着替えがわ終わったら、街に出よう、あと、まだ着替えやナナミに必要なものもあるだろうし、街の雰囲気を知ってもらいたいしな。」
「そうね、わかったわ、ちょっと楽しみ。」
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