猿轡をされた者たちは……
あやえる
第1話
もし、今あなたが絶望の淵にいるのなら。
もし、今あなたが命を絶とうとしているのなら。
もし、今あなたが辛いはずなのに逃げ出せないなら。
もし、今あなたが笑っていないのなら。
……今すぐなんとしてでもそこから逃げ出して下さい。
逃げ出せても落ちる所まで落ちます。
それでも……
なんとなくでも生きてさえいれば、
今の現実が夢だったかのような日がきますから。
ーーーーーー
『もも!ひさしぶり!元気?今度飲まない?』
高校の時の同級生からの突然のLINE。
『なつ!ひさしぶりー!元気だよ!いいね!いつにする?』
私は直ぐにLINEを返した。
なつは、中学の時からの同級生で、私にとって一番仲が良く、ずっと憧れで自慢の友人でもあった。
容姿も小柄で可愛らしく、気さくな性格で老若男女問わす校内だけでなく、他校の友人もとても多かった。
そんな自慢で憧れの友人との久しぶりの再会。私は胸が踊った。
ーーーーーー
久しぶりに再会したなつは、可愛いだけではなくて綺麗になっていた。
「もも!綺麗になったね!」
「なつも!本当に!」
「うちらも二十四歳かぁ……。」
「中学からの付き合いだけど、本当にあっという間だよね。」
「ねー!ももって今何してるの?」
「今は営業の仕事!本当にノルマきつくてさあ。なつは?」
「あぁ。実は大学中退してからフラフラしてて日雇いアルバイトって感じ?」
ものすごく意外だった。昔から頭も良くて要領も良く、偏差値も高く就職率のいい大学に進学していたなつが、中退していた事にも驚いたし、一般就職していないだなんて。
「え?なつ、それ大丈夫なの?なつなら中途採用とかでも絶対いい会社勤められると思う。」
「いやいや。やっぱりね。大学中退してからフラフラしてたらね、職務経歴書上の空欄とかが痛いわけよ。」
「なんで大学中退しちゃったの?」
「いやぁ、いい大学入れてもレベルが高すぎて授業ついて行けなくて。それで授業サボりだして単位落として……みたいな?そもそもあのまま在学しててもテストの点とかで留年とかして余計に学費掛かっちゃいそうだったしさ。あと、授業ついて行けなくて始めたキャバクラのバイトでなんか色々感覚ぶっ飛んだのと真面目に勤めるって事ができなくなっちゃって。」
「そうだったんだ。なかなか壮絶だったんたね。」
「まあ。ねぇ、その左手の薬指は……?」
「あぁ。まあ、実は結婚したの。式はこれからなんだけど。」
「うそー!あの奥手のももが!まあ、営業の仕事って時から内心驚いてたけど……。えー!おめでとう!」
「ありがとう。」
「どんな人?」
「同じ会社の同期なんだけど。」
「えー!もも、やるぅ!」
「そんなんじゃないよ。」
「でも、やっぱりなぁ。」
「え?」
「さっき会った時から思ってたけど、もも本当に綺麗になって幸せそうだもん。式いつやるの?」
「え?なつ、来てくれるの?」
「絶対行く!」
「嬉しい!」
そんな他愛もないお互いのこれまでの歴史や思い出話に花を咲かせていると時間は夜中の十一時を回っていた。
「そろそろお開きにしようか。」
私が鞄から財布を出しながらなつに話しかけると、なつがモジモジしだした。
「もも。実は今日会ったのは、純粋にももに会いたかったからなんだけど。」
「うん?」
「こういう話がしたかったからじゃないんだけど。でも今日ももと話しててやっぱりももに伝えたいし、教えたいな、と思って。」
「え?」
「実は普通の会社に勤めなかったり、一つのところで働いてないのには理由……というかちゃんと私なりに目的があって。」
「目的?」
「そう!○○って知ってる?」
なつの口から出てきた名前は、なんとなく聞いた事のある政治活動なんかもやっている宗教団体の名前だった。
「あー。会社の上司からも悪い噂話としてなら聞いた事あるけど。」
「そう!それなの!皆勘違いしてるの!良い話って皆忘れたり、そもそもあんまり話さないじゃない?マスコミがいい例でしょ?いいニュースはその時だけだけど、ゴシップネタはどんどん広がったり突き詰められていく。それと一緒。」
「まさか、なつその宗教団体やってるの?」
「うん。でも本当に素敵な環境なの。精神も落ち着くし、政治活動もやってるだけじゃなくて企業運営もしてるから。実はその企業運営やってて。だからこの活動を一人でも多くの人に広めて収入も精神の安定も広めてるんだ。」
「たくさんの人に宗教を広める為に、日雇いアルバイトしてるって事?」
「そう!掛け持ちもしてるし。」
「でもそれって、その宗教団体の仕事だけじゃ生活出来ないから掛け持ちの仕事もしなくちゃいけなくなってるって事だよね?」
「でも逆に一つの会社に雇われて働いている内は拘束されて、時間と出もしない残業代と一定の金額までしか稼げないんだよ?」
「そうなのかもしれないけれども。」
私の中では親友に近く憧れだったなつが、宗教団体にハマり、本人は否定しているが、勧誘が目的の再会だったのだろう。
私はショックだった。しかし、それと同時になつの目を覚まさせなければ、という気持ちも生まれていた。私は、なつとまた会う約束をした。どうにかなつを取り戻さなければ。
しかし、この再会こそが私の人生を大いに狂わせてくる入口となるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます