44 冴えた彩りを君に (2)
「ちょっ、ちょちよっっとぉっ、何ですのったら何ですのっ、ウザイン・ナリキンバークぅぅぅっ!」
「……うん、止んっ事無き事情が生じてどうにも回避不可能でなー。ホントスマンとは思っている」
「ですからっ、その内容を言わないから意味不明なんですのよぉーーー!」
時は過ぎ去り、翌日の放課後である。
珍しく全員が大人しく授業を受け終わり、各自、それぞれの用事があればその方向へと分かれる頃合い。
ライレーネは学内に用事も無いようで帰宅組。そして昨日から泊まる事となったウチの支店の一室に着くや否や、中に控えていたメイド隊の人界戦術により確保。速やかに着替えさせられ、メイド隊プロデュースの水着を纏って五階ナイトプール……とは別口のナリキンバーク家プライベートプール区画へ招待と相成った。
一般区画と規模的には遜色も無い。ちゃんと売店も稼働中。俺たちが居る間だけだけど。
ちなみに、俺はライレーネの乗る馬車の背後から別の馬車にて到着している。
別に狙っての行動ではない。
あくまで“俺は”の注釈つきでだが。
いや今回のこの顛末だけに関して言えば、主犯はフラウシアとなる。
昨日は普通に帰って、で、別に隠す事でも無いのでフラウへライレーネの件は話したのだ。すると“プールで一緒に遊びたい”、“ライレーネにもしばらく会えてないし!”とのフラウ式力説を頂いた。
そんな細やかな要望に俺が異を唱えるとでも?
故にこの状況である。
が、まぁ、他にもちゃんと用事はあるがな。
「それにこの“妙な身嗜み”とやらは何ですの? 僅かですが首が重いですし、そのくせ何故か……妙に身体の動きにシャープさが付与している違和感も?」
「おお、直ぐに気づいたか。さすがだなぁ」
年頃の男女が水着で対面。
乙女ゲーム的な感覚ならここで双方顔を赤らめるのが年相応の初々しさかもなんだが、実は結構、そうでもない。
これもTPOと言うのかね、貴族はその場所に相応しい恰好をするならば、例え視界の肌色率が過剰であろうと、モザイクのかからない規制内ならば羞恥の対象にはならんのですよ。
これが学院の校舎内で独り水着とかな状況ならば、誰もが顔真っ赤にして悲鳴案件だろうけどね。
で。
さて、実はライレーネの身支度には少し細工をさせてもらった。
具体的には、両手足の爪にマニキュアとペディキュアを。また同じ塗料でヘアマニキュアっぽく毛先にメッシュなどを入れてもらっている。
実はこれ、昨日の短い時間ででっち上げた神殿用・新アイテムの試作品となる。
「まだ仮称の試作品だが、〈
「説明が説明になってませんわよ!」
「まぁ、まだ社外秘案件な内容なんで」
さて、〈華陽虹〉の基本色は真珠色。いわゆる白色を基調にした光沢粒子状のラメ入り塗料といった感じ。
主な効果は身体機能全般の微量な強化。そして塗った部分の防御性のアップ。
メイドでテストした限り、ただのマニキュアを爪先なのに、鉄板を引っ掻いたら綺麗に表面を抉れる鋭さと強度を得た。また指先だけじゃなく、拳ぐらいまでは効果が及んでるな。脚の方も同様で、こんな状況でピンヒールの踏み抜きを食らおうものなら容赦の無い貫通攻撃と化すのは確実。
ヘアマニキュアでの効果は尋常じゃなかった。ただの後ろ髪は防刃効果つきのフードを被ったようなもんだし、頭を振って毛先が触れた木の丸太など、“ジャッ”とか物騒な音を立てて大量のおが屑付きの抉れ跡を遺してた。生身で食らったら怖い結果となるのが確定である。
具体例を聞きたいか?
鮫肌にヤスられてベロンと剥がれた肌を想像するが良いよ。
……お試し品、だったんだよなぁ。
素材は先日の学内ダンジョンで集まった魔物のドロップ品の数々。
動物型が多かったから、爪やら牙やらが大量にアイテムボックスにあったのだ。
ほら、マニキュアの塗料の素材って“エナメル”じゃん。
あれって歯の表面の構成素材だったし、だからお試しにと塗料化してみたら……一発目から、なんか凶悪な性能が付いてしまったというオチである。
機能面はそんな感じだが、使用した時の変化が少し面白かった。
先にも言ったが、これの基本色は白色。なのに、塗った者によって色が変化し、正に虹色のような発色性を出したりしたのだ。
仮称の由来はそんなとこから。変色は使用者の魔力の性質に準じるようで、同じ顔と同じ容姿のメイド隊でも、各自、結構発色に違いが生じていた。
ちなみに、安全性確認の後に使ったフラウは正に虹色。
これはもしかすると、魔力特性の全属性が反映したから? な推測がたつかもしれない。
ライレーネはまた発色が違い、見る角度で緑と赤に色が揺れる特色性が。
確か、ルビーとエメラルドと似ている特性だなぁとか思い出したんで、密かにルビーカラーとでも呼んでおこう。
「とりあえず魔術士用の特殊防具として作ってみた。試作品なんでまだ未確認の機能もあると思う。その当たりを身近な治験者で済まそうとな」
「それは大変、不穏でしかないお話ですわ。でもええ、是非やらせてもらいますけど。それがここに住まわせてもらう対価と思って……よろしいですわよね?」
「まぁ、そんなとこだな」
一応、華美さを売りにする麗光神っぽいアイテムとかで試作したが、それは言わんとこう。
ああ、そうそう。
試作試作とは言ってるが、危険そうなテストの方は“ちゃんとそれ用の人材”で済ませている。まだ完璧とは言えないが、まぁ、大概は大丈夫だろう。
そして神珠液と同様に化粧品としても作ったものなので、安全と解った途端に女性陣からの自主的参加が止まらない。
ただ成果は凄いぞ。
物理的な特性はメイド隊よりのリサーチ結果。
色彩の変幻さも同様に人界戦術の賜物だ。
またフラウからは、それらの変化の原因が使用者だけでなく周囲の魔素を吸収してるからとの報告も受けている。しかもだ、どうもその魔素はフラウ自身への吸収変換量を効率化してる節があり、結果、擬似的な魔力の低コスト使用な効果も生んだらしい。
正に魔術士には必須で最適な装備類の一つかもなわけだ。
「で、この場でわざわざテストしてもらうわけは、様々な環境での耐久性の確認だな」
一応、塗膜はそう簡単落ち無いよう調整はした。
ただし、この手の化粧品は落とすべき時に簡単に落とせるようにするのも大事な部分だ。
その条件付けは……男の俺にはよく解らない部分でもあるので、フラウ達の遊びにかこつけて試してもらおうな感じとなる。
特に水濡れ。プールなんで是非試しておくれよ。
……が、まぁ。
昨日の俺が如く。
フラウが真っ先にいくのは売店の方なんだけどね……。
というかメイド隊。さすがに今日はメイド服での行動より水着の彩りを優先しなさいと命じたい。
いや、命じないけど。
んなことしたら、絶対、怖いルートに嵌まりそうだしぃ。
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