32 脳筋ラプソディー (4)
リースベルの言う、俺の乗っ取るべきダンジョンの広さを、見取り図参照の元に想定する。
だいたい、今の範囲の一撃を……
「なぁ、リースベル。城内だけで大体のとこ300発換算なんだが?」
「ほーん、たくさんなの」
「……感想は、それだけ、か?」
「……?」
「いや、もういい」
MPの残量はこの際気にしなくて良い。
問題は、廃城全体を浄化乗っ取るまでの時間だ。
昨日の経験から比べても、一階層全域を駆け回らなくても乗っ取れる気はするが……それでも僅か一階層。ダンジョン全体をというわけじゃあ、無い。
この城の物理的な一階部分は、その一階層と遜色無い広さなんだよな。
その四倍。しかもよく見たら地下階まであるぞ、ここ。
実質は6階建てで五倍か。
……どんだけ時間がかかるんだろう?
これがただ郊外の大原野とかなら、俺の結界領域を思いっきり拡張してドカンと一発……は可能な気もするんだが。
ダンジョンに支配された空間故に、俺の結界拡張にも制限付きでそれは無理。
やっぱ地道に移動しつつの切り取り、上書きって手順が必須そうなのだよね。
つまり――
「今日中に全体の浄化が無理ならどうなるんだ、ダンジョンの乗っ取り?」
「んー…………“ガンバレ”って」
「ちくしょう。やっぱ脳筋じゃねーか戦神さまよぉっ」
傲慢なる神に呪いあれ。
というかまぁ、神の視点で無理無茶不可能を前提の話でないなら、俺自身が無茶を通す覚悟で動きゃ今日中に終わるって感じなのかね?
例えば、昨日みたいに全力疾走しつつの魔法ブッパしまくり、とか。
……いや、それで良いなら最悪はそうしよう。
いくらリースベルの伝手でも、失敗したら最初からリスタートで連日とかな流れは嫌だぞ。
暫定三日後には予定があるし、それ以前に詰ってる未消化の予定も結構あるのだ。明日と明後日はその予定をぶちこみたい。
となるとどうしても今日中。そしてより合理的な行動を心掛けたい。
……ならば、とうする、俺?
――――そんなわけで。
個人行動の範疇がダメなら数の暴力を、という結論に至る。
幸い、殺虫剤をイメージした浄化の魔法は、より殺虫剤の概念に寄せる変化に寛容だった。
“ぶもーぉ……ばふぅぅぅ……”
似たような擬音を発する
いやサイズ的には似てるし全体的なシルエットにも似てる点があるが、チャカはベースが魔物。対してこちらは、ベースは物体だ。
素材はアイテムボックスに死蔵状態のミスリル。金属インゴットだが魔力との親和性が高く土属性の形状変換でも良い反応をするので材料としては最適。
まだ魔術の授業では習っていないが、そこは前世のゲーム知識で代用できた。はたして同じ魔術かは知らないが、被造物に意志のようなものを持たせ生き物のように動かすための、ゴーレム作成の魔法である。
形状は筒型。両の先端がやや窄まったパイプの印象。その両端の一方が頭部、もう一方が尻となる。一応、頭部の方には目のような穴も開け、耳っぽい突起もある。地面に接する筒には同じく突起程度の四脚をつけて、これで安定した移動も可能。
そしてこのゴーレムの最大の利点は、空洞となった胴体内に浄化の煙を発し続ける簡易魔道具を内臓できることだ。魔道具の燃料たる魔力は俺から遠隔で送るように調整したし、これを数個放射状に放つ事で各階を並行して浄化が可能になる。
正に効率のみを追求した、突貫品ながらも良い出来の逸品である。
「ふおぉぉぉぉぉぉっ、なーんかカワイイのんんんんっ!」
「コロコロしたデザインが絶妙でございます!」
「用事が済みましたら、是非一つ下賜をお願いいたします!」
……えーと。メイドたちも含め女性陣にも好評のデザインだな。
さすがは一時代、日本の夏を風流に演出したシロモノだ。
わざわざ形状を変化球で表現したが、それはコレが俺独自のデザインとは呼べないから。
……まぁ、直球で言ってしまえば、〈蚊取り豚〉である。正式名称は〈
ただ四足獣(?)のデザインは非常に便利だったので、ついついそのまま、ゴーレムとして再現してしまったりした。
“効率のみを追求した……”?
ふはははっ、それは噓だ。でもパクるのが楽だったとは口が裂けても公言はせんっ。
ちなみに、内蔵する魔道具の形状は無意味にも渦巻き状のアレである。
煙は出すが、別に本体が燃えてるわけでは無い。
また小細工の範疇だが、本物のように帯状の煙で終わらないよう、本体の周囲に万遍なく煙の領域が作られるよう空気の対流がおきるようにもしてある。
試しに作った一体を俺たちに先行して前進させてるが、問題無くダンジョンの悲鳴は届いてきている。俺の脳内にだけだがな。
「コマンドにも登録したなー……〈
なんか物凄ーく罰当たりな雰囲気がヒシヒシと。
……いや、気にしたら負けだ。
というか中味を乳香のモデルにしなくて良かった。したらもう弁解の余地もねぇ。
とりあえずコマンド選択で数を増やす。作成素材としてアイテムボックスからガンガン消費されてるようだが、下手に売りにも出せないもんなんだから惜しくもない。
最後に、トコトコと歩み去る蚊取り豚にリースベルたちの視線が固定してるんで、足下にも一体、用も無いが共に移動させた。
空洞の身体でどうやって“ぶもーぅ”と鳴くのかは知らんが微妙に耳障りだ。
修正したいが、一度魔法コマンドに登録するとそんな小さな部分の修正すら面倒という……。
でもまぁ、とりあえず。
これで全部の階を一斉に浄化の目処も立つ。
すっかり居ない者扱いのゾンビやスケルトンも出る傍からメイドが倒すし、煙に触れれば逃げるか崩れるかするし、これで手間無くこのダンジョンの始末は……
「あれ、なんか忘れてるか?」
……っ、ああ、思い出した。
行方不明の神官も探さんといかんかった。
……って、もしかしてヤバいか? 無差別に放った蚊取り豚で人知れず浄化されて消えてる……とかのオチは無いよな?
もしそうなると、結局城内全部歩き回って証拠が残ってないかの確認が必要な……悪魔の証明っぽい状況になるんだが?
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