03 ヤンチャな嗜みと付属物

 白詰草とタバコの葉と茎を選り分ける。

 場所はブツがブツなので敷地の人目の着かないところと指示を出したとこを確保した。

 なんとなく牧場を連想できる場所である。馬車用の荷馬が放牧した感じに寛いでるし、近くにある小屋はヤギを飼ってるものらしい。ここのヤギが出した乳は別宅のシチューやチーズの素材ということ。そんな自家製素材があった事に少し驚いた。


「……ああ、そういや白詰草クローバーは普通に牧草でもあったか」


 運び込んだ物を確認した誰かが家畜の飼料とでも思ったのかもしれない。

 選別はするつもりだが、家畜にタバコは食わせたくはないので白詰草は焼却の予定だ。


「……と思ったが、何だありゃ?」

「〈ラト・ミリーア〉ですね。家畜化した魔物になります。元々の形態は〈アルミラージ〉となります」


 アルミラージは知っている。中型犬サイズで額から一角の角を伸ばしたウサギの魔物、地域によっちゃゴブリンよりも上位な、見た目の可愛さを裏切る獰猛な肉食ウサギになる。

 何故ウサギに角付きというデザインの由来は知らない。某国民的RPGの魔物として知ったくらいのもんだしな。


 しかしラト・ミリーアと呼ばれた状態は……正直、普通のウサギと区別が付かないな。角は無いし体毛は白黒の牛柄模様だし、なによりサイズが手乗りだ。


「ラト・ミリーアは古代語で“使い魔”を指す言葉になります。太古の時代、アルミラージから使い魔を作り出した魔術士たちからの引用ということです」


 詳細を聞くとアルミラージは何処にでも湧く魔物なんだが、人が生活の場とした環境で湧く場合、大きく劣化した形が普通となり魔物としての特性も無くすに至ったのがこの形態らしい。

 ラト・ミリーアの状態だと食性も草食化し、性格も温厚臆病へと変わる。

 しかし主食となる目新しい草などを見つけると、時にこうして人の前にも現われる。

 どうやらラト・ミリーアにとって、まだ枯れきってない白詰草は好奇心の対象らしい……な?


「というか、臆病? なんか警戒心の欠片も無いように見えるんだが?」


 山と積まれた白詰草に群がるラト・ミリーアの群れ。

 何処から湧いて出たという数だ。一心不乱にショリショリと小気味良い咀嚼音の合唱状況。

 試しに近くのラト・ミリーアの襟首を摘まんで持ち上げるが、暴れる気配も無く短い前足で抱えた草をショリショリ口を動かし食い続けている。


「時折物陰から観察する分には非常に警戒心の高い反応なのですが……」


 と、珍しくメイドも困惑した態度だな。

 というか隠れてラト・ミリーアウォッチングとかしてるのか、このメイド。


「ラト・ミリーアに気取られない隠密性を獲得するのはメイドの嗜みなのでございます」

「キリっとした態度で言っても意味不明だからな」


 ……まぁ、なんだ。

 よくよく見ればこのラト・ミリーア。選別の目を逃れたタバコ関係は避けて白詰草のみを捕食対象にしてるらしい。魔物ならばヤギに食われて事故を起こすよりは良いと判断し放置の方針にした。

 一匹だけ捕獲してみて、ついつい、その柔こい体毛を撫でて愛でてしまうが、成程、額のとこには確かに角の痕跡みたいな硬質さが残っていた。感触としては魚の目というかカサブタのようなもので、もしかしたらアルミラージの角はサイの角と同様に硬質化した皮膚のようなものなのかもしれない。

 ……まぁ、観察は今度にしてと、適当に愛でたら白詰草の山に戻す。


「……あれ?」


 戻した側から何故かピョンとひと跳び。

 俺の右腕の袖に全身で貼り付いてきたという。


「なぁ、何処が臆病なんだ?」

「理由は解りませんが、懐かれましたね、ウザイン様」


 まさか野生に帰ったかの確認のつもりで、左手で白詰草を一つまみ口元にやってみる。

 フンフンと草と指先に鼻を向け動かすと、ショリショリと食事再開。

 とりあえず肉食に回帰したということじゃ無いらしい。


「まぁ、邪魔にならんなら良いか。一応観察はしてて危険そうなら排除を頼む」

「承りました」


 暗殺……もとい隠密行動に長けたメイドならラト・ミリーアが危険な気配を見せた瞬間に処理するだろう。例え俺とゼロ距離で密着する対象だとしても。

 メイドっていったい何なんだろうとも思うが今さらだ。

 うちのメイド隊はこんなもん。


 ……そのうちタマネギ型のカツラと眼鏡とかユニフォームに追加したろうかと思ったが、なんかヤバそうな気配を感じたので考えるのは止めた。



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