第7章 15 待ちぼうけ
18時半―
「ヒルダ様、只今戻りました」
カミラが仕事から帰ってきた。
「お帰りなさい、カミラ」
エプロンをしめたヒルダがリビングから顔を出してきた。部屋の中には美味しそうな料理の匂いが漂っている。
「何だか良い匂いがしますね。何を作られたのですか?」
「あのね、今夜は寒いからシチューを作ったの。お野菜と鶏肉がたっぷりはいっているから美味しく出来たわ」
「それは楽しみですね。では着替えてきますね」
「ええ、器によそって待っているわ」
カミラは部屋に着替えに行った時に思った。
今夜のヒルダ様はどこか幸せそうに見えると―。
「ヒルダ様。人参も甘くて美味しいですし、鶏肉もよい味が出ていますね」
カミラがヒルダの手作りシチューを食べながら言った。
「本当?ありがとう。褒めてもらえて嬉しいわ」
「…」
少しの間、カミラはヒルダの様子を伺っていたが…思い切って尋ねることにした。
「ヒルダ様。何か良いことでもありましたか?今日はエドガー様とお出かけされたのですよね?」
「え、ええ…その事なのだけど…実は…」
ヒルダは本日あった事をカミラに報告した。エドガーに愛を告白されたことを。恋人になってもらえないかと言われたことを。
「そんな事があったのですか…?それで何とお返事をされたのですか?」
「それが咄嗟の事で…すぐに返事をすることが出来なかったの。明日返事をすることになっているのだけど…」
ヒルダの頬が少し赤く染まる。
「もしかすると…」
「実はお兄様からの告白…受けようかと思っているの…」
「そうなのですか…ヒルダ様もようやく決心されたのですね?」
「ええ、私のことをそこまで思ってくれているのなら…気持ちに応えたいと思って…。ルドルフはもう…二度と帰って来ない人だし…」
「エドガー様はヒルダ様の事を本当に好きでいらっしゃいますから、きっと幸せにしてくださると思いますよ?」
「ええ、そうね…」
その後も2人は食事と会話を楽しみ…夜は更けていった―。
*****
翌日―
カミラが仕事に行った後、ヒルダはエドガーが来るまでの間に洗濯や掃除、全てを終わらせた。そしてエドガーの為にクッキーも焼き上げた。
「お兄様、遅いわ…」
ヒルダは壁に掛けた時計を見た。時刻は12時半になろうとしている。
「約束の時間は11時だったのに…。何故、まだいらっしゃらないのかしら…」
その時―
コンコンコン
部屋の中にドアノッカーの音が響き渡った。
「お兄様だわっ!」
ヒルダは立ち上がり、壁に手を置きながら玄関へ向かうと笑顔で扉を開けた。
「お待ちしておりました…え?」
ヒルダは扉を開けて驚いた。何とそこに立っていたのはノワールだった。ノワールは慌ててやってきたのだろうか…肩で息をしている。
「ヒルダ…」
荒い息を吐きながらヒルダを見下ろすノワール。
「ノ、ノワール様…?一体どうされたのですか…?」
するとノワールは悲しげに顔を歪めると言った。
「ヒルダ…。エドガーは…もう多分二度とここには来ない…」
「え…?」
その言葉にヒルダは息を飲んだ―。
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