第6章 2 現れた人物

「おいっ!今…なんて言ったっ?!」


気づけばエドガーはトビアスの襟首を掴んでいた。


「よ、よせよ…エドガー…」


「今の言葉をもう一度言ってみろ…」


エドガーはヒルダの足の事を言われて、すっかり頭に血が上っていた。しかし、周囲の視線が自分達に集中している事に気付き、手を離すと言った。


「ヒルダには近付くな…」


トビアスは乱れた襟元を直しながらエドガーに言った。


「何だよ…去年といい、今年といい…ヒルダの話になると過剰に反応しやがって…あ、お前…ひょっとして…」


「何だ…?」


エドガーはジロリとトビアスを睨みつけた。


「ひょっとしてお前…義理の妹の事を…」


トビアスが言いかけた時―。


「お兄様…?」


背後からヒルダの声が聞こえた。


「ヒルダ…ッ!」


エドガーはヒルダを振り返った。


(何てタイミングが悪いんだっ!)


すると案の定、トビアスが目の色を変えてヒルダを見つめていた。


「ヒルダ…何故、ここへ来たんだ?」


少々冷たい言い方にヒルダは一瞬肩がピクリと動いた。


「あ…ご、ごめんなさい…。お母様がパーティーのお客様達に挨拶があるから、席を外すように言われて…それで…心細かったのでお兄様を探していたのです」


「ヒルダ…」


何ともいじらしい事を言うヒルダに思わずエドガーの胸が熱くなる。その時―。


「始めまして、ヒルダ・フィールズ嬢ですね?私はトビアス・クルーと申します。貴女と同じ伯爵家の者です」


ヒルダは突然話しかけられ、驚きながらも挨拶をした。


「始めまして。ヒルダ・フィールズと申します。本日はパーティーに出席して頂き、ありがとうございます」


ドレスの裾をつまんで挨拶するヒルダにトビアスは言った。


「いいえ、このパーティーに出席することが出来て、本当に光栄です。何故ならこんなに美しい女性にお会いする事が出来たのですから」


「え…?」


トビアスがヒルダに近づいた時…。


「必要以上にヒルダに接近するな」


エドガーがトビアスの前に立ちはだかった。


「…何ですか?エドガーお兄様?私は今貴女の妹君と話をしているのですよ?無粋な真似はしないで頂けませんか?」


明らかに挑発する言い方にエドガーの苛立ちが募る。


(トビアスめ…俺がヒルダを好きなことに気付いて…わざとこんな態度を取っているんだな…!)


本当なら追い払ってやりたいところだが、今夜は年に1度のクリスマスパーティー。この様なおめでたい席で揉め事を起こすわけにはいかなかった。


「エドガーお兄様、貴方の妹君とお話をする時間を頂けますよね?」


言いながら上目遣いにエドガーを見る。


「…っ!」


「お兄様…私なら大丈夫ですから…いいですよ。お話くらいでしたら…」


ヒルダはエドガーの様子がおかしい事に気付き、何とかその場を取り繕うとしたその時―。


「おい、そこの君…。俺のヒルダに手を出さないでもらえるか?」


ヒルダの背後で声が聞こえた。


「あ…っ!」


その人物を見たエドガーが目を見開く。そこに現れたのはノワールだったのだ。


「ノワール様…」


(まさか…ノワール様が来るなんて…!それに俺のヒルダに…とはどういう意味なの…?)



一方のエドガーもノワールの言葉にショックを受けていた。


(兄さん…まさか、兄さんもヒルダの事を…?)


一方のノワールは口元に笑みを浮かべながら…冷たい視線でトビアスを見ていた―。

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