第5章 1 冬の朝の会話

 季節は12月になっていた。



「お早う、カミラ。今朝は随分寒いわね」


着替えを済ませたヒルダはリビングへ来ると、すでに薪ストーブの上では鍋がぐつぐつ煮込まれていた。


「おはようございます、ヒルダ様。今日はひょっとすると雪が降るかもしれないそうですよ」


カミラが笑みを浮かべながら言う。


「まぁ、そうだったのね。どうりで寒いと思ったわ」


「すぐに朝食になりますので、椅子に掛けてお待ち下さい」


カミラに言われてヒルダは食卓の椅子に腰かけた。するとカミラは薪ストーブの上にかけて置いたケトルのお湯を紅茶の茶葉に注ぎ入れた。途端に蒸気と共に紅茶の良い香りが部屋の中に漂う。


「どうぞ、ヒルダ様」


「ありがとう」


ヒルダは笑みを浮かべてカミラに礼を言った。


「カミラの今日の予定はどうなっているの?」


「はい、今日は午前11時から18時までフランシスさんの御両親のレストランで厨房の仕事が入っています」


「そうなの…?でもカミラ。そんなに無理に働かなくても良いのじゃないの?お父様からお給料は出ているのだから」


するとカミラが答えた。


「ええ。確かにそうですが、そうすると日中する事が無くて暇になってしまうのです。元々じっとしているのが苦手な性分なので、外に働きに出ているのが性分に合っているのですよ。そういうヒルダ様こそ、週末はアレン先生の診療所でアルバイトをされているではありませんか」


テーブルの上に料理を並べながらカミラが言う。


「ええ、でも今のは大学が忙しくて週に2階しかアルバイトに入れないのだけど」


「それでも長期休暇の時はほぼ毎日今はアルバイトに入られていますよね?」


料理を並べ終えたカミラがヒルダの向かい側の席に座った。


「ええ、そうね。仕送りも頂いているけれど…なるべく自分の働いたお金で賄えるようになりたいから。それに…」


ヒルダの脳裏にエドガーの事が頭をよぎった。エドガーがエレノアと結婚したことによって巨額の持参金を貰え、濃厚器具や肥料の開発が進んで少しずつ『カウベリー』が潤って来ているのは事実だった。その事はハリスからの手紙で知らされていた。だが、エドガーの犠牲で得たお金で生活するのは気が引けたのだ


「それに?」


カミラが首を傾げる。


「いいえ、何でもないの。気にしないで」


ヒルダはそれだけ言うと紅茶に口を付ける。


(そうよ…フィールズ家が…『カウベリー』が潤ってきたのは、全てお兄様の犠牲の上で成り立っているのだから…)



****


「このお料理…すごく美味しいわね。何て料理なの?」


ヒルダは皿の上に乗せられたパンをナイフとフォークで切り分けながら尋ねた。


「はい、これはパンペルデュというそうです。アレン先生に教えていただたいのですが、古くて硬くなったパンを牛乳、卵、お砂糖を溶いたものに浸して、フライパンにバターをひいて両面こんがりと焼いた料理なのですよ。あ、それでヒルダ様…あの、今年のクリスマスの件なのですが…」


「ええ、知ってるわ。アレン先生とデートなのでしょう?先生からも聞いているわ」


「は、はい。そうなのですが…」


カミラは少しだけ頬を染めると言った。


「申し訳ございません」


「何故謝るの?」


「え?それはクリスマスにヒルダ様と過ごせない事です」


「そんな事気にしないで?大体カミラとアレン先生は婚約者同士じゃないの」


そう、カミラとアレンはあれからも交流を続け…何時しか2人は恋仲になり、先月ついに婚約する事になったのだ。しかし結婚はまだ先で、ヒルダが大学卒業後に結婚する事で話がまとまっている。それはカミラが望んだ事だったのだ。


「私の事は気にしないでアレン先生とのクリスマスを楽しんでね?」


ヒルダは笑みを浮かべてカミラに言った―。

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