第4章 11 怒りのデイビット

「お兄様…やっぱり迷惑でしたか…?」


ヒルダはじっとエドガーを見つめながら尋ねた。


「い、いや。そうじゃ無いんだ…。本心を言えば本当はずっとヒルダに会いたいと思っていたんだ。だが…」


エドガーはここで言葉を飲みこんだ。ここから先の言葉は決して言えない。言えば余計にヒルダを困らせるだけなのは分り切っていたからだ。


(そうだ…言えるはずは無いんだ。ヒルダに会えば恋慕の気持ちが強くなって…一度でも触れれば二度と放したくないと思うなんて…言えるはずは…!」


エドガーは拳を握りしめ、自分の気持ちを無理に抑え込むと言った。


「取りあえず…早く買い物をして帰ろう。皆が心配するからな」


エドガーは笑みを浮かべるとヒルダに言った。


「はい」


ヒルダも笑みを浮かべて返事をしたが、その心は晴れなかった。


(お兄様…あの後、何を言おうとしていたのですか…?)



****



 ヒルダとエドガーが頼まれた買い物は玉ねぎとパプリカにベーコンだった。買い物の最中…ヒルダは大学生活の様子話した。本当は大学へ行けなかったエドガーの前で学生生活を語るのはどうかと思ったのだが、そこはエドガーのたつての願いであったから断ることも出来ずにヒルダは学生生活の話をした。そしてそれらの話をエドガーは優しい笑みを浮かべながら楽し気に聞いていた―。



 ヒルダとエドガーがハミルトン家に戻ってくると何やら険悪な雰囲気が漂っていた。


「おや?どうしたんだろう…?」


エドガーが眉を潜めた。


「え、ええ…そうですね…」



ヒルダも首を傾げた。


「とにかく行ってみよう」


「はい」


エドガーに促され、ヒルダもエドガーの後ろからついて行った―。



「兄さんたち…一体どうしたんだい?」


エドガーは近寄りながら声を掛けるとその場にいた全員がこちらを振り向いた。そして全員の視線がヒルダに集中する。その瞳は…とても冷たいものだった。

その瞬間、ヒルダは悟った。


(きっと…私がヒルダ・フィールズだと言う事が分ってしまったのね…)



「おい、エドガー。離れるんだ。その女はヒルダ・フィールズなんだろう?」


デイビットはエドガーに言った。


「兄さん…そんな言い方はやめてくれないか?」


エドガーはヒルダを守るように前に立ちはだかった。その様子を見たデイビットは次に忌々し気にノワールを見た。


「ノワール!何故フィールズ家の人間を我が家に連れて来たんだ!この女はハミルトン家の疫病神なんだよ!」


するとデイビットの妻、ローラが口を挟んできた。


「あなた…流石にそれは言い過ぎよ。ヒルダが悪いわけじゃないでしょう?」


「ローラ、お前は黙っていてくれ。これはハミルトン家とフィールズ家の問題だ。そうだろう?父さん。母さん」


デイビットは両親に同意を求める。


「あ、ああ…そうだな…。ハリスは我々を騙したんだからな…」


しかし、その顔は何処か苦悩に満ちていた。


「母さんだってそう思うだろう?!」


デイビットは次に母親に同意を求める。


「え、ええ。そうね…」


母親はためらいがちに返事をした。


「兄さん。俺はエドガーの為にヒルダを連れて来ただけなんだ。何もそれほどまでにイライラする事は無いだろう?もう2人は…カウベリーで会う事は出来ないんだからな」


ノワールは兄の苛立ちも気にせずに飄々と話す。


「だからと言って…この屋敷にあの疫病神を入れさせるなっ!」


デイビットの言葉はヒルダの胸に深く刺さった。その時―。


「ヒルダを傷つけるような言い方はしないでくれ!」


エドガーが叫んだ―。



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